第75話 アルタール村
僕等の旅に四人が加わってから一週間が経った。
三人の時よりも時間はかかったが、それでも当初予定していた行程通りくらいにはアルタール村に着く事が出来そうだった。
村にたどり着く前の最後の晩。
皆で火を囲み食事を摂る。ミレとトニーが道中で狩ってきた獲物は、解体し干して保存食にしてある。そのほとんどを使用し、最後に豪華な夕食を作る事になった。
「はい。残った分は貴方達に返すよ。しっかり干してあるけど、この時期は腐りやすいからね。食べるときは注意するんだよ」
クラリスが残った肉を二人に返す。
ミレとトニーは旅の途中は大活躍だった。主に食糧採取にだが。
道端に生えている食用の草や野生の動物を見つけては捉えるという事を繰り返し、僕等が食糧確保に困る事はなかった。
だが、肝心の道案内についてはからっきしだ。ミレは口伝は良く知っていたし、どこにあるという事は知っていたが、方角が分からなかった。
トニーについてはそれすら危うい。そもそも滅多にしゃべらないし。
それでもまあ、なんとか無事にたどり着けたのは、元々この場所を目指していた事もそうだし、一緒に来てくれたスケルトンの二人の存在が大きい。なんせアンデッドなもんだから寝なくていいし、夜のうちの戦闘力は僕等よりも高い。
魔物の襲撃も一度や二度じゃなかったが、この二人がその全てを退けてくれていたのだ。
「ボンさん、バーンブさん、ここまで一緒に来て貰って本当にありがとうございました。お二人のおかげで無事にたどり着く事が出来そうです」
「んや、構わんよ。君らの力だったらワシらなんぞいなくても無事にたどり着けただろうさ」
「それに、私達と普通に接してくれる人間は久しぶりだった。私達の方こそ礼を言いたいくらいだ」
このスケルトン達はなんとも心温まるスケルトンだった。出来る事ならば他の魔物ともこうして心を通わせたいものだ。
……しかしそれは無理なことだろう。同じ人間という種族でさえも争いになるのだ。
種族が違うという事はそれだけで並大抵の努力では埋まらない溝を作ってしまう。
ボンやバーンブの様に心を通わす事が出来る魔物がいる方が奇跡的なのだ。
この出会いを無駄にはしたくないな。
こうして7人での最後の晩は更けていった。
◆◆◆◆◆
間もなくアルタール村が見えてくる。
村の全体が見渡せる丘に馬車を止め、4人とはここでお別れだ。
「今迄世話になったな。達者でな」
一番偉そうに言ったのはミレだった。確かに世話をした気がする……。
トニーは相変わらず何も喋らなかったが、スケルトンの二人はそれぞれ丁寧に話をしてくれた。
「君らはワシらを邪険にせず、丁寧に付き合ってくれた。こいつらとはまた違う、本当の意味での友達かも知れん。近くに来るようだったら顔を出すといい。何もないが、また魔物の真髄を教えてやろう」
ニヤリと笑った様な感じにボンが喋る。
「ボン様の言う通りだ。久方ぶりの人間との会話、とても面白かった。是非また近くにきたら声を掛けてくれ。ミレ達はやかましいからすぐに見つけられるだろう。待っているぞ」
真面目そうに話すバーンブ。この二人は対照的ではあったが、きっと良いコンビなんだろう。
骨の手としっかり握手を交わし、僕等は分かれた。ここで振り向いちゃいけない。
旅とは別れの繰り返しなのだ。僕等は僕等の目的の為に真っすぐ進むべきなのだ。
名残惜しい気持ちをぐっと堪えて、僕達は前に進み続ける。
遠くから見えていたアルタール村がもう目の前に見える様になった時、それは感じた。
「ねえ、なんか村がおかしくない?」
思わず僕は口にする。きっと二人も同じ様に感じていただろう。
何がおかしいか、はっきり分かるわけではない。建物が燃えている訳でもないし、人が死んでいる訳でもない。
ただ違和感だけははっきりと感じる。この違和感の正体はなんなんだ……。
三人で目配せをして、急いで村に向かう。
……やはりおかしい。
もう僕達は村の目の前まで来ている。それも見たこともない様な豪華な馬車でだ。
普通なら村の前には門番代わりの男達が立っているものだし、馬車が来た日には村人総出で出て来たっておかしくない。実際僕の村ではそうだった。
総出とは言わないまでも、これだけ豪華な馬車が来たのであれば村のある程度偉い人間が様子を見に来るだろう。
だけど、誰もいない。門番代わりの男はいないし、村から人が出てくる事もない。
……そもそも、もうこの村には人がいないのかも知れない。
ついこの間、ノルンの町が魔物に壊滅させられたという話を聞いたばかりだ。もしかしてこの村も……。
村の入り口を表す、門代わりの木に馬を括り付ける。邪魔にならぬように馬車を端に寄せ、三人共臨戦態勢にてゆっくりと村の中へ入っていった。
……緊張する。ここまで来て人を見かけないんだから、やっぱりこの村では何かが起こったのだ。魔物の群れに襲われたのか、野盗の餌食にされたのか。
どちらにしろ、その残党にいきなり襲われる事もある。
最大限に警戒をして、一歩ずつ進むと、ふと人の気配が現れる。
──敵か、味方か。
「誰だ!」
野太い男の声で誰何され、柄を握る手に力が入る。
ゆっくりと振り向くと、そこには全身ボロボロでいたる所から血が滲んでいる男が、今にも倒れそうな様子でこちらを睨みつけていた。




