⑲ 『戦いは突然終わり……』
銀色領主様は、魔法を何度も何度も使ってくる。アゼルはそれと全く同じ魔法を使って消す。
それがしばらく続いていたんだけれど、高笑いをしながら魔法を使っていた銀色領主様の笑いが突然止まった。
「なっ、何故だ! 何故、急に力が……」
戸惑う銀色領主様は、だんだん体も銀色ではなくなっていき、ただの領主様に戻るのが見ていて分かった。
そしてそれと同時に、大地から頭(かどうかは知らないけれど)を出して明るかった、<マジックガイザー>とかいうものも、輝きを失っていく。
アゼルはそうなるのが分かっていたように、今度は明るい球を作ってそれを上に投げる。すると、今までよりも周りが明るくなった。
「その疑問に答えて上げる理由はないけれど、あえて言うのならば、あなた達が物知らずなだけだよ」
アゼルはその言葉と同時に、今度は雷を領主様に落とす。
「……あっ……、がぁぁっ……」
領主様はアゼルの魔法を受けて、顔から地面に倒れる。そして、まったく動かなくなった。
間違いなく、アゼルの完全勝利だった。
私達を傷つけようとしていた二人は、アゼルに手も足も出ずに負けたんだ。
けれど、誰も喜びの声をあげない。
目の前で突然起こった魔法の戦いに言葉を失い、そして、そんなでたらめな戦いを一方的に、圧倒的に制したアゼルをみんな怖がっているみたいだ。
正直、私も少し怖いと思った。思ってしまった。
だって、私の知っている、いつものアゼルとはぜんぜん違うんだもん……。
「……アミィ。この子達とそこの体の大きな人は誰なのか、教えてくれないかい?」
「えっ、あっ、うん!」
不意に声をかけてきたアゼルに、私は慌てて駆け寄り、これまでの事を簡単に説明する。
「……そうか。ということは、この子達は家に帰さないといけないね」
「うっ、うん……」
アゼルの言うことは正しいと思う。でも、やっぱり変だ。
いつもとぜんぜん違う。
そっけないと言うか、初対面の人にする態度みたいと言うか……。
「そこの君たち……」
アゼルが声をかけると、ミリアさん達は明らかに恐怖を顔に浮かべていた。
「……なっ、なんですか?」
体を震わせながらも、ミリアさんが他の女の子を庇うように前に出て、アゼルに問い返す。
「これから、君たちを家に送り届けようと思う。だから、君たちは自分の家の事を頭に思い浮かべて欲しいんだ」
「おっ、思い浮かべる? それって……」
「難しく考えなくていいよ。君たちが会いたいと思う人のことを考えてくれるだけで良いから」
アゼルの説明にみんなは不審がっていたけれど、
「本当に? お兄さんが、私をお父さんとお母さんの所に連れて行ってくれるの?」
ミリアさんの後ろに隠れていた最年少だと思われる女の子が、涙を目に溜めながら言うと、他の子たちも、アゼルの指示に従って自分が帰りたい場所の、家のことを考え始めたようだった。
「うん。その気持ちを少しだけ持ち続けて」
アゼルはそういったかと思うと、指をパチンと鳴らした。
すると次の瞬間、ミリアさん達の姿が突然消えた。みんなが一瞬で、同時に……。
「なっ、何をしたの、アゼル!」
「……みんなが住んでいる村に送っただけだよ。突然、家の中に現れたら驚くだろうから、村の外れに送っておいた。それでも、淡い光を纏わせておいたから、誰かがすぐに気がつくはずだ」
アゼルはどうでもいいことのように言うと、今度は気絶して倒れている領主様に近づいていく。
「……はぁ~。悪運が強いな。これなら……まだ間に合う……」
アゼルはため息をつくと、右手を領主様の体の上に掲げた。そして、それを素早く右に振る。
すると、今度は突然、女の人が領主様の横に現れた。
それは私の知っている人だった。
「えっ? えっ? なんで、セリーナが?」
領主様の横に現れたセリーナは、全くの無傷だった。服も傷ひとつないようだ。
でも、セリーナは生贄とかいうものにされたはずじゃあ……。
不思議に思った私は、説明をしてほしくてアゼルを見たんだけれど、アゼルはやっぱりニコリともしないで、こちらを見てもくれない。
「アゼル! どうしてそんな態度をするのよ!」
私は我慢できなくて、文句を口にする。
そんな私にアゼルは怒るでもなく、ただ静かに、
「……アミィ。どうして、君はボクとの約束を破ったのかな?」
そう質問をしてきたんだ。




