4話 残り2戦。
4話 残り2戦。
「……何もしてあげられなかった……誕生日プレゼントの一つも買ってあげたことがない……『愛してくれて、ありがとう』の一言すら……だから、せめて……母が、俺に……『愛をもって望んでくれたこと』くらいは……必ず叶えてやる……」
天童のギアが、また一つあがった。
進化は止まらない。
呼吸・反射。
すでに、その領域ですらない。
その向こう側にたどり着いた天童は、
驚くほど軽やかに、華やかに、
死色の戦場で舞い踊る。
――そして、ついにたどりついた、
9998勝目。
ついに残りは2戦。
『まさか、ここまでこられるとは思っていなかった……貴官は本当に素晴らしい……』
「……ぶへぇ……おぇ……」
まったく焦点があっていない目。
ボロボロの肢体。
そんな天童に、
『それでは、本試験における最大の試練といこう』
そんな、耳を疑う声が聞こえた。
『残すは、9999回目と、10000回目の2回。10000回目は、記念戦闘だから、気をはる必要はない。大事な最終決戦はこの9999回目だ。さあ、気合を入れたまえ』
(10000回目は……記念……戦闘……つまり……これが……最後……)
『9999回目は、これまでと趣がガラリとかわる。中隊戦ではなく、純粋なタイマンをしてもらう』
(一対一……ありがたい……そっちの方が楽……)
『相手は、君を除けば、天使候補生の中で最強の彼――智天使候補、安西総一郎!!』
「っ!」
目を見開いて驚く天童の前に、
彼が現れて、
「……『連続10000回の勝利』が『必須』と聞いたときは『絶対に不可能だ』と思ったのだが……天童久寿男大佐……君は素晴らしい。主天使から6人の民間人を守ったと聞いた時も心底から驚かされたが、君は本当に……」
「……か、閣下……」
「さあ、最終決戦といこう。はたして君は、私を乗り越えて、真なる頂に立てるかな。言っておくが、この私は、そう簡単に勝てる相手ではないぞ」
「……」
そこで天童は、全身に力を込めた。
尊敬している先輩の前で、よれた姿は見せられない。
それに、これで最後。
せっかくここまできたんだから、最後の最後くらい、
――『しゃんとしろ』、
そう自分に言い聞かせる。
「……うぉおお……あああああああああっっ!!」
丹田に気合をぶちこんで、
気合の咆哮に包まれた天童。
『残っている力』の全てを結集させて、
召喚した剣をふりかぶる!
ギィインッッ!!
と、刃と刃のはじけあう音が響き渡る。
「ここまできて、まだ、それだけの力が残っているか……君は本当に素晴らしい!」
「うぁああ! ぁああああ!!」
「獣のように振り回している……とみせかけて、狡猾に、私のスキを狙っているな……」
「っ……?!」
「見事だよ、大佐。君は本当に強い……」
「ちぃいっ!!」
――見抜かれて終わり……ではない。
見抜かれることも想定してワナを張っていた。
しかし、安西は、そこまで想定した対処を施していた。
結果、スカされる。
天童の『全て』を、
安西は華麗に受け流す。
流れの中で、天童は歯噛みしながら、心の中で思う。
(……強いっ……とびぬけて優秀だというのは知っているつもりだったが……まさか、ここまで……ほ、本当に、どうして、この人が智天使候補止まりなんだ……っ)
誤解がないように言っておくと、
『智天使候補』という評価を受けた候補生など、
安西以前には一人もいない。
智天使候補というのは、
『智天使スタート』が決まっている者という意味で、
『最終地点が智天使』という意味ではない。
警察で言えば大学卒業後、『副総監』からスタートみたいなもの。
ありえないほどの高評価。
つまり『それ以上の評価』をもらっている天童がおかしいだけ。
安西だって、十分以上に『異質な存在』なのだ。
――闘いの中で、
安西は言う。
「頭が狂うほど……君とのイメージトレーニングにあけくれてきて、よかった……」
(イメトレ……?)
「朝から晩まで……何度も、何度も、私は君と戦い続け……そして、常に負け続けた。負けて、負けて、負け続けた。本当に、生きるのがイヤになるほど、死ぬほど負けた。しかし……負けるたびに、私の中での『VS天童久寿男』の精度はどんどん上がっていった」




