幕間 戦士達の休日(下)
「ハクト!」
ガルフの店を出たところで、また声をかけられた。
またしても闘技会の観客かと、少し緊張した面持ちで振り向けば、そこにはアレクとエリスが普段着の様な格好をして立っていた。
「アレクさんにエリスさん、どうしたんですか? こんなところで」
「それはこちらのセリフだ。お前こそこんなところで何をしているのだ」
アレクとエリスの普段着はなんとなく新鮮だ。騎士服の様なアレクはキリッとして勇ましかったが、私服のアレクはまるで御伽噺の中から出てきた王子様の様だった。
「僕は、闘技会で壊れてしまった刀を直せないものかとこのお店に来てみたんです。あまりいい結果は貰えなかったですけどね」
話しながらなんとなく肩を落としてしまう。そんな僕の様子を見て、アレクとエリスが少し慌てた様に見えたのは気のせいではないだろう。
「あ、あのさ、ハクト君! 私達これからお昼を食べに行くんだけど一緒にどうかな? もちろんクラリスさんも一緒に」
その場を取り繕う様なエリスからの申し出に、僕とクラリスは顔を見合わせて驚く。アレクもなんだか驚いた顔をしている。
でも、クラリスは薄く笑うと、僕に頷いてくる。これは行ってもいいと言う事だろう。
「ええ、是非、喜んで」
こうして、突如2組の男女のペアでの食事会が開かれる事になった。
◆◆◆◆◆
アレク達が案内してくれたのは、住民街の中心にある非常に綺麗で品のある店だった。
「うわぁ〜」
店に似つかわしくない品のない声で思わず感嘆の声を上げてしまい、一人で赤面してしまう。
「そんな畏る必要ないよ。ここの料理は凄く美味しいから、期待しててね」
そんな僕を察してか、エリスが軽めのフォローを入れてくれた。見た目はとてもサバサバしてるのに、とても気の利く人なんだな。僕の中でのエリスの評価が一つ上がった瞬間だった。
店の扉を開けると、ビシッと糊の効いた執事服を纏った人たちが並んでいた。
「いらっしゃいませ、アレク様。エリス様。お待ちしておりました」
どうやら二人はこの店の常連らしい。突如四人での来訪となったが、店側は快くこれを受け入れてくれた。
そうして案内された部屋は、椅子からテーブルまで高価な物だという事だけ分かる部屋だった。ふと横を見ると、クラリスが椅子に触れて何やら頷いている。
「(クラリス、この椅子の価値がわかるの?)」
「(いいや、全然)」
全くの予想外の答えにひっくり返りそうになった。一体何に頷いたんだ。
「二人とも何をしているんだ? さあ、何にするか決めてくれ」
そう言ってメニューを手渡してくるアレク。正直、こんな店に来たこともないので何を頼んでいいのか見当もつかない。
なので、僕達のメニューは二人に任せる事にした。
そうして運ばれてくる様々な料理。どれも見た事のないもので、中にはどうやって食べればいいのか分からない物もある。やっぱり一流の人はこういう物も食べ慣れているんだろうか……。
「では、偶然とは言え二人に出会えた事に、乾杯」
静かにアレクが告げ、食前の葡萄酒を口に付ける。正直酒の味の良し悪しなんて僕には分からない。ただ、そんな僕でも旨味を感じるお酒なのだ。上等な物なのだろう。
「それで、二人はあの店の前で何をしてたんだ?」
「さっき言った通りですよ。僕の刀を修理して貰おうと思ったんですけど、生憎受け付けて貰えませんでした」
「ハクト君の刀、闘技会で壊れちゃったんだよね……。ごめんね! アレクに代わって謝ります!」
「いやいや、エリスさんも謝らないでください。あの大会はそういう大会ですし、武具や防具が壊れるのは承知の上です。僕もアレクさんの膝当を壊してしまいましたし。それに、副賞で代わりになる物も買えるだけの金額も貰いました。ただ、あのお店では今刀がないらしいんですよね……」
そこから僕はあの店の現状を掻い摘んで話をした。店主から話さないでくれと言われているので、少しだけぼやかしてだ。
「そうか、ではハクトは暫く刀を手に入れられないのだな。それだと獲物がなくて困るのではないか? うちにある武器で良ければ何か譲るぞ?」
「いえ、それは大丈夫ですよ。とりあえずあの店からの連絡を待って、その間の武器は今後も予備で使える物を探しますから」
僕の言葉にアレクは小さく頷く。そう言えば、この二人がここにいた理由を聞いていなかった。
「お二人はあそこで何をしてたんですか? デートですか?」
アレクが葡萄酒を吹き出した。エリスはアレクをバシバシ叩きながら、嬉しそうに顔を赤くしている。
「あらあら、ハクト君たら。ボク達がそんな風に見えたのかな? アレクがどうしてもって言うならデートしてあげなくもないけど、今日はちょっとだけ違ったんだよね」
なんだかエリスはクネクネしながらアレクの方を見て言っている。なんだろうか。
「あ、ああ、そうだな。俺達はデートなんてしていない。休暇を取るついでに街中の様子を見に来たのだ。そういえば、ハクトとクラリスさんはどういう関係なのだ?」
アレクがなんとなく話を捻じ曲げてきた気がするが、僕とクラリスの関係を問われて僕は二人の関係を改めて考える。
「僕とクラリスは──」
「ハクトは私のご主人様だ! 私はハクトに養って貰っている。以上」
僕の声に被せてクラリスが答える。その回答にアレクもエリスも目を点にして、鳩が豆鉄砲を喰らったかの様な顔をしていた。そりゃそうだろう、クラリス突然何を言い出すんだ……。
「……あの、そんな事はないですから。最近クラリスはご主人様という単語が気に入っていて、事あるごとに使いたいだけですから」
そして僕はアレクとエリスに今までの経緯を語った。
北の寂れた村から出て王都に来た事。王都にきて初めての依頼で親友を失った事。そしてその最中、クラリスに命を救われた事。
話し終えた時には二人とも神妙な面持ちになり僕達を見つめていた。
「……そっか、ハクト君は大変な思いをしたんだね。でも、だからこそクラリスさんと出会えた。クラリスさんに色々感謝だね」
そう言って、つとめて明るく振る舞うエリス。対照的にアレクはまだ考え込んでいる様だ。そしてゆっくりと口を開く。
「ハクト、お前は何の為に王都に来たのだ?」
「僕は……、剣士に、そして騎士になる為です」
「お前の友達は?」
「鍛治師と薬師になる為」
「そうか……。ならば、ハクト。お前は必ず騎士になれ。お前の友達が叶えられなかった夢。それは今お前に託されているのだ。少なくとも俺ならばそう思う。だから、……頑張れ」
最後は微笑みながらこちらを見つめる。何故かそれは僕の心の奥の、深い所へと真っ直ぐに突き刺さった。
誰かに、応援して貰いたかったのかも知れない。認めて貰いたかったのかも知れない。許されたかったのかも知れない。
それをアレクのただ一言が全てを包み込んだ。
勝手に溢れてくる涙。震え出す唇。
そして、握り締められた拳を、そっと包み込む柔らかな温もり。
もう見なくたって分かる。僕の事を、出会ったその日から支えてくれてた人。助け続けてくれた人が、無言で僕の手を包んでいるのだ。
クラリスと言いアレクと言い、どうしてこうも真っ直ぐなんだろう。エリスもそんな僕達を見て微笑んでくれている。
今日こうして偶然に出会えて、話を出来た事はきっと、ここに居ない彼等からのメッセージだったのだ。
これにて第三部終了です。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
第四部は暫し推敲の後に投稿致しますので、少々お時間を頂ければと思います。
ここまでの物語を楽しんで頂けたのであれば、是非感想や評価、ブックマーク等して頂けると嬉しいです。
今後とも宜しくお願いします。




