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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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⑲ 『戦いは突然終わり……』

 銀色領主様は、魔法(まほう)を何度も何度も使ってくる。アゼルはそれと全く同じ魔法(まほう)を使って消す。

 それがしばらく続いていたんだけれど、高笑いをしながら魔法(まほう)を使っていた銀色領主様の笑いが突然(とつぜん)止まった。


「なっ、何故だ! 何故、急に力が……」

 戸惑(とまど)う銀色領主様は、だんだん体も銀色ではなくなっていき、ただの領主様に(もど)るのが見ていて分かった。


 そしてそれと同時に、大地から頭(かどうかは知らないけれど)を出して明るかった、<マジックガイザー>とかいうものも、(かがや)きを失っていく。


 アゼルはそうなるのが分かっていたように、今度は明るい球を作ってそれを上に投げる。すると、今までよりも周りが明るくなった。


「その疑問に答えて上げる理由はないけれど、あえて言うのならば、あなた達が物知らずなだけだよ」

 アゼルはその言葉と同時に、今度は(かみなり)を領主様に落とす。


「……あっ……、がぁぁっ……」

 領主様はアゼルの魔法(まほう)を受けて、顔から地面に(たお)れる。そして、まったく動かなくなった。


 間違(まちがい)いなく、アゼルの完全勝利だった。

 私達を傷つけようとしていた二人は、アゼルに手も足も出ずに負けたんだ。


 けれど、(だれ)も喜びの声をあげない。

 目の前で突然(とつぜん)起こった魔法(まほう)の戦いに言葉を失い、そして、そんなでたらめな戦いを一方的に、圧倒的(あっとうてき)に制したアゼルをみんな(こわ)がっているみたいだ。


 正直、私も少し(こわ)いと思った。思ってしまった。

 だって、私の知っている、いつものアゼルとはぜんぜん違うんだもん……。


「……アミィ。この子達とそこの体の大きな人は(だれ)なのか、教えてくれないかい?」

「えっ、あっ、うん!」

 不意に声をかけてきたアゼルに、私は(あわ)てて()け寄り、これまでの事を簡単に説明する。


「……そうか。ということは、この子達は家に帰さないといけないね」

「うっ、うん……」

 アゼルの言うことは正しいと思う。でも、やっぱり変だ。

 いつもとぜんぜん(ちが)う。

 そっけないと言うか、初対面の人にする態度みたいと言うか……。


「そこの君たち……」

 アゼルが声をかけると、ミリアさん達は明らかに恐怖(きょうふ)を顔に()かべていた。


「……なっ、なんですか?」

 体を(ふる)わせながらも、ミリアさんが他の女の子を(かば)うように前に出て、アゼルに問い返す。


「これから、君たちを家に送り届けようと思う。だから、君たちは自分の家の事を頭に思い()かべて欲しいんだ」

「おっ、思い()かべる? それって……」

「難しく考えなくていいよ。君たちが会いたいと思う人のことを考えてくれるだけで良いから」

 アゼルの説明にみんなは不審(ふしん)がっていたけれど、


「本当に? お兄さんが、私をお父さんとお母さんの所に連れて行ってくれるの?」

 ミリアさんの後ろに(かく)れていた最年少だと思われる女の子が、(なみだ)を目に()めながら言うと、他の子たちも、アゼルの指示に従って自分が帰りたい場所の、家のことを考え始めたようだった。


「うん。その気持ちを少しだけ持ち続けて」

 アゼルはそういったかと思うと、指をパチンと鳴らした。


 すると次の瞬間(しゅんかん)、ミリアさん達の姿が突然(とつぜん)消えた。みんなが一瞬(いっしゅん)で、同時に……。


「なっ、何をしたの、アゼル!」

「……みんなが住んでいる村に送っただけだよ。突然(とつぜん)、家の中に現れたら(おどろ)くだろうから、村の外れに送っておいた。それでも、(あわ)い光を(まと)わせておいたから、(だれ)かがすぐに気がつくはずだ」

 アゼルはどうでもいいことのように言うと、今度は気絶して(たお)れている領主様に近づいていく。


「……はぁ~。悪運が強いな。これなら……まだ間に合う……」

 アゼルはため息をつくと、右手を領主様の体の上に(かか)げた。そして、それを素早く右に()る。


 すると、今度は突然(とつぜん)、女の人が領主様の横に現れた。

 それは私の知っている人だった。


「えっ? えっ? なんで、セリーナが?」

 領主様の横に現れたセリーナは、全くの無傷だった。服も傷ひとつないようだ。

 でも、セリーナは生贄(いけにえ)とかいうものにされたはずじゃあ……。


 不思議に思った私は、説明をしてほしくてアゼルを見たんだけれど、アゼルはやっぱりニコリともしないで、こちらを見てもくれない。


「アゼル! どうしてそんな態度をするのよ!」

 私は我慢(がまん)できなくて、文句を口にする。


 そんな私にアゼルは(おこ)るでもなく、ただ静かに、


「……アミィ。どうして、君はボクとの約束を破ったのかな?」


 そう質問をしてきたんだ。

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