表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
15/27

⑮ 『不安』

 私はミリアさんたちに話した。

 私とアゼルの出会いを。

 そして、きっと、私の大切な人が助けに来てくれると。


 最初は私の話を聞いても、みんな信じてくれなかった。みんなはもう助からないという気持ちでいっぱいで絶望してしまっていたみたいだったから、またアゼルとの約束を破って(はげ)ましてしまった。


 ……いや、(うそ)だ。分かっていた。

 私は早くアゼルに来て欲しかったんだ。だって、いくらなんでも(おそ)すぎるから。

 

 約束を破ってしまったことを(しか)られても良い。

 ただ、今は一秒でも早くアゼルの顔を見たい。声を聞きたい。だから……。


「ねぇ、アミィ。あなたを助けに来てくれる魔法(まほう)使いというのは、そんなに強いの?」

「強いんだよね? その人が来れば、私達、助かるんだよね!」

 

 ミリアさんにくっついていた女の子たちが、私に同意を求めてくる。


「うん。すごく強いし、絶対に助けてくれるよ。だから、その人が来てくれるまで、もう少しだけ我慢(がまん)してね」

 私は笑顔で断言する。それは、私が何よりもその事を信じたかったから。


 アゼルはあのセリーナよりも強いのだと。そして、私を絶対に助けに来てくれるんだって。


 こうして、みんなは私の話を聞いて少しだけ目に光が(もど)った。

 これからアゼルが助けに来てくれても、無気力では()げることも出来ない。だから、これで良かったのだと私は自分に言い訳をする。


「その人は、どんな魔法(まほう)が使えるの?」

「ええとね、私が知っているだけでも、風の魔法(まほう)を使ったり、傷をあっという間にで治したりできるのよ」

「すごーい! そんな事ができるのなら、あのセリーナに勝てるよ、きっと!」

 みんなは私を質問()めにする。

 私は何とか、アゼルの名前だけは出さないようにして、答えられる範囲(はんい)で答える。

 それはまだ希望が持てた時間だった。


 みんなは、今晩、私達が生贄(いけにえ)にされることを知らない。そんなことを知ってしまえば、また絶望してしまう。

 だから私はそのことは話さない。そして、アゼルが来てくれるのをただ待つ。


 でも、時間が経つにつれて、周りが暗くなっていくのにつれて、私の心が弱くなっていく。

 不安とあせりが私を包んでいく。


(アゼル。早く来て……。助けて……)

 私はそう願っていた。けれど、だんだん不安が大きくなっていく。

 顔にそれを出さないでいるのが精一杯(せいいっぱい)になってしまう。


(どうして、助けに来てくれないの?)

 みんなと笑顔で話しながら、心の内で私はアゼルに問いかける。


 そしてそこで、私はようやく、アゼルが前に言っていた事を思い出した。


『約束だよ、アミィ。けっしてボクの居ないところで魔法(まほう)を、この力を使ったりしてはだめだ。もしもそれが守れないのなら、ボクはもう君に魔法(まほう)を教えるのをやめるし、君と会うことも止めるからね』


 その言葉がもう一度聞こえた気がして、私の心は(こお)りつきそうになった。


 いくらなんでも、もうアゼルは、ネイとリリーナから私がさらわれた事を聞いているはずだ。それなのに、ここまで助けに来てくれないのは……。


(きっとアゼルは、ネイたちから聞いて、私がまた約束を破って魔法(まほう)を使ったのを知ったはずだ。いや、アゼルはすごい魔法(まほう)使いだから、聞くまでもなく私が魔法(まほう)を使ったことが分かっていると思う。そして、アゼルは私が約束を破ったことを知って……)


 そんな事ない!

 アゼルは優しいもん! きっと私を助けてくれる! そして、それは私だけでなくて、他のみんなも……。


 だから、私はみんなに話をして……。でも、それは、アゼルとの約束を(さら)に破ることで……。


(……アゼル……。(ちが)うよね? 私のこと、(きら)いになって……もう会ってくれないわけじゃあないよね?)


 私は笑顔でいなければいけないのに。

 他の子が不安になるから……。

 でも、アゼルはもしかしたら、私のこと……。


 みんなの質問に答えているうちに、笑顔が(くず)れていきそうになる。

 そして、私の笑顔が完全に泣き顔に変わりそうなときだった。



 ドン! と大きな音が聞こえた。そして、家のドアが開かれた。


 私は、アゼルが来てくれたと思いたかった。けれど、そこに立っていたのは(かれ)よりもずっと大きな男の人。

 それは、必死な表情をしたポールだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ