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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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⑱ 『無尽蔵(むじんぞう)の力』

 あまりにも圧倒的(あっとうてき)な差だった。

 アゼルが勝つことを信じ、そうなることを神様にもお願いしていた私も、ここまでセリーナとアゼルの魔法(まほう)に差があるなんて分からなかった。


 でも、その事を喜ぶ気持ちには何故かなれない。それは、今のアゼルが、私の普段(ふだん)知っているアゼルとはぜんぜん(ちが)うせいだ。


(アゼル……)

 セリーナが動かなくなったのを確認し、アゼルは視線を次は領主様に移す。相変わらず、冷たい眼差しを変えないで。


「そこの人。降参するのならここまでにするよ。ただ、一度でもボクや子どもたちに魔法(まほう)を放ったら、それ以降は一切手加減をしない」

「ほう。若造がつけあがるじゃあないか」

 アゼルの強さを見たはずなのに、領主様はニヤリと笑い、歩いてアゼルに近づく。


 そして、領主様は右手を前に()き出したかと思うと、その手から太陽の光のような(まぶ)しい光が放たれた。


 まさかこんなことになるとは想像もできなかった私は、あまりの眩しさに目を閉じてその場に(ひざ)をついてしまう。

 それは、私だけではなかったようで、女の子の小さな悲鳴や、それをかき消すようなポールの大きな悲鳴も聞こえてきた。


 アゼルの悲鳴は聞こえなかった。だから、アゼルは大丈夫(だいじょうぶ)だと思いたい。

 でも、私が何とか周りが見えるようになるまでには、少し時間がかかった。


「……えっ……」

 そして、ようやく目がもとに(もど)った私が見たのは、アゼルと、何故か体が、髪が、服までもが銀色一色になっている領主様の姿だった。








 訳がわからない。

 なんで、領主様が銀色になっているのだろう?


 そして、私はそこで違和感(いわかん)を覚えた。

 さっきまでと、あの(まぶ)しい光に目をやられる前と明らかに(ちが)う点がある事に気がついたから。

 それは、アゼルに一方的にやられて、動かなくなったはずのセリーナの姿が何処にもないことだった。


「ふっ、ふふふふふっ。はははっ、あははははははっ! よし、成功だ。力が(あふ)れて来おるぞ。生贄(いけにえ)が子どもではなくても、優れた魔法(まほう)使いならば、<マジックガイザー>との融合(ゆうごう)の材料にはなるのではと思っておったが、ここまで上手くいくとはな」

 領主様が(うれ)しそうに口にしたその言葉に、私は察してしまった。セリーナがどうなったのかを。

 そう。きっと、セリーナは私達の代わりに……。


「見よ、この力を!」

 銀色になった領主様は、地面に右の手のひらを向けた。すると、突然(とつぜん)、地面が大きくゆれ始める。大きな地震(じしん)が起こり始める。


 私達は立っていられなくて、()れる地面に四つん()いになるのが精一杯(せいいっぱい)だった。けれど、アゼルは一人、何事もないかのように立っている。

 いや、少し(ちが)う。アゼルは立っているんじゃあない。()かんでいるんだ。ほんの少しだけれど、地面から足が(はな)れているみたい。


「……あの女の人は、あなたの仲間じゃあなかったのかな?」

 アゼルは低い声で、領主様に(たず)ねる。


「ふん! あいつはわしの部下。つまりはワシの道具だ。それならば、私の役に立つことこそあいつの喜びだ。<マジックガイザー>と同化して、ワシの力の一部になれたことを喜んでおるだろうさ」

 アゼルが()かんでいることが分かったのか、領主様はそう言って、地震(じしん)を止めた。

 私はそのおかげで何とか立ち上がることが出来た。


(ひど)い! (ひど)すぎるわよ、そんなの!」

 私は銀色領主様に文句を言う。

 それが危険な事なのは分かっていたけれど、我慢(がまん)できなかった!


 確かに、私はあのセリーナという魔法(まほう)使いが好きではなかった。ポールのお母さんへの薬をちらつかせて、ポールに私をさらわせたのもあの女の人だったし。


 でも、こんなことってない! 

 仲間だと思っていた人に裏切られて、生贄(いけにえ)とかいうものに勝手にされちゃうなんて可愛そうだ!


「なんで、こんなことが平気でできるのよ! この極悪人! 人でなし!」

 私は思いっきり文句を言ってやる。


「やかましい! <マジックガイザー>の力が手に入った以上、貴様らガキどもも用済みだ! 待っていろ。すぐにこの赤髪(あかがみ)小僧(こぞう)を殺して、お前たちも……」

 銀色領主様の言葉は最後まで続かなかった。


 それは、短く風が()く音がしたかと思うと、銀色領主様の(かた)の部分と体が二つに()()かれたからだった。


 そして、そんな事ができるのは、ここには一人しか居ない。


「……その子には、手を出させないよ……」

 アゼルがそう言うと、風が()く音が連続で起こる。そしてその度に、銀色領主様の体が()()かれていく。


 もちろん、普通(ふつう)の体だったら血が出るし、動けなくなってしまうはずなんだけれど、銀色になった体は、(わず)かに光を()らすだけで、傷があっという間に治って体がくっつくみたいだった。

 ……正直、気持ち悪い。


「これでも喰らえ!」

 銀色領主様が、バチバチと音を立てる、丸い玉をいくつも周りに作り始めた。そして、それをアゼルに向かって発射する。

 けれどアゼルも同じ様に丸い玉を作ってそれをぶつけ合わせることで、それを無効化する。


 セリーナと戦っているときは、アゼルは相手の魔法(まほう)を一方的に消していたけれど、今はそれが出来ないみたいで、いくつもの魔法(まほう)を銀色領主様が放つたびに、アゼルは全く同じ魔法(まほう)を使うことで対抗(たいこう)し続けている。


「ふん。持久戦(ねら)いか。確かにお前の魔法(まほう)はたいしたものだが、所詮(しょせん)は人間一人の力! この大地に(ねむ)る大いなる力は無尽蔵(むじんぞう)。その規模が、大きさが(ちが)うわ!」

 銀色領主様の魔法(まほう)途切(とぎ)れることを知らず、ずっとアゼルに(おそ)いかかる。アゼルはそれを消し続ける。


 でも、魔法(まほう)というのは、ものすごく(つか)れることを私は知っている。だから、この戦いはそれほど長くは続かないと思った。


 そして、その私の予想どおりの結果になった。


 片方の魔法(まほう)の力が切れたのだ。

 そして、そこからは一方的なことになった。


 でも、予想と(ちが)ったのは、先に魔法(まほう)の力を切らしたのは、アゼルではなく、銀色領主様の方だったということだった。

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