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第87話 帝都脱出

「…さて、何から話したものか」


「おう、そんな勿体ぶらなくていいぜ、姉ちゃん。『魔法』の事を知ってるんだ。それだけで俺様と話しをする価値はあると思うぜ」


「ああ、そうだね。じゃあ率直に聞くが、あんた()魔法が使えるのかい?」


「はは、ズバッときたな。……半分正解で、半分外れだ。魔法の仕組みは理解してる。魔術も使える。だが、魔法を使う事は出来ない。それで分かるか?」


「ああ、なんとなく、ね。物を媒体にして発動するのが魔術。媒体がなくても発動できるのが魔法。あんたは媒体なしで()()を発動できる。そんな感じかい?」


「驚いたな。そこまで正確に理解できるものか。そう、その通り。俺様は媒体なしで魔術を発動できる。出来るように見える、が正解かな。さっきの鍵を開けた魔術、どうやったかわかるかい?」


「おそらく、水と氷の魔術ってところ、かな。何を媒体にしたかは分からないけどね」


「んお、流石だな。そう、水と氷の魔術だ。水を出して鍵の中を這わせ固める。即席の鍵の出来上がりだ。言うのは簡単だがな、やってみると難しいんだぜ、これ。媒体は俺様の爪だ。爪に限らず髪でも服でもなんでもいいんだがな」


「二つ以上の魔術を組み合わせるのはかなり高等な技術だ。流石だね。それを爪を媒体にして発動させるなんて、噂と違わない人だ。その爪は、切り離してるのかい?」


「ああ、そうだ。一回指に生えたままやったら酷い目にあったからな。まさかそこまで気付くか。まあ、話してれば分かるけどよ、あんた使えるんだろ? 魔法」


「……さあ、どうだろうね。あんたと変わらない程度だと思うよ」


「ははは! 俺様と変わらねえってか! 言うじゃねえか。これでも人生の半分は魔術と魔法の研究につぎ込んできたんだがなぁ! んで、そんな大天才の姉ちゃんがこの俺様に聞きたい事ってなんだよ。あんたに何か一つ教える事が出来れば、俺様はあんたより上だって証明できるからな。なんでも聞いてくれ」


「別に天才なんかじゃない。こう見えてもそれなりに歳もとってるし、私も人生の大半を魔術に捧げてきたのさ。お互い様だよ。じゃあ遠慮なく聞こう──」






 ◆◆◆◆◆






 クラリスとルイスの話は、声は聞こえるが何を言っているかまでは分からなかった。


 僕とアレクは牢屋に残されたまま、二人の話が終わるのを悶々としながら待っている。次第にアレクが壁を見たり、伸びをしてみたりと忙しなく動き始めた。


「……何で笑いながら俺を見ているんだ」


「え? うそ、僕笑ってた?」


「ああ。気持ち悪い顔で笑いながら俺の事を見ていた。何か言いたい事でもあるのか」


「あー、そっか、ごめんね。いや、アレクでも慌てたりそわそわしたりするんだなーって思ったらちょっと気が緩んでたのかも」


「……そうか、それは済まなかった。俺もまだまだ精進が足りないな。さっきもルイス殿に経験が足りないと諭されたばかりだったな。もう少し落ち着かないと」


「うん、でも気持ちは分かるよ。僕等の目的が、目指していた物がもう目の前にあるんだもん。本当は話を一番に聞きたいのはアレクだよね、きっと。とりあえず、今はクラリスを信じて待ってみようよ」




 ああ、と小さい声で呟いて、アレクは再び目と閉じて座った。


 それからどれくらい経っただろうか。


 二人の話は続いていた様だが、段々と声が小さくなり、遂には聞こえなくなった。


 一度だけルイスの驚いた声が聞こえ、その直後にはクラリスが隣の部屋の鍵を開け、僕等の牢屋の前に立っていた。


「だいぶ待たせてしまったかな。もう終わったよ」



 そう言いながら僕等の牢屋の鍵を開けて入ってくるクラリス。それはさっきルイスが使っていた魔術と同じように見えた。



「クラリスも、鍵を開けられたの?」


「さっきね、ルイス殿に教わったんだよ。どうだい、中々のものだろう?」




 そう言って笑顔を向けてくるクラリスはいたずらっ子の様だったが、きっとそれだけでは終わらないはずだ。



「それで、僕等が求めていたモノは、聞けたの……?」



 僕の問いに、眼を真っすぐ見つめて頷くクラリス。だがその表情はなんとなく曇っている様に見えた。


「聞けたし、分かった。この続きはここを出てからちゃんと伝える。それまで待ってて」



 いつになく真剣な表情のクラリスに、僕もアレクもただ黙って頷く事しか出来なかった。





 ◆◆◆◆◆◆






 その日の晩、僕等はこっそりと牢屋を抜け出した。


 没収された装備は何処からかクラリスが見つけてきてくれて、部屋が暗くなった頃僕等は三人で静かに外へ出る。


 息を殺し、地面との摩擦をなるべくなくすように足をゆっくりおろす。


 少し離れた所で振り返れば、僕等が囚われていた所は周りに何もない塔の様なところだった。


「ルイスさんは一緒にこなくて良かったの?」


「ああ、彼はまだやり残した事があるそうだ。殺される心配はないらしいから、しばらくあそこで情報を集めるみたいだよ」


 まあ確かにいつでも逃げられるんだろうし、わざわざさらいにいったルイスさんを殺す事もないだろう。一体何の情報を集めるつもりなんだろうか。


「……それでクラリス。このまま何処まで逃げるつもりなんだ。いつまでも逃げ続けられる事も出来ないだろう」


「それはそうだね。大丈夫、ちゃんと考えてある。まずは一回馬車のところまで戻ろうか。最低限の荷物が欲しい」




 そうだ、僕達は宿に泊まる為に両替をしようとしてこんな事になったんだ。


 果たして僕等が乗ってきた馬車は無事にあそこにあるんだろうか。


 音を殺しながら、それでも出来るだけ早く僕等は宿に戻った。





 ◆◆◆◆◆






 僕等が捕らえられていたのは首都内のはずれだったようだ。来たばかりで方向感覚はないが、少ない手がかりを元に宿まで静かに走る。


 牢屋を出てから三十分、なんとか辿り着いた宿には昼間のままに僕等の馬車が置かれていた。馬小屋の番には申し訳ないが眠って貰い、急いで馬車に乗り込むとそのまま僕等は城壁に向かった。



「城壁は、夜間の開放をしないだろう。どうするんだ」


「そこは黄金色の出番だろう。所詮この世は金次第、だと思うよ、私は」



 一つ溜息をつくと、アレクはそのまま馬車を走らせる。案の定城壁で止められるが、門番の二人に対し何も言わせない程の金貨を握らせると、意外な程にあっさりと城門は開放された。


「どこの国にも訳ありの人間はいて、それが高貴な身分の時もある。門兵に出来るのはせいぜい静かに素早く門を開ける事だけさ」



 まあ確かにアレクは、自国内では高貴な身分だ。帝国の貴族を知らないけど、なんとなくアレクみたいな人もいるんだろうな。


 そんな事を考えながら帝国の首都を後にする。滞在日数僅か一日足らず。


 異文化交流も観光名所も廻る事なく出てきてしまった。




 だけど。


 そんな短い時間でも、僕等は目的を成し遂げる事が出来た。ルイスに出会い、エリスを生き返らせる術を見つけたのだ!


 帝国の首都が遠くに見える様になった頃、街道の脇道に馬車を進めて三人で額を突き合わせる。




「クラリス。ルイスさんとの話を教えてくれる?」


「ああ。私達はこれから、魔界に行く」





 突然のクラリスの発言に、またしても僕とアレクは言葉を失い茫然とするしか出来なかった。

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