第67話 旅立ちの日に
第一章完結になります。
「父上、お話があります」
そういって俺は父に声を掛ける。もう、多分気付いているのだろう。ここしばらくずっと家をあけ、頼まれた剣術指導も行っていない。そして、久しぶりに現れたと思ったら、右腕が枯れ枝の様になっているし、毎日来ていたエリスがいなくなっている。
全ての原因は分からなくても、俺が何か普通ではない事に巻き込まれているのは分かるだろう。
俺の言葉を聞き、黙って自分の部屋へと招き入れてくれた。
「アレクよ。聞きたい事は色々とある。だがお前は話があると言った。まずはお前の言葉を聞かせて貰おう」
父の態度は冗談など一切許す気はない、それだけ張り詰めた空気をこの場にもたらしていた。
「……父上。まずは謝罪を。この度この王都で起きた連続猟奇殺人。これの犯人は私です」
父は眼だけを大きく開いたが、それ以外は微動だにせず、俺を見据えてくる。一言、他はと告げて話を促してきた。
「はい、それとエリスが亡くなりました。人を殺めた経緯はこれになります。エリスは奴等のくだらない謀略の末、殺された。私はそれが許せなかった。なので、エリスを殺した奴等を全員殺しました。それが全てです」
今度は目を閉じ、深く息を吐く。しばしの沈黙の後、父が目を再び開き問いかけてきた。
「分かった。それと、その右腕はどうした」
「……これは」
「それは、『呪い』に侵されたのではないか?」
「……はい、その通りです。うかつにも呪いの剣を手にしてしまい、結果こうなりました」
「呪いの剣だと? それをどこで手に入れたのだ」
父は今日初めて驚いた様子で聞き返してくる。一瞬俺もたじろいだが、慌てずゆっくりと聞かれた事に答える。エリスの事、呪いの剣の事、人を次々に殺していった事。
父は俺の言葉を噛みしめて聞いている様だ。そして俺が話終わると、大きな溜息を一つつき、おもむろに立ち上がる。ゆっくりと近づいてきたと思ったら、俺の肩をその大きな手で強く、優しく包んだ。
「アレク。お前のしでかした事を私は見逃す訳にはいかない。私が見逃してしまえばこの王都の秩序に綻びが生まれてしまう。私は近衛騎士団長という立場でお前を断罪しなくてはならない。だがっ……」
「父上……」
「だが、一人の男として、またお前の父親として、大切な人を失った悲しみは痛いくらいに分かる。エリス君を失う事が、お前にとってどういう意味があるのか。私がお前を失う事はどういう意味を持つのか。そして、今回お前に殺された者の遺族が何を思うか。それを忘れてくれるな」
言いながら父は強く、息が苦しくなるくらい強く抱きしめた。
幼い頃に憧れたその背中が、もう手に届く場所まできた。きたつもりだった。
だがその背中は、どうやらまだまだ遠くにあった様だ。
ゆっくりと腕の力が緩まり、再び正面で向き合う。
「アレクよ。お前はこれからどうするのだ」
「父上。私は、本来であれば今回の件で責任を取って自首すべきだと思っております。しかし、私は今自首する訳にはいかない。私はエリスを生き返らせる、その手段を探す旅に出ようと思っております」
父は俺の言葉に怪訝そうに眉をしかめ、俺の目を覗きこむ。だがここで目を逸らす訳にはいかない。俺は俺の信じる事を父に信じさせなければならないのだ。
「……分かった、本気なんだな。エリス君が生き返るという事。そして家を出るという事は」
「はい、その通りです」
「そうか、ならばもう何も言うまい。私はお前を処罰せねばならぬ。だが一人の親として、生きていて欲しいとも思う。だからアレクよ。お前は今日ここで死ぬのだ。今日この日をもってアレク=フォン=フリューゲルは死んだのだ。もうお前は何者でもない、ただのアレクという一人の男だ。それが分かったら、二度とこの家の敷居を跨ぐな。次に顔を合わせた時、その時は父ではなく、一人の騎士としてお前と対峙する事になるだろう」
「父上、それは──」
「出ていけ」
「ですが──」
「聞こえなかったのか? 出ていけ。ここでお前とは縁を切る。さらばだアレク。……元気でな」
そう言って俺に背を向けた父は、もう振り返る事はなかった。
物心ついた頃から憧れたその背中。もう決して触れ合う事はないだろう。だけど、最後に父の残した温もりが俺の胸の中をゆっくりと確実に満たしていった。
「……あ、ありがとう、ございました。父さん……」
喉の奥からそれだけを絞り出し、俺は父の部屋を出ていく。
父さんは最後まで俺の父さんであった。あり続けてくれた。俺はもう、退くべき道を持たぬ人間だ。せめて父から教わった誇りだけは失わぬよう、これからを生きていくだけだ。
手早く荷物をまとめ、生まれてからずっと過ごしてきた家を出ていく。
もう、俺に迷いはなかった。
◆◆◆◆◆
「あ、きたきた。おーい」
僕は遠くに見えるその姿に大きく手を振る。そんな事をするべきではないのかも知れないが、何故だかそうせずにはいられなかった。
その姿が顔立ち迄はっきりと分かるほど近くなった時、その人物はやっと口を開いた。
「待たせたな」
「いや、待ってないよ。私達はずっとここにいただけだ」
ゆっくりと現れた人物──アレク──は、ふっと頬を緩めると今までにないすっきりした顔で笑いかけてきた。
「ああ、それでこそ俺の友達だ。さあ、準備は出来た。行こう、俺達の旅へ」
爽やかな笑顔に似合わない、痛々しい右腕をそっと伸ばして僕達を誘って来る。
これからの旅はどんな事が待ち受けているか分からない。
だけど、それでも僕達は進むと決めたのだ。大切なもう一人の友達を取り戻す為に。
大丈夫、この3人ならきっと上手くいくさ。そう信じて、僕も一歩足を踏み出す。
「……ところで、二人ともどこに行くか分かってるのかい?」
そんなクラリスの言葉に、二人揃って足を止める。振り向くと、やはり優しい笑顔で微笑んでいるクラリスが見えた。
「二人とも、しょうがないね。どれ、おねえさんが旅というものを教えてあげよう。今度は私についてくるように」
そう言って進もうとした反対側へ進んでいくクラリス。
アレクと二人、慌てて追いかけるがもちろんすぐに追いついた。
大丈夫、やっぱりこの3人なら上手くいくさ。
僕は今度こそ旅の成功を確信して、クラリスとアレクと共に歩き始めた。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
これにて長い長い第一章の本編が完結になりました。
後一話、次章に繋がるエピローグがありますのでお付き合い下さいませ。
今後の執筆の励みになりますので、ここまでの感想などありましたら、是非頂きたく思います。
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今後も頑張って書いて参りますので、応援宜しくお願い致します。




