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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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㉖ 『嘘』

 森の中を私達は歩いて村まで戻る。

 一晩だけ家に帰らなかっただけなのに、随分(ずいぶん)と久しぶりに家に帰る気がする。

まぁ、病気で入院したときを除けば、毎日あの家で過ごしていたのだから、そんな気がしても仕方がないだろう。


 あと少しで村に入るというところで、私達、『十人』は足を止めた。

 その内訳は、私、アゼル、ポール、領主様、領主様のお(かか)えの兵士が六人で、領主様達は、アゼルが魔法(まほう)で朝に連れてきた。

 なんで、そんな事をしたのかと言うと、これはアゼルの作戦を実行するためなのだ。


「それでは、ボクは先に村に(もど)って、村長たちに説明しておきますので。領主様はこちらで待機していて下さいませ」

「うっ、うむ。つつがなく仕事をこなすようにな」

「はい。それでは、行ってまいります」

 アゼルは領主様に深々と礼をし、一人で村に入っていく。


「ふむ。それでは、あの者が(もど)るまで休憩(きゅうけい)し、それから村に入るぞ」

「はっ!」

 領主様の命令に、兵士の人たちが反応するので、私とポールも「わかりました」「わかっただ」と口にする。


 そしてしばらくすると、村長さんと、うちのお父さんとお母さん達が村の入口まで走ってやって来た。もちろん、アゼルも一緒(いっしょ)だ。


「これはこれは、領主様。出迎(でむか)えが(おそ)くなってしまいましたことを、お()び申し上げます」

「いや、突然(とつぜん)の訪問であったからな。気にする必要はない」

「えっ、あっ、はい……」

 きっと、普段の領主様はこんな事を言う人ではなかったのだろう。村長さんは少し(おどろ)いた顔をしている。


「それよりも、まずはこの(むすめ)のことだ」

「は、はい。その子は、アミィは、昨日、(さら)われて……。それが、どうして領主様とご一緒(いっしょ)に?」

「うむ。それを説明するのは容易いが、まずはこの(むすめ)を案じている者へ返すのが先であろう」

 領主様はそう言うと、私に向かって目配せをする。

 私は小さく(うなず)き、「ありがとうございます、領主様!」とお礼を言い、先程から私のことを心配そうに見ているお父さんとお母さんに()け寄った。


「アミィ!」

「ああっ、よく無事で!」

 私はお父さんとお母さんに()きしめられた。その温かさに、私はホッとする。


「心配をかけてごめんなさい」

 私が謝ると、二人は首を横に()る。


「いいんだよ、お前が無事ならば」

「ええ。そうよ。無事で良かったわ」

 実は、アゼルが昨日のうちに一人、魔法(まほう)で村に(もど)ってお父さんとお母さんに私が無事だということは知らせておいてくれたらしいのだけれど、やっぱり直接顔を見るまでは心配だったみたい。

 もちろん、私だってそうだ。二人の顔を見て、(なみだ)がこぼれそうになってしまったもん。


「その方ら。その(むすめ)の両親か?」

「はっ、はい」

 私を()きしめていたお父さん達が、(あわ)てて領主様に頭を下げる。もちろん私も。


「その娘は(さら)われて監禁(かんきん)されておったのだ。直ぐに休ませてやるといい」

「はっ、はい! お心遣(こころづか)い、ありがとうございます」

 お父さんはこの場に残ると言っていた。そして、私は、お母さんに連れられて、ようやく家に帰ってくることが出来たのだった。







 私はお風呂(ふろ)に入って、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べた。そして、ようやく少し落ち着くことができた。


 私が朝ごはんを食べ終わるとすぐに、お父さんが家に帰ってきた。そして、あの後の話を私とお母さんに話してくれた。


 領主様は、村長さんに説明した。



 ここ数ヶ月の間、自分の領地で悪い人たちが何かをしようとしていたと。

 

そして、それに気がついた領主様は、村々を回って情報収集をし、その人達が、このライネス村付近に(かく)れていることを知り、自ら兵士を引き連れてこれを退治しようとした。


 その悪い人たちというのは、女性の魔法(まほう)使いで、近くの村から子どもたちを(さら)って良からぬ実験をしようとしていたのだという。

 私もそんな理由で(さら)われた一人で、それを行ったのはポールという大きな男の人。


 けれど、ポールは罪の意識から、私を村に(もど)そうと頑張(がんば)り、最終的に領主様に魔法(まほう)使いの場所を伝え、見事にこれを退治する手助けをした。

 だから領主様は、ポールの罪を許したのだ。



 そんな話を領主様は村長にし、この村の者たちにも迷惑(めいわく)を掛けたと言って、この冬の生活の支援(しえん)を約束してくれたのだという。




 ……はい、大嘘(おおうそ)です。





「まったく、そんなでたらめを、さも本当のように話せるんだから、領主様もたいしたものだな」

「まぁ、アゼル君にかなり(ひど)い目に、あわされたようだし、必死だったんでしょうね」

 話を終えると、お父さんとお母さんはそう言って苦笑する。


「でも、これで許すのは腹立たしいな。アゼル君が居なかったら、アミィの命も危なかったと言うじゃあないか!」

「それは私も同じ気持ちよ。でも、アゼル君が言っていたじゃあないの。領主様が亡くなって別の方に変わるようなことになっても、領地のみんなに迷惑(めいわく)が少なからずかかるし、次の人がまともだとは限らないって」


 じつは、お父さんもお母さんも、昨晩のうちにアゼルの今回の計画を聞いていたらしいのだ。そして、今回の騒動(そうどう)の犯人が、領主様とセリーナと言う魔法(まほう)使いだということを知っている。だから、腹立たしいのだろう。


「それは、そうだが……」

「今は、アミィが無事なことをアゼル君に感謝しましょう。私達だけでも、あの子が頑張(がんば)ってくれたことに感謝をしないと」


 お母さんの言うことはもっともだと思う。

 結局アゼルは、自分はなにもしていないということにするつもりなのだ。そのことで、他のみんな、特に助けを求めてくれた、ネイとリリーナは、ますますアゼルを良く思わないのではないだろうかと心配だった。


 結局、アゼルはそうなのだ。

 魔法(まほう)が関わっている以上、決して表に現れないのだ。そのせいで、自分の評価が落ちることになっても。


 私はそれから、お父さんとお母さんに言われるままに少し(ねむ)って、それから、私を(たず)ねてきてくれた、ネイとリリーナ、そして他のお友達にも元気な顔を見せた。


 その時に、アゼルも、領主様と一緒(いっしょ)に助けに来てくれたのだと言っておいたけれど、これくらいの(うそ)は許されてもいいはずだ。


 だって、アゼルは本当はヒーローなのだから。

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