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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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㉔ 『二人で……』

 さっきは寒いと思っていたけれど、今はとっても温かい。

 体も、心も……。


「へぇ~。それじゃあ、セリーナと領主様が言っていた、マジックなんとかって言うのは、間違(まちが)いだったのね?」

「うん。あれは、ただ自然にできた、少しだけ大きめな魔法力(まほうりょく)のカタマリだよ。……えっと、以前、君と出会ったときの(くま)を覚えていないかな?」

 アゼルに言われて、私は少し考えて思い出す。


「そう言えば、あの時の(くま)も全身銀色だった。領主様と同じで」

「あれは、魔法力(まほうりょく)を一定量以上、体に取り()んでしまうと起こる現象なんだ。まぁ、(くま)は森で生活をしているときに、それに()れてしまったんだろうね」

「そっか。やっぱりアゼルは、セリーナ達より先に分かっていたんだね。その魔法力(まほうりょく)のカタマリのこと」

 セリーナにアゼルの事を馬鹿(ばか)にされて、その事を腹立たしく思っていたから、そうじゃあないことが分かり、私は(うれ)しくなる。


「でも、どうしてそんなものがあることを知っていたのに、アゼルは何もしなかったの?」

 そう言うと、アゼルは苦笑した。


「それを言われると申し訳ない気持ちになってしまう。結界を張って、(だれ)も近づけないようにしておけば、今回の事件は起こらなかったかも知れないから」

 アゼルはそう前置きをして、話を続ける。


「ボクは、あの大きさ程度の魔法力(まほうりょく)のカタマリは、何処にでもあるものにしか思えなくてね。(だれ)かに悪用なんてされないだろうと考えていたんだ。

 だから、このまま大地にエネルギーとして(かえ)るのを待とうと思ったんだよ。

 魔法力(まほうりょく)というものは、適量であれば、自然の、森の木々なんかの栄養になるんだ。だから、ここ数年、この辺りの木の実がたくさん実ったり、動物も増えたりしてくれていたんだよ」


 アゼルは説明してくれたけれど、私はそういう意味で()いたわけじゃあなかった。

 どうして、アゼルがその力を手に入れようとしなかったのかを知りたかったんだ。

 でも、アゼルはそんなつもりは初めから無かったみたいで……。

 うん。やっぱり、私のアゼルは素敵だ!


「……ところで、アミィ……」

「なぁに、アゼル?」

 私が上機嫌で(たず)ね返すと、でも、アゼルはため息を付いた。失礼な!


「寒いのなら、火をもう少し大きくするから、わざわざボクに()きつく必要はないと思うんだけれど……」

 そう言うと、アゼルは私の(うで)から()げようとする。


(いや)だもん! たしかに私が悪かったし、反省もしたわ。でも、あんなきつい言い方をする必要はなかったじゃあない。レディを何回も泣かせたんだから、私のお願いをきいてくれないと駄目(だめ)!」

 私は横になって寝ているアゼルの胸に、さっきみたいに顔を()めて()()する。

 アゼルの温かさを感じられて、声が近くで聞こえて、とても良いのだ。


「だから、何度も言うように、君は小さくても女の子なんだから、男の人に簡単にこういう事をしては駄目(だめ)だよ」

「それくらい分かっているわ。私だってこんな事をするのはアゼルだけだも~ん」

 私は冗談(じょうだん)交じりの様に言うけれど、これは本心だった。

 今回のことで、私は()れ直してしまったのだ。格好良くて、強くて、優しくて、大人なアゼルに。


 それなのにアゼルったら、「だから、子どもがそういう事を言っては駄目(だめ)だよ」って言って、私をいつまでも子ども(あつか)いする。

 むぅ。見てなさいよ! あと少し成長したら、絶対にドキっとさせてやるんだから!


「……アゼル。まだまだ教えて欲しい事があるんだから、(ねむ)くなるまで話を続けて」

「はぁ~。分かったよ」

 アゼルの許可を得て、次は何を話してもらおうかと考える。するとすぐに()かんだのは、セリーナ達との戦いのことだった。

 だから、その時の事を話してもらうことにした。


「ねぇ、アゼル。ポールがセリーナの魔法(まほう)で高いところから落とされそうになったときに、助けに来てくれたでしょう? そして、その後、セリーナに同じことをしたよね?」

「ああ、そうだね……」

「もし、もしもだよ。あの時、セリーナが空に()かぶ魔法(まほう)を使えなかったら……」

 私はなるべく暗い表情にならないように注意して聞いた。

 すると、アゼルは私の頭に、ポンと手を優しく置く。


「信じてもらえるかどうか分からないけれど、あの時、ボクは下からも風をいつでも起こす準備をしていたんだ。だから、落ちる寸前で元々助けるつもりだったよ。

 ただ、セリーナが<浮遊(ふゆう)>の魔法(まほう)を使おうとしていたのが分かったから、その発動が間に合うように調整しなければならなくなって、大変だったよ」

「そこまで準備していたの?」

「うん。いくら君たちを(さら)って悪いことをさせようとしていた人間でも、目の前で命を(うば)うようなことをしたら、それもやっぱり君たちの傷になってしまうからね」

 アゼルはそう言って微笑(ほほえ)む。


「……もしも……」

 私は失敗した。そう口に出してしまった。(あわ)てて謝ろうとしたけれど、アゼルは微笑(ほほえ)みを(くず)さない。


「もしも、君たちがいなくても、ボクはあのセリーナも、領主も、命を(うば)ったりはしなかったよ。そんな事に魔法(まほう)を使いたくはないからね」

「アゼル……。うん。そうだよね!」

 私は(うれ)しくて、アゼルに満面の笑みを向ける。すると、またアゼルは頭をポンポンってしてくれた。


「アゼルは普段(ふだん)魔法(まほう)は使わないですむのなら使わない方が良いと言っているけれど、魔法(まほう)が好きなんだね」

 私は何気なしにそう言ったのだけれど、それを聞いたアゼルは(おどろ)いた顔をする。


 そして、アゼルは私の頭から手を(はな)して、その手のひらを見た。


「……魔法(まほう)が好き、か……。そんなこと、考えたこともなかったな……。無理やり()し付けられた力だし、大変なことばかりだったから……」

 アゼルはそう言った後、静かに手を(にぎ)りしめた。


「……そうかボクは、この力が好きなんだな。だから、悪用されたくないんだ。お師匠様(ししょうさま)(たく)されたからだけじゃあなくて、ボクは……」

 アゼルはそう言って(うれ)しそうに笑うと、私を()きしめてくれた。


「ありがとう、アミィ。その言葉を、ボクはずっと探していたのかも知れない……」

 喜んでくれたし、アゼルから私を()きしめてくれたのなんて初めてだった。だから、当然それが(うれ)しくなかった訳では無い。

 でも、私には早急にアゼルに問い()めなければいけない事ができた。


「ねぇ、アゼル……」

「えっ、えっ! なっ、なにかな、アミィ」|

 私が怒っている事が分かったのか、アゼルは私の体から手をはなし、少し(おび)えた様子で(たず)ねてくる。


「ねぇ、アゼル。アゼルのお師匠様(ししょうさま)の話って聞いたことがないんだけれど?」

「あっ、ああ。そう言えば話したことなかったよね。でも、特別、面白い話じゃあな……」

「女の人よね。その、お師匠様(しyそうさま)って」

 私が言うと、アゼルは「どうして、分かるの?」と不思議そうな顔をする。


「女の(かん)よ!」

 私はそう言い切ると、アゼルに次は、そのお師匠様(ししょうさま)の話をするように言ったのだった。

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