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第96話 意味

 龍と化したクラリスの一撃で、魔王の四天王であったブロスは、塵も残さず消滅した。


『さあ、このまま行こう。皆私の背に乗るのだ』


 龍の姿のまま、クラリスは首を下げた。一瞬戸惑ったが、このまま飛んで行くのだろう。


 僕は構わずそのままクラリスの背に飛び乗った。


 続けて乗りこむアレクとクーベル。


 僕達三人が乗った事を確認して、クラリスの巨体は大空へと舞い上がった。




「す、すごいです。これが天空の覇者、龍族の見る景色なのですね!」


 クーベルはクラリスの背に乗り大空を飛ぶ事に感動している様子だ。


『そうさ。我らはその昔、この空を統べていたのだ。まあ人間界の空だったがね』


「人間界の空を統べる龍族……。クラリス様、貴方はもしかして……。それにギルベルト様の生まれ変わりのアレク様もいらっしゃるし。この世界はもしかして……」


『私が誰であろうと関係ないさ。さあ、そろそろ目的地に辿り着くよ』


 空を飛ぶ龍の速度は、馬や地上を走る竜を遥かに上回る。


 目的地である人間界への門は、既に目の前に見えていた。



 ゆっくりと速度を落とし、門から離れた森の中へ着地する。


 木陰の中に身を隠したクラリスは、そのまま人間の姿へと戻っていった。


「ハクト、私の服を貸してくれないか」


「あ、うん、ごめん」



 クラリスの一糸纏わぬ姿に見蕩れてしまい、僕は一瞬反応が遅れる。

 クラリスを見ない様にとめを逸らして服を渡すが、クラリスはそんな僕に急接近して体を摺り寄せてきた。


「ど、どうしたのさ、クラリス」


 自分の耳が真っ赤になっているであろう事に気付く。ちょっとこれはあまりにも恥ずかしい。


「ふふ、ごめんね。あの姿に戻るとどうしても反動で本能的になってしまうんだ。わざとじゃないよ」


 嘘か本当か分からぬ事を言いながらクラリスが服を着る音が聞こえる。


「仲睦まじい事は結構だが、これからどうするんだ?」


 アレクが真面目な声でクラリスに問いかける。その後ろにはクーベルがしがみついており、端からみればそちらも随分と仲睦まじく見えるよ、アレク。


「うん、仲が良い事は結構だね。このまま、泉に飛び込んで人間界に戻る、それだけさ。人間界に戻ったら眠っているエリスの元へ帰るよ」


 クラリスの言葉にアレクがはっとする。そう、この旅の目的はエリスの復活だ。それがもう目前まで迫っている。


 その事を考えた途端、僕は言いようのない興奮と共に言い知れぬ悪寒を感じていた。


「でも、門となる泉は満月の時じゃないと開かないって……」


「満月には門が大きく開く。その時であれば力の強い魔物が通る事が出来る。という事は、力の弱い魔物や、それこそ人間であれば満月の時でなくても通れるだろう」



 ああ、なるほど。僕が失念していたのかも知れない。いや、でも──


「クラリスは……、通れるの?」


「ふふ、心配ないよ。この姿の時は普通の人間よりちょっと強いくらいだ。だから私も通れる」


「あ、あのぉ。お話中申し訳ありません。なんとなく察してはおりますが、私がここまで来た意味を教えて頂けるとありがたいのですが……」


 クーベルが申し訳なさそうに声を掛けてくる。そういえば、成り行きに成り行きが重なり、問答無用でクーベルをここまで連れてきてしまった。


 未だ彼女には何も説明していなかった事に気付き、今更だがきちんと話をするべきだろう。


「何も言わずにつれてきてしまって済まなかった。君は俺のわがままでここまで連れて来てしまったのだ。申し訳ない。問題はなかっただろうか」


 クーベルの事をまっすぐ見つめてアレクが話す。話しかけられたクーベルの目は、恋する乙女の様だ。


「ええ、問題などありませんわ、ギルベル……アレク様。貴方が行く所であれば例えどこであっても私が進むべき場所です。ただ、私はこの体で魔界から出た事がございません。それで皆さまの足を引っ張らなければ良いのですが……」


「大丈夫だ、俺たちがついている。君はただ一緒に来てくれればそれでいい。そうだろう、クラリス?」


「……ああ、無事についてきてくれれば問題ない」


「わかりましたわ。それで、私がご一緒する目的とは……」


「ああ、実は俺の昔馴染みの女性がいるのだが。……実はちょっとあまり芳しくない状態でな。君の力を借りて、その人を助けたいと思っている」


「私の力ですか……? 聖女と呼ばれたのは遥か昔の事で、今はもう何の力もない一魔族ですが……。でも、ギルベルト様、いえ、アレク様がお望みとあれば昔の力でも何でも、きっと振り絞ってみせます!」


 気合い十分に腕を高く突き上げるクーベル。初めて会った時の印象とはだいぶ違うが、恐らくこちらが本来のクーベルの姿なのだろう。

 僕はその無邪気な姿に好感を覚えた。


「さて、泉に突入する前に少し準備をしたい。私自身の魔力も回復出来ていないから、人間界に戻るのは一晩明けたからにしたいんだが、良いかい?」


「ああ、もちろんだ。クラリスの体調を優先していこう」


「そうだね、この先も何があるか分からない。休める時は休んで、しっかりと備えよう」


 帰還は明日。そう決めた僕たちはなるべく目立たない場所に寝床を作り、明日に備える。

 危機は脱したとはいえ、ここはまだ魔界の中だ。いつ魔族が、もしくは帝国兵が襲ってくるか分からない。

 アレクと僕、クラリスとクーベルと交代で見張りを立てて一先ず寝る事にした。


 クラリスは遅くまで何やらやっていたが、恐らく人間界に帰還する為の準備なんだろう。

 きっとクラリスなら上手くやってくれる、心配ないさ。


 そんな事を考えながら僕は意識を手放した。



 ◆◆◆



「あ、あの、クラリス様。宜しいですか?」


「ああ、なんだい」


「クラリス様は、龍族なんですよね? 私がまだ人間だった頃、その名は大陸まで轟いておりました。でも龍族は……」


「そうだね、龍族は大昔の大戦の時に滅びてしまった。私は生き残りでも末裔でもないよ」


「ではクラリス様は……?」


「君と同じ、だと思うよ」


「なるほど……。じゃあ、愛する人を追ってここまで来たのですねっ!」


「ふふっ、間違いじゃないね。そう、私は愛する人を追ってここまで来たのかも知れない。もう随分長い時間が経ってしまったけどね」


「時間なんて関係ありませんよ。強い縁があれば、いつの日かどこかでちゃんと巡り会える。私はギルベルト様、いえ、アレク様にこうして巡り会う事が出来ました。やっと、やっと念願が叶ったのです」


「……そうか、それは良かったじゃないか。念願、ね。私の願いは、なんだったかな……」



 焚き火を挟んで正面に座るクーベル。

 その純粋な笑顔を、私は真っ直ぐ見つめる事は出来なかった。

いつもお読み頂きありがとうございます。


この話で書きたかった熱い戦いは、文字数の関係で次話に持ち越しになってしまいました。

上手くまとめられずにすいません汗


☆作者からのお願い☆

この物語が面白い、続きが気になると思っていただけましたら、是非ブックマーク登録・☆での評価・感想など頂けると嬉しいです。

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