聖なる夜をいとし子たちと
その後・・・。
暖炉に燃える温かな火を、ゆったりとした椅子に座ってデビッドは眺めていた。
三日前にやっとベッドから起き上がれるようになったので、クリスマスに何とか間に合ったと胸をなでおろしている。サンタクロースがインフルエンザで家に来られなくなったと知ったら子ども達が悲しむだろう。
セーラの弾くピアノの調べが隣の部屋から聞こえてきている。
また新しい曲が出来上がったようだ。
今度の曲はアップテンポの曲だな。知り合いの歌手「M2」に頼まれた曲かもしれない。
デビッドは聞こえてくる曲のリズムに合わせて、トントンと座っている椅子のひじ掛けを叩いた。
明るくていい曲だ。M2はイメージチェンジでもするのかな?
妹のエミリーの幼馴染であるマリカ・モローは職業学校を中退してM2という歌手になった。
デビッドは子どもの頃マリカともよく一緒に遊んでいたので、マリカがお色気ムンムンの歌手になった時にはびっくりした。
一番身近にいた女性があんなに女を秘めていたとは全然気づいていなかったのだ。
「小さい頃はあなたに憧れてたんですよ。」
そんなことをこっそりと打ち明けられたこともある。
今になってはいい思い出だが。
驚くのはそんなマリカが、今、映画俳優のクロード・ベネットと付き合っているということだ。
クロード・ベネットは本名をライオネル・カドガンと言って、こいつもエミリーの同級生だ。彼はセーラがずっと出産で世話になっているストランド中央病院の病院長ドクター・マーフィー・カドガンの息子でもある。
おじい様が亡くなった時にはこのドクター・マーフィーにも世話になった。
「エバンジェリンに会いたいんだから、延命措置はしないでくれ。」というおじい様の頼みを尊重して、静かに看取ってくれたことには感謝している。
あの日あの病院に連れて行ったのが、セーラとの初めての出会いだったな。
居間の大きな窓の外を見ると、あのクリスマスの夜のように静かに雪が降っている。
雪だるまと間違えてしまったあの日のセーラの姿を思い浮かべるたびにギュッと心臓を掴まれるような気がする。
彼女に出会えたことを神に感謝します。
何度目かのデビッドの感謝を知っているように、雪は優しくクレイボーン邸の庭に積もっていった。
「かあさまっ! もうツリーに飾りをつけてもいい?」
小学校の入学を来秋に控えたDJのはしゃいだ声が聞こえる。
「お父様に聞いてらっしゃい。」
セーラも作曲の仕事の手を止めて、やんちゃ坊主たちの相手をしてやっているようだ。
「DJったら、屋根裏から飾りを降ろしてきちゃったのよっ。とうさまに聞いてからって言ったのにー。」
長女のエディスのおませな声もする。
「あらあら、DJはストランドのおじい様に似ちゃったのね。」
DJは先のサマー子爵、今のストランド伯爵のお気に入りだ。
3歳の時にスキーをはかせてみたら、もとオリンピック選手だったレオポルド・サマー・ストランドに負けない無謀な滑りを見せたのだ。
それ以来、アル兄さまのところの双子の片割れキッドと一緒に、冬にはおじい様にスキーを習っている。
幼稚園に入った時に「デイビーは嫌だっ! 赤ちゃんみたいだもん。DJって呼んで。」と言われた時には寂しさを感じたが、自分にも覚えがあることなので、それ以来デイビーのことをDJと呼んでいる。
廊下から音がして、DJと3歳のエディス、そして愛する妻がハイハイを始めた末っ子のトビーを抱いて、デビッドのいる部屋へ入って来た。
4人の姿を見て、デビッドは胸が詰まるような幸福感を感じた。
家族…聖なる夜が与えてくれたかけがえのないもの。
デビッドは立ち上がり、子ども達に向かって大きく両手を広げた。
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