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第22話 予選開始

やっとファンタジーっぽくなってきました!

 闘技会開催当日。王都はいつもとは違う熱気に満ち溢れていた。


 元々シャルマン王国の王都として、ここフライハイトの人出は非常に多い。だが、今日は見かける人種がまるで違う。


 いつもの行商人や観光客の姿ではなく、いかにも傭兵といった風貌の人間や下手したら盗賊まがいの人間までいそうだ。


 そんな人込みを掻き分けて、僕とクラリスは闘技会開催の地、王都のコロッセウムの前に立つ。


「どう、ハクト? 怖い?」


「怖くなんか……、多分ないよ。きっとこれは武者震いだ」


 僕は嘘をついた。正直、多分ビビってる。


 王都に来て約4か月。人の多さにはそれなりに慣れたし、酒場の依頼を通じて実戦経験も少しだけ積んできた。でも、今回は違う。


 皆戦う為にここに集まっている。それも一人や二人じゃない。下手したら何万人という数の人がこの一か所に集中している。殺気立つ人の群れの様子に怖気付かない訳はない。


 だが、ここで恐れてちゃ始まらない。僕とクラリスはコロッセウムの中に入って行き受付をする。




「はい、これで受付完了です。試験は何にしますか? あ、はい。では番号札をお持ちになって、あちらの試験会場近くでお待ちください」


 受付は本当にあっけなく終わった。それもそうか。これだけの人が闘技会に参加するべく受付をしているのだ。ここで時間を掛けていてはいつまで経っても闘技会は始まらない。


 僕は自分が選んだ敏捷性の試験会場近くで自分の順番を待つ。どうやら敏捷性を選ぶ人は意外と少ないみたいだ。他の筋力や耐久力の会場はもう少し人が多かった様に思える。


「次、2088番の方~」


「は、はい! 僕です!」


 どれくらい待ったのだろうか。突然自分の番号を呼ばれて慌てて試験場へ向かう。



「はい、では番号札を見せて下さい。はい、大丈夫です。これから敏捷性の試験を行います。貴方はあの円に中にいて下さい。周りから10個の石が飛んできますので、それを円から出ずに避けられれば予選クリアです。何か道具を使っても構いません、とにかく石に当たらないで下さい」



 試験官は淡々と告げて試験が始まる。そこには疑問や質問を挟む余地はなかった。


 円に向かいながら僕は考える。とにかくぶつからなければいい。道具を使ってもいい。でもどうやって道具を使って避けるんだ? まさか盾を使って防いでもいいのだろうか。だがそれは敏捷性に関係ないのではないか……



 そんな事を考えていると、突如唸りを上げて石が飛んでくる。元々狙いがそれていたのか、石は僕に当たらずに顔の横を物凄い勢いで通り過ぎていった。



「ハクト、考え事をしている場合じゃないよ! もう始まってる!」


 めずらしくクラリスから激が飛ぶ。そうだ、考え事をしている場合じゃない。ここで失敗したらこの後の本戦に出られない。僕は気を引き締め直して試験に向きなおる。


 どうやら石は何か器具を使って発射されている様だ。前もって聞いていた、人が投げる訳ではないらしい。たまたま器具の調子が悪いのか、飛んできたのは1発だけだったが、他の器具も今まさに放たれんと軋みを上げている。


 そうして1発、また1発と石が飛んでくる。どれも凄い速さだが、単発で飛んでくる分には問題なく避けられる。


 途中、3発程同時に発射された瞬間があり肝を冷やしたが、うち2発は狙いが逸れていた為、1発を躱せば問題なかった。


 こうして、無事に10発の石を避け、予選は通過する事が出来た。





 最終的な予選通過者が決定する迄この試験がひたすらに繰り返されるので、僕はその場で他の参加者を見ている事にした。


 意外と皆避けられない様で、どんどんと石の餌食になっていった。酷い人は顔面に直撃してしまい、そのまま担架に乗せられて医務室へ連れて行かれる人もいたくらいだ。


「意外と皆避けられないんだね。これだったらもしかして僕楽勝なのかな……?」


「君は意外と油断が多いんだね。見てごらん、ハクト。あそこにいる彼は絶対に合格するよ。そして君では敵わないかも知れない」


 クラリスの言った先には、金髪の美丈夫がいた。歳は僕と同じくらいだろうか。騎士の様な服装をしており、腰には立派なロングソードが下げられている。肩口まで伸びた金髪は緩やかにウェーブがかかっており、その見た目は美の神が心血注いで作り上げた彫刻の様だった。



 どうやら彼も敏捷性の試験を受けるらしく、しっかりとした足取りで円の中へ向かっていく。


 ……そして、おもむろに剣を抜いた。



 僕の時と同様に、器具を使って石が発射される。その器具は、今度は調子が良いらしく全ての石が同時に放たれた。


 これは運が悪かったな、と憐みの視線で彼を見ていると、その彼は予想だにしない行動を取る。

 ──つまり、剣で全ての石を切り落としたのだ。


 確かに一つ一つであれば剣で切り落とす事も可能だろう。しかし、彼が切ったのは10個の石だ。それもただの一振りで。


 尋常ではない、神業とも言える剣技を見せられ、試験官共々衆人も沈黙する。


「これで試験は合格でいいのか?」


 彼の質問に、自身の職務を思い出した試験官が慌てて合格を告げる。


 少しだけ笑ったかの様に見えた彼の顔は、世の女性全てが虜になる様な眩しさだった。


「……クラリス、何故彼が合格するって分かったの?」


「ん? ただの勘だよ」


 ……絶対嘘だ。クラリスは何か知っているのだろう。それは彼の強さの秘密に繋がるかも知れない。僕は意地でもクラリスから情報を聞き出そうと努力した。

 そして聞き出せたのは、大して役に立たない情報だった。


「勘は嘘だけど、彼の身のこなしが只者ではなかったからね。あの彼なら石くらい簡単に避けられると思っただけさ。まさか剣で切り落とすとは思ってもみなかったけどね」


 クラリスを持ってしても、剣で切り落とすという行為は普通ではないらしい。

 僕も不合格を覚悟で試してみれば良かったかも知れない。



「どうしたんだい、ハクト。嫉妬かい? 彼の強さか、もしくは彼の美貌にかな? 大丈夫、私はハクト一筋だ」


 こんな時にでもクラリスは僕をからかってくる。別に僕はそんな嫉妬なんかしていない。ただちょっと気になっただけだ。


 敏捷性の試験を粗方見終わると、その足で他の試験会場も見てみた。



 筋力の試験会場はやはり熊みたいな大男が沢山いて、会場全体が興奮とは違う熱気に包まれていた。遠くから見ると湯気が立っている様に見える。



 折角なので近くで見てみると、僕は見たくない顔を見つけてしまう。

 今まさに大岩を持ち上げている男、髭面で頬に大きな傷のある男。



 ……ジェドだった。


 ジェドは、僕と大立ち回りをした後は不思議と酒場に現れなかった。ジルバが出入り禁止にしたのかとも思い尋ねてみたが、そうではないらしい。


 ジルバの情報では、酒場ではない依頼筋からの仕事があり、住み込みで傭兵の真似事をしているとの事だった。


 どちらにしろ、ジェドと顔を合わせない方が僕にも都合が良かったのでそんな事気にもしていなかった。


 大岩を規定の場所に置き、ジェドが試験合格を告げられる。汗を拭いながらこちらに歩いてくると、目ざとく僕の姿を見つけた様で早速絡んできた。



「よう、根性なしの坊主。こんな所で何の用だ? ここにきて一丁前に戦士にでもなったつもりか?」


「あんたの顔なんか見たくなかったけど、それは違うね。僕も試験に合格したよ。本選でぶっ飛ばしてやるから楽しみにしてな」


 僕はなるべく冷静なフリをしてジェドにそう告げる。ジェドの取り巻きが僕の言葉に激発しそうになるのを、意外な事にジェドが宥めた。


「いい、お前らやめろ。おい坊主。この闘技会中は殺しても罪に問われねえ。俺と同じ組に来たら覚悟しておけよ。絶対に生かしてはおかねえからな」


 息が掛かるほど顔を寄せて凄んでくるジェド。3か月前の僕なら怯えて何も言えなかったかも知れない。だが、今は違う。僕だって色々経験して強くなった。


「その言葉、お前がしっかりと覚えておけ。泣いて謝ったって許してやらないからな」


 唾を一つ吐きながらジェド達は立ち去って行った。


 そのやり取りをみながらクラリスが感嘆の声を漏らす。


「ハクトも成長したんだね。あいつに泣かされたらお姉さんが慰めてあげようと思ったのに。本番では負けない様に頑張ろうね」


 そう言うと僕の頭を良い子良い子して撫でてくる。もう僕はそんな子供じゃないんだから、やめて欲しい。でもクラリスの撫でる手はとても心地良く、僕に振り払う事は出来なかった。




 ◆◆◆◆◆



「ねぇねぇアレク、さっき凄い若い子いたね! アレクの試験の前に受かった、黒髪の子。覚えてる?」


「いや、分からないな。そいつがどうしたんだ?」


「もう、アレクって本当に他人に興味ないよね。もう少し他の人にも興味持とうよ……。多分ボクらと歳は近いんじゃないかなぁ」


「逆にお前が他人に興味を持つのは珍しいな。そんなに変わった奴だったのか?」


「変わったって……。なんかアレクって感性ずれてるよね。そうじゃなくて、凄い良い動きしてたなって思ったの。石を避けてただけなんだけど、多分彼は『眼』が良いんだと思うよ。最小限の動きで避けてたからね」


「……そうか。エリスがそう言うのであれば間違いないんだろう」


 俺はそっけない態度でエリスの言葉を無理やり終わらす。


 石を斬るのは簡単だった。エリスの斬撃に比べれば止まって見える。でもそんなエリスが気に掛ける程の奴だ。恐らく相当の使い手なのだろう。出来ればそんな奴とは最後の方まで当たりたくはない。


 そして、こんな気持ちがエリスに見透かされない事を祈りながら俺は会場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ダブル主人公の王道ファンタジーという感じで面白いです。序盤で幼馴染みがいきなりあんなことになってハラハラしてたんですが、普通に立ち直れて良かったです。 [気になる点] これから神話がどう絡…
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