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第42話 酒場からの依頼

 飛び込んで来た男は、全身血塗れで片腕を押さえていた。床に膝を着き、息も絶え絶え状況を伝える。


「ジンさん、ダメだ。俺達の隊は全滅だ……。いきなり、本当にいきなり奴らは現れて……。なんも出来なかった。みんな散り散りに逃げたけど、多分……」


 そう言って、男は床に倒れ込んだ。体力の限界まで走って走って、そしてここまで辿り着いたのだろうか。床に倒れ込んでピクリとも動かない。


 クラリスがそっと近づき、男の横でしゃがみ込む。


「おい、何を──」


「黙って」


 そう言ってジンを制止し、魔導具の杖をかざす。杖は白く光ると、男の傷をみるみるうちに塞いでいった。


「なんとまぁ……」


 ジンがクラリスの治癒魔術を見て感嘆の息を漏らす。その息が消える頃には、クラリスの治療は完了していた。


「とりあえず怪我は治った。後は体力が回復すれば目を覚ますと思う。どこかで安静にしてあげて」


 クラリスの指示に無言で頷くと、ジンは男を抱えて店の奥へ消えて行った。


「クラリス、あの人は大丈夫だったの?」


「ん。命には別状はない。ただ出血が多過ぎるのと体力の消耗が激しかったんだろう。回復には時間がかかるかもね」



 しばらくすると、ジンが戻ってきた。


「姉ちゃん、すまねえ、助かった。アイツは今朝出てった鉱夫の一人でよ、魔物退治に向かった奴だ。アイツがあんな状況ってことは、マズいな」


 ジンは魔物討伐依頼の内容を教えてくれた。

 現在この町周辺では魔物が大量に出現している。これはさっき聞いた通りだ。でも、鉱夫の人達が退治に行っているとも聞いた。そんな彼らのうちの一人がこんな状況だと、他の鉱夫の人達もマズい状況になっている可能性が高い。


「この町の近くでは、ウルフェンという狼の様な魔物が現れてる。一匹ずつだと大した事ないんだが、狼と同じでたまに群れで出てくる。そうなるともう俺達の手には負えない。後は騎士団に討伐を頼むか、腕に覚えのある奴等に依頼するしかねえ」


 そう言って僕等の事を見てくる。これは果たして──


「私達に魔物の退治を依頼したいという事かい、店主よ」


「……あんたらで倒せるんだったらな。どうだ、やれるのか? 受けられるんなら依頼人は俺だ。滅多にないぜ、こんな事」


「酒場の店主が直接依頼をするなんて滅多にないだろうね。魔物がウルフェンだったら大丈夫さ。だけど、条件次第かな」


「何が望みだ。金ならそれなりに出すぞ。他にもあるのか?」


「まぁ、お金はね。そこそこでいいよ。後は採掘の指導と武器職人に渡りを付けてくれれば、それでいい」


 クラリスの話を吟味するジン。

 クラリスが何を考えてそんな条件を付けたのかは分かる。それ自体はそんなに無茶な話ではないはずだ。この町の人達も魔物を倒さなくちゃ採掘だって出来ないだろうし、武器職人に渡りを付けるのだって酒場で店主をやってるくらいだ。難しくはないだろう。


 ジンは頭の中で何か納得したらしい。覚悟を決めた顔でこちらに話しかける。


「分かった、その二つの条件は酒場の店主として間違いなく引き受けよう。その代わり、成功報酬だ。あんたらが上手くいかなきゃ今の話はなしだ。それでいいな?」


「ああ、勿論さ。じゃあ依頼書を作っておくれよ」


 カウンターに戻り早速依頼書を書き始めるジン。直ぐに書き終わると、僕等に見せてくる。


「これでいいか? 内容は魔物の討伐。基本的にはウルフェンだが、何がいるかは分からない。それは今朝出てった連中が帰ってきたら確認だ。報酬はウルフェン一匹3万ギル。その他の魔物は要相談だ」


「ウルフェン一匹の相場は5万じゃないのかい?」


「勘弁してくれ。魔物がわんさか現れてこの町もそんなに儲かってねえんだ。まずはこれで頼みたい。その他の魔物についてもそんなもんさ」


 クラリスはしばらくジンを見つめた後に、静かにうなずく。本当にこれで良かったんだろうか。


「いつから出発すればいい?」


「今すぐ……と言いたい所だが、討伐隊が帰って来てからだな。情報を確認したい。明日の朝からになると思うが、いいか?」


「そうだろうね、分かったよ。ハクトもいいかい?」


「えっ、あ、うん。大丈夫」


「じゃあ依頼書にサインしてくれ。それで悪いが、夜になったらまた来て欲しい。晩飯くらいサービスするよ」


 代表して僕が依頼書にサインをする。


 その後僕達は一度宿に戻り、作戦会議をする事にした。



「ねえクラリス。正直僕は魔物は怖い。僕でも戦えるだろうか」


「ハクトなら大丈夫。別におだてて言ってる訳じゃないよ。ウルフェンと言う魔物はそんなに強くない、ちょっと大きな狼さ。だから慌てず一匹ずつ仕留めれば問題ない」


「……でも、群れで出てきたって言ってたよ?」


「群れには群れの戦い方がある。勿論単独よりも難易度は上がるけど、ちゃんと戦えれば勝てるさ」


 それに私がいるしね、とは今回クラリスは言わなかった。

 僕だってそんな事は言わせたくない。

 いつまでもクラリスに守られてばっかじゃ、本当の意味では強くなれない。だから今回は何がなんでも僕の力で討伐するんだ。

 静かな決意をクラリスに悟られない様、僕は心の中だけでしっかりと拳を握りしめた。


「じゃあウルフェンの行動について説明するよ──」


 そこからはクラリスからウルフェンという魔物について色々教わる。そうして、魔物への対策が出来た頃にちょうど日が沈み、僕等は改めて酒場へと向かった。

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