1.古い記憶と、現状。
天川セイラは中学時代から、その容姿も相まって注目の的だった。
入学直後の俺の耳にも『ヤバい美少女がいる』と、真っ先に飛び込んでくるくらい。同級生のみならず、学校全体に衝撃を与えていたのだ。
最初はそんな噂だけで、姿形は想像せざるを得なかった彼女と対面したのは、入学式から数日が経過した昼休みのこと。
『見ろよ翔平、アレが天川さんだぜ』
『ん……?』
廊下を歩いていると、ミーハーなヲタク仲間がそう言った。
彼の視線の先を追いかけてみると、そこにはちょっとばかりの人だかり。そして、その中心に彼女はいたのだった。
正直に白状すると、思わず息を呑んだ。
まだまだあどけない顔立ちをしてはいたが、目鼻顔立ちはとにかく端正で。真っ白な肌は透き通るように綺麗で、肩ほどまでの黒髪は濡烏の羽のように美しかった。
『な、な? 翔平もさすがに、三次元に興味を持つだろ』
『なんだよそれ。まるで人を痛い奴みたいに』
『違うのか?』
『…………強く否定はできないけど』
そんな友人の馬鹿な話に応えつつ、しかし俺の視線は天川たちが去っていった方に向かっている。そして思ったのは、世の中には本当にいるのだな、ということ。
俗にいう『生まれながらにしての勝ち組』というやつが。
後に聞いた話では、天川の実家は大きな会社の経営をしているのだとか。
『まぁ、俺とは住む世界が違うんだな』
だから、最終的に着地した結論はそれだった。
どこにでもある一般家庭に生まれて、趣味といえばアニメや漫画のサブカルチャーばかり。学業こそ上位だけど、容姿も優れずに自他共に認める根暗な男。
そんな俺から見ると、天川セイラという少女はまさに――。
『――高嶺の花、か』
◆
「あ、あははー……まさか、学部まで同じとはね?」
「………………」
「席まで隣、だし……?」
そんな『高嶺の花』だった彼女はいま、何故か俺の隣の席に座っていた。
俺たちはどうやら、同じ文学部に進学したらしい。そして『芥川』と『天川』という苗字のため、五十音順に並べると指定された席すら隣という事態が発生。
ここまではさすがに天川も想定していなかったのか、気まずそうに視線をあらぬ方向へとやっていた。対して俺は大きくうな垂れて、床ばかりを見ている。
どうしてこうなった。
いや、ホントにどうしてこうなってしまった!?
「…………」
「…………」
黙り込む俺に対して、忙しなくしている天川。
いよいよ言葉すらなくなってしまい、周囲の喧騒とは対照的な静寂が訪れた。だけど俺にとっては、こちらの方が都合がいい。いったん物事を整理する時間が取れるのだし、気取られないように深呼吸を一つ。
そして、牽制する意味合いも込めてこう訊ねてみた。
「……天川、どうしてこの大学に?」
「ひぇ……!? あ、あー……そうだね、えっと――」
すると何故か小さな悲鳴を上げてから、彼女は何やら思案する。
その上で、こう返すのだった。
「その、元々実家がこっちだったから……かな」
「あー……そういえば、中学の時に越してきてたんだっけ……?」
「そ、そういう……こと」
「…………」
「…………」
――で、互いにまた無言。
そういえば天川の実家は元々、都心の方にあるという話があった。親の都合とやらで中学から、俺の地元に引っ越してきていたのだ。それを考えてみれば、この事態や偶然もあり得ないとはいえない、か。
もっとも、その『偶然』は俺にとって最悪、なのだけども。
「あ、式が始まるね」
「……そう、だな」
そう考えていると、入学式開始のアナウンスがあった。
天川はハッとしながらそう言って、俺は深く息をつきながら応える。すると、
「…………え?」
いま、彼女が俺に向けて何かを言った。
しかしその意味や意図を訊ねる暇などなく、会場の空気は張り詰めていく。そして結局、こちらがただ悶々とすることになってしまった。
聞き間違いでなければ、天川はこう言ったのだ。
『また会えて、ホントに良かった』――と。
俺はそれに対して、何も返すことができなかった。
だが思い出されるのは一つ。
――中学時代の忌まわしき記憶。
それをフラッシュバックして、俺は軽く頭を抱えた。
そして、こう誓うのだ。
『もう絶対に、騙されないからな……!?』――と。
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