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第47話 製作依頼

「……やあ、兄さん。久しぶりだね。本当にここまでオレを追いかけてきたのかい?」


 正面に座っているキキは、開口一番そんな事を聞いてきた。


「おい、キキ! 町を救ってくれた恩人になんて口を聞きやがる。もっとちゃんと対応せんか!」


「いえ、かまわないです。お気遣いなく。キキ……さん、久しぶりですね。体、大丈夫ですか?」


 僕の言葉にキキはピクッと反応し目を細める。



「ふーん、なんか知らないけど色々もう知ってるんだね。まぁいいや、あの時の事は今関係ないんでしょ? 兄さんはオレに刀を作って貰いにここに来た、違う?」


 それは言外にあの時の事を聞いたら刀は作らないという事なのだろうか。


「……違わない。僕の使っていた刀は、闘技会の決勝で折れてしまったからね。新しい刀を作って欲しい」


「へえ! いくら僕が未熟とはいえ、あの刀が折れる様な戦いをしたんだ! 兄さん中々やるね。」


「僕が凄いんじゃない、戦った相手が凄かったんだ。……それで、刀は作って貰えるんだろうか」


「うちの親方からちゃんと言われてるよ。造るさ。ただ、お金はかかるよ?」


「もちろんさ。いくらになるんだ?」


「ざっと100万ギル」



「おい、キキ! お前、そんな金額で良い訳ないだろう! お前の武器にそんな価値が──」



 キキの答えに武器屋の工房長が怒り出すが、キキにはそんな声は届いていない様子だった。


「いいだろう、払おう。それで、いつ出来るんだ?」


 即答したのはクラリスだ。100万ギルなんて大金、そんなに直ぐに返事をしていいのだろうか。


「いいだろう、ハクト? この間の魔物討伐で、酒場から報酬はそれなりに貰っている。まだお釣りが来るくらいだよ」


 それは確かにそうだけど、いきなり100万ギルなんて大金を突き付けられて、正直僕には判断がつかなかった。


「そちらのお姉さんは豪気だね。いいよ、なるべく早く造ろう。じゃあ100万、前金で」


「ダメだ。前金は半分、残りの半分は仕上がりを見てからだね」


 僕と工房長を無視して、二人でどんどんと話しを進めていく……。


 ここまで来ると、もう後には引き返せないだろう。僕は今更ながら覚悟を決めた。



「キキ。僕は君の作った刀が好きだ。凄く良い武器だと思っている。お願いだ、僕に、僕だけの刀を作って欲しい」


「……、分かった。オレはまだまだ駆け出しだからね、そこまで言われたのは初めてだよ。いいね、いいよ、悪い気はしない。オレが出来る最高の刀を造ろう」



 ここに来て初めてキキは笑顔を見せた。まだあどけなさの残る少女の様な顔をくしゃりと歪めて、僕にそう約束してくれた。






 ◆◆◆◆◆◆◆






 刀を作る為の破断石ディスパライトは、既に用意されていた。


 どうやら僕が寝込んでいる間に、クラリスが方々走り回って工面してくれたみたいだ。



 見た目は普通の石にしか見えない。これをここから魔力抜きで精錬し、素材を作り、刀にまで仕上げる。


「兄さん、オレがこれだけを造り続けても、2週間はかかるからね。それだけは覚えておいて」


 キキは僕の返事を待たずに作業に取り掛かる。



 煌々と燃え盛る炎の中に破断石を投じる。少しづつ、ゆっくりと。横のふいごで風を送り、炎を躍らせ石を沸かす。


 芯まで熱に侵された石は、そこに含まれる金属をゆっくりと吐き出し、一筋の道を作り、流れ出る。



 これだけの事をキキは黙々と延々と繰り返し、そして一つの大きな塊を創り出した。





「……ふう、なんとか無事にできた。これが刀の元になる破断鋼ディスポートダイトだよ。まあ、まだこれは未完成だけどね」


 まだ熱を帯びたその塊は、少しづつ黒く変色していく。


 ……初めて見た。本当にこんな塊で刀が出来るんだろうか。僕は期待よりも不安が大きくなり、それはキキにも伝わってしまったみたいだ。


「兄さん、オレを信用できないならここでやめるよ」


「いやっ、そんな事はない! ごめん、僕は初めて見たからちょっとこれが刀になるなんて信じられなくて……」


「まあそうだよね。大丈夫、オレを信じてくれ。何なら毎日見に来ればいい。鍛冶師の仕事って奴を見せてあげるよ」







 そうして、言われた通り僕は翌日から毎日キキの元へ通った。


 キキは僕が来ても説明なんてする事はなかった。ただ自分の仕事を黙々とこなしていくだけだ。


 大きな塊を割り、しっかりと吟味する。

 細かく砕いた欠片を一つに纏めて、再び炎の中へと入れる。


 細かな欠片は熱されてやがて一つになり、それをキキが槌で叩き、より強固な物とする。


 叩いて伸ばし、折り返す。何度も、何度も、何度も、何度も。


 気が遠くなる程に同じ作業を繰り返し、気が付けば黒い塊は、鈍色に輝く一つの金属となっていった。



「……。とりあえず、これで破断鋼ディスポートダイトは完成だ。これをここから形にしていくよ。ちょっと、兄さん来て」



 すすで真っ黒に汚れた顔で一つ息をつき、キキは僕を連れて工房の奥へ行く。


 そして一つの棒を渡してきた。


「兄さん、刀の長さはどれくらいがいいんだ? 刀身の幅や重さも言ってくれ」


 どうやらこの棒は、刀の代わりの様だ。渡された棒を振りながら僕は考える。


「……長さとか幅とか良く分からないんだけど、僕は抜刀術で戦いたい。誰よりも速く、相手に斬り込みたい」


「……ああ、そうか、そうだったね。わかった、やってみる。ところで、兄さん大きくなった?」


「え? そう、かな。クラリスにも言われたけど、自分じゃ分からないや。まだ成長はしてるから、背は伸びたかもね」


「……ふーん、まぁいいや。じゃあこれから形を作っていくから。見たかったら見て行ってもいいよ」



 そうしてまた工房へ戻るキキ。鈍色の塊を炎の中に投じ、真っ赤になるまで熱していく。


 取り出した塊を、今度は槌で器用に伸ばしていく。まるで飴細工みたいだ。



 キンッ、キンッ、キンッ



 工房の中にはキキが金属を叩く甲高い音しか響かない。


 その作業は、空気の冷たい朝から店の閉まる時間まで行われた。


 幾日も同じ工程を繰り返し、鈍色の塊はやっと僕が見知った『刀』の形へと姿を変えていく。



「……すごい!」


「はっ、そうかい? まぁこれが鍛治師の仕事って奴だよ。魔力を使って出来るんだったら、もっと早くここまで出来る。でも、この素材は魔力を使えない。それに、刀を造るのはそもそも魔力は使わない。一振り一振り魂を込めて槌を落としていく。じゃないと、刀は刀にならない」


 言いながらキキは刀の形をした金属を見つめる。真剣な眼差しで見つめるその顔は、闘技会で戦った時のキキとはまるで違う。まさに職人と思える表情だった。


 刀の形に仕上げるまで既に7日かかった。キキが最初に言っていた期間の半分が過ぎようとしている。僕は期待が膨らんでいて、一刻も早く刀が欲しくて仕方なかった。




 そうしてキキは最後の工程にかかる。


 出来上がった刀を削り、形を整え、そして土を置く。

 土を塗ったままの刀を再び炉の中に入れて、真っ赤になるまで熱していく。


「ここ一番大切なところだ。これから刀に焼きを入れる。温度が低過ぎてもダメ、熱し過ぎてもダメ、焼き次第で刀の出来が決まる」



 いつも以上に真剣に刀を見つめるキキ。


 ──そして、炉から刀をすっと取り出し、そのまま水に沈める。



「……出来た。どうだい、これが今後兄さんの相棒だ」


 まだ湯気がもうもうと上がっている中、キキは出来上がったばかりの刀を差し出してくる。


 それは厳密にはまだ刀ではない。でも、それを手に取ると、不思議と『これだ』と言う感覚がある。


 ……きっと、この刀は最高の相棒になる。


 期待でもなく思い込みでもない、確信をもって僕はその刀を手にしていた。



「これから研いで磨いて、鞘や柄を作る。だからもう少し時間がかかる。でも、ここで鍛治師としての役目はおしまいさ。兄さん、オレを頼ってくれてありがとう。嬉しかったよ」


 そう言ってキキは僕に頭を下げてきた。


「なんで? なんでキキがお礼を言うの? お礼を言いたいのは僕の方だよ! キキは最高の刀を作ってくれた。大切に使わせて貰うよ。本当にありがとう」


「へへ、そうかい? じゃあお互いに感謝だね。大事に使ってくれよな。それと、相棒にはなんか名前を付けてやった方がいいよ。なんでもいいから、兄さんだけが使える刀として名前をつけてやってくれ」


 静かに頷き、僕はキキと握手を交わす。

 その手は、見た目にそぐわないがっしりとした職人の手だった。




 ◆◆◆◆◆



 その一週間後、遂に僕の刀は出来上がった。

 宿にいる僕に、キキが直接持ってきてくれた。


「待たせたね。でも、その価値はあったと思うよ。オレが作った中では最高の出来だ。品質も、遂にレアまで辿り着けた。まあ素材が大きく寄与してるんだけどね。さあ、受け取ってくれ」


 木箱に入れられた刀を受け取り、そっと蓋を取る。

 そこには今迄使っていたものよりも反りの深い、全体が黒く艶のある刀が納められていた。


 手に取ると、吸い付く様な感覚がして自然と手に馴染む。

 そっと鞘を払う。鞘は頼んで鉄製にして貰った。


 鈍く輝く刀身は僕の顔を写し、綺麗な真っ直ぐの刃文が入っている。大きく造られた切先も、峰に入っている樋も芸術的なまでに美しい。


 これは戦う為の道具だ。それなのに見惚れてしまう。


 僕はその刀を持ったまま、周りに二人がいるのも忘れてずっと見つめ続けていた。


「どう? 気に入った?」


「……うん、うん! 凄いや! ありがとう、本当にありがとうキキ!」


「……どうやら納得いく物が出来たみたいだね。うちのハクトの為にありがとう。これ、残りの代金だ」


 クラリスが黙ってキキに革袋を渡す。渡された革袋をそのまま腰に括り付けるキキ。


「数えなくていいのかい?」


「いいさ。姉さんは騙す気なんてなさそうだからね。まあ、何はともあれ無事に刀が出来上がって良かった。これでこの町からは帰るんだろ?」


「あー、うん、そうだね。そろそろ戻ってまた稼がないといけないかな。結構お金使っちゃったし」


「そうかい。じゃあ兄さん、またな。オレは暫くはこの町にいると思うけど、実はちょっとあの工房長とあわなくてさ。もしかしたら場所変えてるかも。その時はまた探してくれよ。なんかまた兄さんには会える気がするよ。じゃあな」


 そう言ってキキはさっさと帰って行った。



 ……遂に出来た。僕の、僕だけの刀。


 僕は早くこの刀を試したくてウズウズしていた。



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