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第37話 お前の相手は俺だ

 ツインヘッドトロールは、二つある頭を同時にスタン状態にしなければ、身体の動きを止めることができない。

 ただしそれが成功したときには、10秒もの間、身動きを封じることが可能だ。


 この間にできる限りHPを削ってやろうと、俺たちは猛攻を仕掛けた。


「〈ヒール〉!」


 さらに【僧侶】の治癒魔法で、恐らくすでに半分以下にまで割り込んでいただろう【騎士】のHPが回復していく。


「「オアアアアアッ!!」」

「スタンが解けた! もう一度さっきの陣形に戻れ!」


 ツインヘッドトロールが復活すると、すぐにまた先ほどまでの戦い方へ。


「〈シャドウバインド〉っ!」

「「ッ!?」」

「よっしゃあ、入ったぞおおおおっ!」


 俺が指示した通り【黒剣士】が愚直に繰り返していた〈シャドウバインド〉が、ツインヘッドトロールに効いたようだ。


〈シャドウバインド〉の効果時間は30秒。

 俺たちは再びツインヘッドトロールを勢いよく攻め立てる。


「「オアアアアアッ!!」」

「影縛りが解けた! だがHPは残り少ないはずだ! 集中を切らさず仕留め切るぞ!」

「「「おおっ!」」」


 だがそのときだった。

 今まで片方ずつ〈咆哮〉を放っていたツインヘッドトロールの双頭が、同時に大口を開けたのだ。


「まずい、〈二重咆哮〉だっ! 全員、背中を向けてできるだけその場から離れろっ!」


 叫びながら俺自身も踵を返して、全速力で走る。

〈逃げ足〉スキルのお陰で一気に距離を取ったところで、背後から凄まじい轟声が襲い掛かってきた。


「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」


 双頭が同時に咆哮を放つ〈二重咆哮〉。

 その凶悪な効果は、ただの〈咆哮〉の比ではない。


「よしっ……なんとか俺は「怯え」を免れたか……」


 自分の身体がちゃんと動くことを確認して安堵の息を吐きつつ、すぐに振り返って状況を確認する。


「い、今のはやば過ぎでしょ……」

「「あ、あ、あ……」」


 咄嗟に岩の後ろに隠れた【弓士】は無事だが、【僧侶】と【黒剣士】は「怯え」を喰らってしまったようだ。

 そして――


「ぐ……」


【騎士】もまた、『怯え』の状態異常に侵されていた。

 あれだけの至近距離から〈二重咆哮〉を浴びせられては、〈イミュニティ〉と〈鋼の精神〉の二重の防御壁ですら防ぐことができなかったようだ。


「「オアアアアアッ!!」」


 ツインヘッドトロールは、すぐに棍棒を振り回して【騎士】に躍りかかる。

 いくらHPと防御値の高い【騎士】であろうと、無防備な状態で棍棒の一撃をもらったらただでは済まないだろう。


 作戦の要ともいえる【騎士】がやられるのは非常に厳しい。

 しかしこの事態を、俺が想定していないはずがない。


「〈ファイアアロー〉」


 俺が放った炎の矢がツインヘッドトロールの背中を焼く。

 すると動きを止め、こちらを振り返った。


「お前の相手は俺だ、このウスノロ」

「「オアアアアアッ!!」」


 ツインヘッドトロールは俺の挑発にあっさり乗ってきた。

【騎士】を放置し、こちらに迫ってくる。


 トロール種は基本的に知能が低く、最後に攻撃した相手の方に条件反射的に襲いかかるのだ。

 これは脳が二つもあるツインヘッドトロールも例外ではない。


「けどっ、盾役じゃなければ引きつけておくのも簡単じゃないわよ!?」

「心配無用だ。〈超集中〉」


 ツインヘッドトロールが豪快に振り回す棍棒を、俺は時間が引き延ばされた世界で危なげなく回避していく。

 まともに喰らったらヤバいが、喰らわなければ何の問題もない。


「紙一重で躱し続けてる!? どんな反応速度してるのよ!?」


 そうこうしている間に【騎士】が「怯え」から復活してきた。


「〈シールドバッシュ〉っ!」

「「~~~~ッ!?」」


 背後からの不意打ちに、ツインヘッドトロールの意識が再び【騎士】に向く。


「〈シャドウバインド〉っ!」

「「ッ!?」」

「よし、また入ったぜ!」


 同じく「怯え」から復活していた【黒剣士】の影縛りが再度成功し、ツインヘッドトロールが動きを止める。

 30秒間もの無防備タイムの間に、ガンガンHPを削り――


「「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」


 ついには断末魔の叫びと共に、ツインヘッドトロールが光の粒子となって消失した。


「や、やったわああああっ! これで生きて帰れる……っ!」

「倒した……レベル80のユニークモンスターを……」

「最後の見たか!? 俺様の〈シャドウバインド〉のお陰だよな!?」


 喜びの声を響かせる冒険者たち。


「いやそれがなくても普通に倒せてたでしょ! どう考えても彼のお陰よ! ありがとう、あなたは命の恩人だわ!」


【弓士】が目を輝かせ、俺に礼を言ってくる。


「か、彼を見つけてきた私も褒められてしかるべきだと思いますっ! きっと私の日ごろの行いを見て、神様が導いてくださったんですよ! ……ハッ!?」


 誇らしげに自己主張した【僧侶】だったが、そこで何かを思い出したらしく、急に顔が青ざめていった。


「どうしたのよ?」

「そ、そういえば……約束してたんでした……」

「約束? 誰と何を?」

「助けてもらう代わりに……5000万ゴルド、払いますって……」

「「「5000万!?」」」


 ――称号〈モンスタールームからの生還者〉を獲得しました。


―――――――――

〈モンスタールームからの生還者〉モンスタールームから無事に生還した者を讃える称号。モンスタールームに長く滞在するほどステータスが上昇していく。

―――――――――



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