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第50話 策略

更新遅くなってすいません。

「おしっ、じゃあ俺からだ。俺達に自己責任って言うくらいだからよ、おめえが死んでも自己責任でいいんだよな?」


「ほう。自己責任という言葉を知っているのか。中々難しい言葉を知っている。お前みたいな奴の頭にも脳みそは入っていたのだな」


「っ! って、てめぇ! 殺す、殺してやるっ!」




 怒りながら突撃してくる輩の襟元を掴み、脚をかけて勢いをそのままに投げつける。


 グシャという音と共に地面にめり込んだ男は、そのままピクリとも動かない。



「次はどいつだ。さっさとしろ」


 血気盛んな男達は一瞬怯んだが、すぐに勢いを取り戻すとそのまま俺に飛び掛かってくる。


 こんな奴ら何人で来たって問題ない。剣をかわし拳で返す。延々と同じ事の繰り返しだ。








 ──ざっと30人程だろうか。殴る蹴るを繰り返し男達をどんどんと地面に沈めていった。確かに強くはない。だが、流石にこの人数を相手にすると疲れてくる。中には3人同時に飛び掛かってくる奴等もおり、その全てを無傷でかわし続ける事は出来なかった。




「おやおや、アレク殿。こんな奴らを相手にそのザマとは、まさに無様ですねぇ。貴方ともあろう人がまさかこんなものだとは。私はがっかりですよ」


 少しだけ疲弊した俺に、わざとらしくカールが煽ってくる。


 ……くそっ、こんな奴に。だが、確かに今の俺は無様だ。あんなでかい事言ってこんな有象無象を叩き伏せられないなんて!


 無言で睨みつけていると、カールが思わぬ事を口にする。



「これでは貴方に指導は任せられませんね。私が貴方の代わりに剣術指導を出来る人間を探して来ましょう。貴方はせいぜいこの男達の相手でもしていて下さい。何、心配には及びません。ちゃんとアテはありますからね」



 そう告げて、カールは従者を伴い屋敷を出て行った。


 アイツは何を言っているんだ? 他の人間に指導を頼むのであれば俺は不要じゃないか。



 ……だが、目の前の男達は未だに血走った目で俺を睨んでくる。当然このままでは帰れないだろう。


「おい、お前らのボスはどこかに行ってしまったぞ。それでもまだやるのか」



 無言の返事は肯定という事だろう。臨戦態勢を解かぬまま男達は距離を詰めてくる。最後尾には先ほどの隙の無い男もまだ無傷で控えている。


 果たして何の為に俺はここにいて、この男達と戦っているのか。自分のしている事に無意味さに反吐が出るが、だがそうも言っていられない。


 俺は疲れ始めた体に喝を入れ、残りの男達を沈める為に足を進める。



「うおおおおぉぉぉ!」


 腹から声を絞り出し、拳を強く握りしめ、進んだ。










 ……一人、また一人と男達を殴り倒し、そのほとんどは片づけた。まだ何人か立っている者はいたが、既に戦意はなく、俺を遠巻きに見ているだけだった。


 そして、あの男が最後尾から静かに進んで前に出る。

 俺の前に立つと、俺を抉る様に見つめてきた。


「流石はアレクさんです。あの闘技会で優勝したのは間違いないのですね。その身のこなしや的確に急所を突いていく攻撃、それを行う判断力。流石です、憧れます。私はそんな貴方を、倒したいっ……!」




 ──速いっ!



 言いながら剣を振りかざしてくる男は、やはり普通の奴ではなかった。

 只ならぬ踏み込みで一瞬で間を詰めると、俺に肉薄してくる。


「さすが、アレクさんっ! 私の剣をこうも簡単に受け止めるなんてっ!」



 鍔迫り合いから間合いを取りお互いに仕切り直すが、俺は動揺が大きくすぐには切り替えがきかない。速く、重い一撃だった。受けられない者は問答無用で両断されるだろう一撃。


 こいつは何者なんだ。先ほどの男達とは全然違う、ちゃんとした剣術を使う。身なりも整っているし、色んな意味でここでは異質だった。


 そんな俺に構う事なく男は剣で仕掛けてくる。斬る突く払う、剣の使い方を熟知し、しっかりと急所を狙って剣を振るう。



 ……だが、逆にこうなると俺は戦い易かった。

 ちゃんとした剣術だ。淀みない剣線、乱れぬ刃筋。きちんとした型に則り繰り出される連撃は、しっかりと見ていればかわす事も出来る。受け止められない程の重い剣でもない。


 男は休む事なく剣を突き出してくるが、回数を重ねる度に男の癖が露わとなり少し余裕が出てくる。



 ──右、左、右、右。廻って下からの突き。


 男の剣を観察すると、これはギルベルト流剣術の派生だと思われる。基本的な型は同じだが、そこから出される剣が違う。繋がる剣も違う。多少の戸惑いはあれど、戦えない事はない。剣を受け、流し、その隙から俺の剣を叩き込む。



 そうして少しずつ反撃を加える。俺の剣を受けきれなくなった男は一枚、また一枚と皮膚を切らせ、少しずつその服を赤く染めていった。



「どうした。その程度じゃお前も他の奴等と変わらんな」


「はぁっ、はあっ、はぁっ、本当にお強い! 悔しいけどこのままでは私は勝てないですね」



 構えを解き、一度剣を納める。息を整えながら男は、おもむろに服を脱ぎ始めた。


「本気……、というのも少し違いますが、貴方と戦う事に少し遠慮していました。剣を交えてみて、やはり貴方は強かった。私が全力で戦っても勝てないかも知れない。だけど、私が全力で戦うに値する方だ。……今度こそ、その胸、お借りします」



 ただ服を脱いだだけだ。それだけだ。それなのに、突然男が大きく見える。背も、幅も、今まで違う人間と戦っていたのかと思う程に様変わりする。



「よし、行きますっ」



 ──ドカンッ


 男が今まで立っていた場所が土煙を上げる。そして体の芯まで鈍く響く衝撃。


 男の剣を寸での所で食い止めたが、その膂力に圧倒され、少しづつ膝が折れていく。


「……何だ、何をした貴様っ」


「何もしていませんよ。ただ、私の全力を出しただけです」


 遂に押し切られ、たまらず脇に転がり態勢を立て直す。転がる俺に躊躇なく振るわれる剣を何とか避け、そのまま反撃する。しかし、男は一歩下がるだけでかわし、剣は空を切る。



 もう。手加減なんてしている場合じゃない。本気で戦わなければこちらがやられる。

 それだけの危機感を覚える相手だった。


 ハクトの様に器用に動き回る訳じゃない。どちらかといえば父の様な、真っすぐな強い剣。だからこそ本当に強い。




 飛び退り間合いを取る。切っ先を相手の喉元に向け正眼に構える。


 ……ここからだ。



 闘志を燃やし気合を入れる。戦う事が怖い訳じゃない。本気で戦えないで負ける事が怖いのだ。ならば本気で戦え。


「いくぞっ!」


 剣を持つ手に力を込めなおして、俺は男に立ち向かう。









 ──果たしてどれだけの剣を交えたのだろうか。


 俺と男は互角だった。剣も、身体能力も、闘志でさえも。


 何度も打ち続けるうちに、お互いで理解しあう。『決着はつかない』と。


 既に振るう手からは力が失われている。避ける足も踏ん張りが効かない。それでもお互いに致命傷にならないのは、必死の一撃だけは避け続けているからだった。



「はぁ、はぁ、はぁ、強いな貴様。何者だ」


「ふぅ、ふぅ、ふぅ。本気を出しても勝てないのは貴方が初めてです。流石ですアレク殿。残念ですが、決着は無理でしょう。私の負けで構いませんので、剣を納めても宜しいでしょうか」


「良いも悪いも、俺は元々戦う気なんてなかったのだ。勝ちも負けもない。だが、貴様はそれでいいのか?」


「ええ、いいのです。私はアレク殿の強さを知れれば、感じられればそれで良かったのです。ご無礼をお許し下さい」


 剣を納め、突然礼儀正しく振舞う男。本当にこいつは何者なんだ?


「ご挨拶が遅れました。私はルドルフ・フォン・バークレー。バークレー伯爵家の次男であり、カールの弟で御座います。兄共々大変なご迷惑をお掛けして申し訳ありません」



 なんと! あのカールに弟がいたのか。


 いや、貴族なんて兄弟が沢山いても不思議ではない。そうではなくて、あのカールの弟がこんなにも強く、礼儀正しい事に驚いた。



「カール殿の弟か。素直に驚いた。その強さは見事だ。こちらこそ、頭に血が上っていた。アレク・フォン・フリューゲルだ」


「ええ、存じ上げております。お会い出来て、また手合わせ出来て光栄です。今後ともよろしくお願いします」


 そう言って手を差し出してきた。

 握り返すと、とても貴族の者とは思えない厚さをしており、その強さが一朝一夕で獲得したものではないと分かる。


「それで、当のカール殿本人はどこへ行ったのか。そしてこの指導をどの様に考えているのか」


「誠に申し訳ないのですが、分かりかねます。恐らく良からぬ事を考えてると思うのですが……。 そうだと知りつつも、私はアレク殿が来てくれるという事で兄の行動を許容しておりました。申し訳ありません。この責任は私が取りますので」


「よい、ルドルフ殿。貴殿が発案ではない。責任というものは責任者が取るものなのだ。精々しっかりと取ってもらおうか」


「……お気遣い痛み入ります。では今日は解散という事で宜しいでしょうか。こいつらは金で雇われた者達の様ですので、もうこれ以上ご迷惑をお掛けする事はないかと」


「ああ、それで構わない。貴殿も心労が絶えないだろうが、その剣の腕は見事だった。是非また手合わせしよう」



 その場でニコリと笑うと、ルドルフは有象無象の男達の前に立ち解散を告げる。

 何か言いたげな男達ではあったが、今の俺との立ち合いを見た後に反抗する者はいなかっな。





 こうしてバークレー伯爵家で行われた剣術指導は、ほぼ収穫なしでお開きとなった。


 たった一つだけあった収穫は勿論、カールの弟が強く礼儀正しい人間だったと言うことだ。


明日も投稿しますので、応援宜しくお願いします。

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