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第40話 鉱山都市ノルン

 暗闇から覗く二対の目は、一定の距離を保ったまま動かない。だが、その視線はピクリとも動かずこちらを見据えていた。


 こちらから動くべきなのか、それとも……。



 そんな事を考えていた矢先、相手が先に動き出した!


 二人はバッと勢いよく二手に分かれ左右から挟み込んでくる。一つは大きい影、一つは小さい影。


 その大きい影の方が僕の方へ向かって何かを振りかぶり、そしてそのままの勢いで振り下ろす。咄嗟に剣で受け止めるが、凄まじく重い衝撃を感じ、遂に膝を折ってしまう。


 棍棒の様な物を上からひたすらに力を込めて押し込んでくる。その力は強烈で、折った膝がジワジワと地面にめり込んでいくのが分かる。


「ハクト!」


「あんた、人の心配をしている暇はないんじゃないかい? あんたの相手はアタシだよ!」




 クラリスは僕を心配して声をかけてくるが、それを横から遮る様に小さい方の影が飛び出してくる。小さい影は何かボソボソと声を出したかと思うと、その途端に手元が赤く輝き、やがてそれは炎となった。



炎嵐ファイアストーム!!」



 クラリスに向かって放たれたそれは炎の上級魔術であり、人間なんかは一瞬で炭にしてしまう程の威力を持っている。炎の嵐は轟音をあげてクラリス目掛けて進み続ける。


「クラリスーーーー!!」



 大きい影から地面に押し込まれ続ける中、僕は必死でクラリスの名前を呼ぶ。あんなものをまともに喰らってしまえば、いかなクラリスといえど無事では済まない!


 自分の身に降りかかる危険なんて忘れ、クラリスの元へ駆けつけようとするがこの大きな影が僕を押し込めて離さない!



「……水嵐トレーネ



 そんな僕の心配など全く気にする素振りもなく、クラリスはそっと右手を上げ、杖に魔力を宿す。一言唱え終わった後にはクラリスと炎柱の前に突如として水の塊が現れ、どんどんと炎を飲み込んでいった。そして、あっという間に体積を三倍程に増やすと、遂に全ての炎を飲み込み消してしまった。



「なっ……!!」



 これには僕も含めその場にいる全員が驚き、呆気に取られてしまった。その隙に僕は大きな影を蹴り飛ばし、慌ててクラリスの横に駆け寄る。




「クラリス、大丈夫だった!?」


「ん。ハクト、意外と君は心配性なんだね。私を誰だと思っているんだい」


 暗闇の中でもはっきりとクラリスの顔が見て取れる。そこにはいつもの穏やかな顔で微笑んでいるクラリスがいた。


 クラリスがいつもの通りに微笑んでいる。それだけで僕の心から焦りがすっと消えていくのが分かる。



「あんたが水の魔術を使えるなんて運が良かったね。でもそれもここまでだよ! これでも喰らいな、『氷嵐ヴォルテックスアイス』!!」




 ほっとしたのも束の間、小さい影はまたしても呪文を唱えその手から無数の氷柱が勢いよく飛び出してくる。その数は数えきれないくらい増え、逃げ場等ない程に視界を埋め尽くしてくる。




 ──これは本当にマズい。絶対に避けられない!


 目の前に迫りくる脅威に対し体が竦む。自然と体が強張り無意識で腕で頭を守る。だが、その一瞬後には灼け付く熱さに包まれる事になった。


炎帝グルートリーゼ



 そう唱えたクラリスの杖が、直視できない程に真っ赤に輝く。次の瞬間には紅蓮の炎が視界を書き換え、暴力的な熱風を撒き散らしながら氷柱を一瞬で蒸発させた。




「──っ!!」




 声にならない驚きを上げ、二つの影はそこで固まった。


 畳みかける様に一段低くなったクラリスの声が、二つの影に終わりを告げる。


「お前達はおふざけが過ぎたな。私はハクトとゆっくりしていたいんだ。消え去れ。『浄化シュトラール』」



 高く掲げた杖は、今度は真っ白に輝いた。太陽と見間違える程の輝きを放ち、光は膨張を続ける。そして世界を光で包み切った後、辺りには暗闇が戻ってくる。ゆっくりと目を開けると既に二つの影は消えてなくなっていた。




「……どうなったの?」


「さあ、どうなったんだろうね」



 クラリスは真面目に答えない。これはあの光で相手を消滅させたという事なんだろうか。普段はニコニコとしていて穏やかなクラリスが、たった三つの魔術で二人の相手を消滅させてしまった。


 その笑顔の裏にある実力に恐怖を覚え、僕はクラリスに逆らうのはやめようと心に誓った。








 ◆◆◆◆◆◆





 その日の晩は結局二人で起きていた。先ほどの夜盗の様な者が現れるとは考えにくいが、昂った体はすぐには収まらず、それはクラリスも同様みたいだ。


「クラリスって本当にすごい魔術師なんだね。最後の光の魔術もそうだし、その前の炎の魔術。あんなに強力な魔術は見たことないよ」


「そうかい? 大した事ないよ。まあでも使う人間は少ないかも知れないね。なんせ効率が悪い。ごっそり魔力を持っていかれるんだ。人間を倒すなら魔術じゃなくていい。剣や弓があればそれで倒せるんだ。そこまで魔術に拘る必要はないんだよ」


 なるほど、クラリスの言う事はもっともかも知れない。人間なんて転んで頭をぶつけただけで死んでしまう時もある。だったらあんな大がかりな魔術はいらないのかも知れない。



「でも、今回は必要だから魔術を使ったんだ。相手も驚いていただろう? ああいう相手にはより強力な魔術を見せて驚かせるのが一番面白い」


 そう言ってくつくつと喉を鳴らし笑うクラリス。とても命を狙われた後とは思えない行動だ。一体どこまで本気なのやら……。



「でも、あの二人は何者だったんだろう。一体何を狙って僕らを襲ってきたんだろう」


「さあ、どうだろうね。盗賊のたぐいだとは思うよ。ただ、魔術を使うのは珍しいね。またどこかで会えたら、その時に聞いてみようか」


「えっ!? 生きてるの?」


「ん? 生きてるんじゃないかな。別に私は殺してはいない。最後の光の魔術は、浄化の魔術だ。悪い者は消え去り、心に身に健康を害すモノを浄化する。奴らが本当に悪い者でなければ生きていると思うよ」




 そういう魔術もあるのか。流石は元宮廷魔術師だなぁ。なんて感心したりする。


 そんな話をして、その日の晩は更けていった。






 ◆◆◆◆◆






 そこから馬車でさらに北上を続ける。気温はどんどんと下がっていき、既に服は何枚も重ねて着ている。同じ国内なのにこんなにも気候が違うなんて。



 途中ではクラリスが以前に立ち寄った事があるというハイルの町もあった。ただ、今回は天気が心配だったので残念ながら見送った。帰り道に余裕があれば絶対に寄ると固く心に決める。




 そうして辺りが昼間でも薄暗くなり、空に白い物が混じり始めた頃、僕とクラリスは鉱山都市『ノルン』へと到着した。





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作者が泣いて喜びますので、どうぞ宜しくお願いします!

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