表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
22/27

㉒ 『無責任』

 私とポールが(おそ)い夕食を食べ終わると、アゼルは魔法(まほう)であっという間に食器を洗うと、それを消してしまった。

 いったい何処にやったのか、まるで分からない。


「この明かりの魔法(まほう)はこのままにしておくし、それと風邪(かぜ)を引かないように、火はもう少し大きくしてここに置いておく。だから、今日はここで休むといい」

 アゼルは当たり前のように、丸い火のカタマリを大きくした。


 それはありがたいけれど、やっぱりアゼルは、私とポールを魔法(まほう)で村まで送ってはくれないみたいだ。

 どうして、他の魔法(まほう)はいっぱい使ってくれるのに、それだけはしてくれないのかがわからない。


「そっ、その、アゼル……さん」

 不意に、今までずっと(だま)っていたポールがアゼルに話しかける。


「なんだい?」

「その、お願いだ。オラは自分の足で歩くだ。だから、この子は、アミィだけは、魔法(まほう)とかいう力で、村まで送ってあげてくれねぇか? このとおりだ」

 大きな体を(ふる)わせて、大汗(おおあせ)をかきながら、アゼルに頭を下げる。


「この子は何も悪いことはしてねぇ。悪いのは、あのセリーナという女にだまされて、この子ば(さら)ってきたのはオラだ。それに、きっとこの子のおっかあや、おっとうも、今頃(いまごろ)すっごく心配しとるはずだ。だから、このとおりだぁ」

 きっとポールはアゼルのことが(こわ)いはずだ。それなのに、私のためにそう言ってくれるのがすごく私は(うれ)しかった。


駄目(だめ)だ」

 けれど、アゼルはそんなポールの(たの)みをまったく聞こうとはしない。ものすごく冷たい声で、そう言うだけだ。


「なっ、何よ、それ! ポールがここまでして(たの)んでいるのに、どうしてそんな風に……」

 私はアゼルに文句を言おうとしたけれど、そこでポールの顔色が悪いことに気がつく。


「ポール! 大丈夫(だいじょうぶ)? すごい(あせ)をかいているし、顔色も……」

 そこまで言って、私はようやく思い出した。ポールが怪我(けが)をしていた事を。

 背中にセリーナの風の魔法(まほう)を受けていたし、その前にも私の魔法(まほう)も受けていたんだ。

 バカだ、私は。アゼルが来てくれたことに安心して、そんな大事なことを忘れていたなんて。


「あっ、アゼル! ポールは背中に、私とセリーナの魔法(まほう)怪我(けが)をしているの。だから……」

「だから、何かな? ボクにその怪我(けが)を治して欲しいとか言うつもりなの?」

「そうだよ! 分かっているのなら、お願い。ポールを助けてあげて!」

 私はアゼルに頭を下げてお願いする。


「……」

 アゼルは何も言わない。ただ、パチンと指を鳴らした。

 すると、ポールの背中を、周りを照らしている光とは(ちが)う種類の温かな光が包んだ。


 私は、アゼルがポールの傷を治してくれたのだと思った。

 でも、ポールは何故かまだ苦しそうな顔をしている。(あせ)沢山(たくさん)かき続けている。


「アゼル。まだ、ポールが苦しそうだよ!」

「ああ。今、ボクが治したのは、あのセリーナという魔法(まほう)使いがつけたと思われる傷だけだからね」

 私はアゼルが言っていることが、しばらく理解できなかった。


「そんな……。どうして! どうしてそんな意地悪をするの! ポールがこんなにも苦しんでいるのに! どうして治してくれないのよ!」

 アゼルなら、簡単に怪我(けが)を治せるはずなのに、どうしてこんなことを……。


「……君たちは、無責任だよ」

 怪我(けが)の痛みで苦しそうな、見るからに痛々しいポール。そして、アゼルの行動が信じられなくて、(なみだ)()かべる私に、アゼルは(あき)れたような顔をして口を開く。


「いいかい、ポール。こんな森の奥までアミィを()()んだのが自分のせいだと分かっているのなら、君が責任を持って、アミィを村まで送り届けるべきじゃあないのかな?」

 そして、次は私に向かって、


「アミィ。魔法(まほう)の力は、ボクがいないところで使うことを禁止していたよね? それなのに君はそれを破った。そればかりか、その危険性を知っていたにも関わらず、それを人に向かって使った。大怪我(おおけが)をさせた。

 それであれば、君がその責任を取ってどうにかしないと駄目(だめ)じゃあないのかい?」


 そう言った。


「……でも、そんな事言われても……。リリーナが、さらわれそうだったんだよ……。だから、なんとかしないといけないと思って……。だから、私は……」

「言い訳は必要ないよ」

 私の話を、アゼルは(さえぎ)る。


「もう一度言わせてもらうよ。君たちは二人共、あまりにも無責任だ。自分が責任を負えないのなら、そんなことをするべきじゃあなかったんだ!」

 そう言うアゼルは、間違(まちが)いなく(おこ)っていた。


「……でも、でも、ポールは(ちが)うよ! だって、お母さんを……」

「ああ、そうだね。(かれ)には少しだけ同情する余地はあるかもね。君とは(ちが)って……」

 アゼルのきつい物言いに、私の目からポロポロと(なみだ)がこぼれていく。


「でも、やっぱり駄目(だめ)だよ。だって、(かれ)も君と同じように、ボクに()()けようとしたから。魔法(まほう)で解決してくれるのならば、自分が楽をできると、責任を取らなくてもいいって考えてね」

 そこまで言われて、私はもう(こら)える事ができなかった。

 私は周りの目を気にすることもなく、大声で泣き出してしまう。


「……泣いても駄目(だめ)だよ。ボクは魔法(まほう)に安易にすがる人間が大嫌(だいきら)いだからね。二人共、少し反省するんだ」

 アゼルはそう言うと、不意に姿を消す。


 でも、この時の私は、ただただ悲しくて、泣き続けることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ