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第27話 アレク、男の誇り(上)

すいません、また長くなってしまい上下の二分割です!

 遂に決勝トーナメントが始まる。


 1万人の参加者の中から、上位16人に絞られた。このトーナメントを4回勝ち抜けば優勝だ。



 ……簡単な様に感じる。だが、恐らくそんな事はない。あれだけの予選を勝ち抜いてきた奴らが集まっているし、あの黒髪の少年、ハクトという奴も気になる。


 しかし、どんな相手でも俺は俺で為すべきことをするだけだ。つまり、全力で戦うのだ。




 今日行われる4試合の中で、俺は3試合目に組み込まれていた。対戦相手は直前まで分からないらしい。上等だ、誰が来たって構いやしない。ただ全力でぶつかるだけだ。



 第一試合は両手剣を持った男と、軽装で片手剣を持った男だった。あの軽装の男は、恐らく本選の1ブロックを勝ち抜いた男だ。盗賊の様な身のこなしで相手の攻撃を軽くかわし、的確に急所をついた反撃をする。


 折角なので勝者を予想してみた。両手剣の男も弱くはないのだろうが、あの軽装の男の身のこなしは見事だった。並大抵の攻撃では掠りもしないだろう。なので俺は軽装の男が勝つと思う。この予想が正しければ、俺の眼もそれなりに見えていると言う事になる……かな。



 予選と同じく、開始の合図は鐘の音だった。短い合図と共に戦いが始まる。



 予選の時と違うのは、周りを気にしなくていい事だ。有象無象に戦いを邪魔される事はない。ただ目の前の相手にだけ集中していれば良い。


 二人の戦士はお互いの動きを見ているようだ。どちらが先に仕掛けるのか……。




 先に動いたのは軽装の剣士だった。懐に手を入れ、ナイフを幾つか投げつける。

 両手剣の剣士は危なげなくそれを避けながら、そのうちの一つをなんと剣で打ち返した。


 しかしそこには既に軽装の戦士はおらず、ナイフは風を切りながら彼方へ飛んで行く。


 恐らくナイフを投げた時には移動を始めていたのだろう。軽装の戦士は、その一瞬で相手の背後に移動し、その太腿に細い針の様な物を突き立てる。

 すると、両手剣を持った剣士は体をガクガクと痙攣させ、泡を吹いてその場に倒れ込んだ。



「勝者、ルキーノ!!」


 場内アナウンスが大々的に戦いの勝者を告げる。

 ルキーノと呼ばれた男は特にアピールする事もせず闘技場を去って行った。



「なんか呆気なく終わっちゃったね」


「そう見えるが、それはあのルキーノという男の力が遥か上だったからだ。相手の男だって決して弱くないだろうが、ルキーノのあの動きは圧巻だな」


「もう、それは分かってるよ。ただボクは、こんなお祭りなんだからもっと盛り上がる様な戦いを見たかっただけだよ!」


 べーっと言いながらエリスは舌をだす。


 ……盛り上がる戦いか。確かに、盛り上がりと言う点では今の戦いはイマイチだったかも知れない。

 この闘技会では民衆の普段の憂さを晴らす意味合いもあるのだろう。自分ではとても真似の出来ない、人と人が命を懸けた真剣勝負を観る。手に汗握る戦いを見て心に刺激を与える。だからこそ、ハラハラする戦いを見たいのかも知れない。


 ただ、実際に戦っている人間としてはそれは難しい。

 何せ命が懸かっているのだ。一つの失敗がそのまま死に直結する。魅せたいからと派手な技を使えば、その先に待っているのは確実な死だ。


 相手が遥か格下だとか、絶対に死なない保証があれば別だが、決勝まで来てそんな相手がいる訳がない。エリスの望みは中々叶わなそうだな。



 そんな事を考えているうちに、第二試合が始まる。三試合目で戦う俺はそろそろ準備をしなくてはならない。


「アレク、頑張ってね! 絶対優勝だよ!」


 人の気も知らないでエリスは無責任な事を言う。ただ、そうだな。俺もここは大言を吐いてみるか。


「ああ、任せろ。一瞬で片付けてやる」


 俺のセリフにエリスは目をまん丸にしていた。そしてその直後には爆笑していた。

 まぁ、たまにはこんなのも悪くないだろ。俺は気持ちを切り替えて闘技場に向かった。




 ◆◆◆◆◆




 さあ、いよいよ俺の戦いだ。

 対戦相手は誰であろうと叩き斬る。その決意で会場内に足を踏み入れた。


 決勝トーナメントでは会場中央にリングが用意されている。別にリングから落ちても負けにはならないが、優勢劣勢の判断には使われるのだろう。


 ゆっくりとリング中央を見れば、既に俺の対戦相手が立っていた。

 細い体に肩まである金髪。腰には騎士の物に近いロングソードをぶら下げて、俺の事を凝視している。そして、俺がリングに上るなり、相手から声を掛けてきた。



「お久しぶりですね、アレク殿。ここでこうして相対するのも運命でしょうかね」


 金髪の男は俺に話しかけてくる。が、俺にはすぐに思い出せなかった。見た事あるのは間違いないが、誰だったか……。


「あ、ああ、久しぶりだな。元気にしてたか?」


 とりあえず無難に返してみる。俺の言葉に今度はあちらがいぶかしげな態度を取る。


「元気……? まぁ私は当然心身ともに気力が満ち溢れてますが、貴方にそんな事を言われる間柄ではないでしょう! ふざけてるんですか!」


 少し怒っている様だ。無理もない。何せ俺は覚えていないんだからな。だがどこかで……。あのロングソードやあの言葉遣い、そしてあの目つき……。




 …………あっ!


 あいつはカールだ! 見習い騎士団として第四騎士団に所属していたカールだ。目に余る行動が多すぎて、余りに腹が立ったので記憶から抹消していた。



「ふざけてなどいない、俺は至って真面目だ。カール殿、今日は正々堂々戦おう」


「ふんっ。まぁいいでしょう。正々堂々戦うのは望むところです。ではその前に、その腰から提げている剣をこれと交換をお願いします」


 こいつは何を言っているんだ? 剣士が戦う前に剣を交換するなど聞いた事がない。頭に疑問符が浮かぶ。



「その腰から提げているのは、貴方が騎士団長方々を謀って手に入れた物でしょう。そんな特別な力のある剣で戦って正々堂々なんて良く言えたものですね!」


 本当にこいつは何を言っているんだ。突っ込みどころが多すぎて、何から言えば良いのか分からなくなる。もしやそれが狙いか? 頭が疑問符で埋め尽くされる。



「心配は要りません。この剣は当家で用意した紛れもない逸品です。ご心配ならご自分で確認をしたらいかがです」


 いちいち全てが鼻につく奴だ。そもそも俺は剣を交換するなど言っていないし、この剣を手に入れたのは騎士団長と謀ったからではない。

 だんだんとイライラが募る。だが、戦い前に平常心を失うのは得策ではない。心を落ち着けなければ。


 カールが用意した剣を手に取ってみる。コイツの家で用意したというのが一番怪しい。持ってみた感じでは、勇気の証(ブレイブハート)よりは軽いが、特段変わったところのない普通の鉄剣だ。そう、逸品でもなければ特級でもない普通の剣だ。


 まあいい。前からコイツには腹が立っていたし、こんな奴、棒が一本あれば倒せる。コイツのいう正々堂々を受けてやろうじゃないか。


「ふん。いいだろう。この剣で戦ってやる。負けたからと言って言い訳なんかするなよ、男だったら」


 カールは以前の様に厭らしくニヤリと笑う。


 その瞬間、背筋がゾワっとした。


 ……多分、俺はこいつの事を一生好きにはなれないな。生理的嫌悪感を感じる。そもそもこいつがこの大会の決勝にいる事自体が納得いかない。


 コイツがどんな方法で決勝まで来たのか分からないが、化けの皮を剥がしてやる。精々お前の実力とやらを見せてみろ。



 カールが用意した怪しげな剣を持ち、お互いが構えた所で開始の鐘の音が鳴り響く。



 先に仕掛けてきたのはカールだ。剣を引き摺りながら走ってきて、大振りで上から振り下ろす。まるで隙だらけの攻撃だが、とりあえず避けておく。


 続けてカールは剣を振り回してくる。右に左に、なんとなく形にはなっているが、これだったら剣術を習いたての少年の方がマシだ。当たる気がしない。


 ふむ、これなら出来るかも知れない。エリスの言う、盛り上がる戦いが。



 まさか決勝のトーナメントでこんな奴と戦うとは思っていなかった。だが、折角の機会が訪れたのだ。こいつをダシにして、観客の皆に盛り上がって貰うとするか。


 俺はそう考え、急遽カールの剣を受ける事にした。上段から振られた剣を受け止めると、思ったよりは重かった。



「ははあ! ついにかわしきれなくなりましたね! 今までのは準備運動です。さあ、ここからが私の本領発揮ですよ!」


 そう言ってカールは更に剣を振り回す。一向に速くならない剣速。定まらない剣筋。正直剣士としては落第点だが、これならば死の危険を感じずに相手が出来る。


 カールの剣を時に躱かわし、時に受け、たまに鍔迫り合いをして、実力が拮抗しているかの様に演出をする。

 そんな茶番を暫く続けていたが、カールが遂について来れなくなってしまった。



「はぁ、はぁ、はぁ……。ここまでやるとは正直意外でしたよ。思ったより強いんですね」


 カールは肩で息をしながら俺に声を掛けてくる。褒めてるのか?


「ああ、お前もな。中々の剣筋だ。一瞬でも気を抜けばやられてしまいそうだ」


 とりあえず、もう少しカールには頑張って貰わなくてはならない。少しだけおだてておこう。



「だが、それもここまでです! 喰らえ、不死鳥炎獄バーニングスター!!」


 なんだその恥ずかしい名前は。カールは言いながら剣を振るう。剣の間合いの外で、俺には届かない距離だ。何をしているんだ?


 だが、その答えは直ぐに分かった。


 疑問を持った俺の頭の横を、火球が空気を灼きながら通り抜ける。チリチリと髪の毛が何本か焼け焦げる音がした。



「……何だ、今のは」


「ふふ、ふはは、ふははははっ! アレク殿、いやアレク! お前は知らないだろう。そしてお前の頭では考えも付かないだろう! 私は剣術だけではない。魔術も使えるのだ! それも破格の威力を持ったものをな!! 言うなれば私は魔法騎士だな!!」


 ……確かに今のは魔術だ。破格の威力はなかったが、火球という極初歩の魔術だった。だが、こいつはいつ放ったんだ? 目の前で剣を振っているのは見た。だがそこで魔術が発動した様には思えない。それにこいつから跳んできたのか? 色々理解出来ない事だらけだ。



 そこから、カールの猛攻撃が始まる。

 剣術は相変わらずだが、その合間合間にどこからともなく放たれる魔術が厄介だった。


氷獄嵐ダイヤモンドブルース!」


風雷怒涛ライトニングアンガー!」


 カールが唱える度に剣戟の狭間に魔術が迫り来る。



 ……気が付けば、俺はリングの端に追いやられていた。

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