第68話 第一章エピローグ 渦巻く陰謀
暗く冷たい部屋に、男達の声が静かに響き渡る。
「何故だ。どうして王都で混乱が起きぬのだ」
「はっ。これはどうやら作戦が失敗したと思われます」
「そんな事は分かっておる! 何故失敗をしたのかと聞いているのだ!」
「……申し訳ありません。呪いの剣を適合者へ持たせるところまでは確認出来ております。その後、適合者が暴れ始めるはずだったのですが、途中でぱったりとその痕跡が消えました。その原因については現在調査中でございます」
青白い肌をした男は、もう一人の男にうやうやしく頭を下げる。
その男は玉座と見間違う程の大きさの椅子に座り、今にもひっくり返りそうな程にふんぞり返っている。
「くそっ、どいつもこいつも使えん奴等だ! そちらは引き続き調査しておけ。今後我らの障害になる様なものがあれば実力で排除せよ。ブロス! ここに来い!」
今度は闇から音もなくもう一人の男が現れる。椅子の男の前で片膝をつき、頭を垂れる。
「ブロス、参りました」
ブロスと名乗った男は、真っ赤な髪に赤い肌をした、角の生えた男だった。
「王都の混乱はこれ以上望めぬ。ブロス、あの計画はどうなっておる」
「はい。現在進捗率で8割程かと。理論は完成しておりますが、その適合者がおりませぬ。その者さえ見つかれば完成は目前で御座います」
「そうか。ならばそちらの方が早そうだな。イル! 貴様は引き続き王都での工作に専念せよ。失敗は許されぬ、分かっておるな?」
「はっ、畏まりました」
イルと呼ばれた青白い男は、返事をするなりその姿を暗闇に溶かして消えた。
「ブロス。貴様も早く適合者を探すのだ。人手が足りなければゲーデに話せ。使える者は誰でも使うがよい。任せたぞ」
「はっ!」
ブロスも音もなく暗闇の姿を紛れさせ、消える。
そうして、暗い部屋には玉座に座った一人の男が残された。
「ふぅ。中々どうして、上手くいかぬものよの。だが、だからこそ面白い。必ずや手に入れて見せる」
「もちろん、私にもそれを見せてくださるのよね?」
「……悪趣味だな、ジーニャー。誰が入っていいと言った」
「もうっ、最初からいるのは分かっていたくせに。イブリス様の覇業、一番近くで見せてくださいませ」
「ふっ、まあいいだろう。お前の働きも期待しておるぞ」
「もちろんですわぁ。イブリス様の為に身を粉にして働きますわぁ」
そう言うと、ジーニャーと呼ばれた女の身体は一瞬で煙になり、宙を舞う。その煙が部屋中に充満し、甘美な香りを周囲に漂わせた。
『覇業の為には英気を養う必要がありますわぁ。イブリス様、どうぞこの私めにお任せくださいませ』
煙から直接響く声に返事をする事もなく、イブリスはその目を静かに閉じる。
煙は瞬く間にイブリスの全身を包み込み、外界から遮断する。
渦巻く欲望は、均衡が保たれたこの世界に果たして何をもたらそうとしているのか。
今はまだ誰も知る事は出来なかった。
これにて本当に第一章が完結です。
第二章からは新たな展開になる予定ですので、今後とも是非ぜひよろしくお願いします。




