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魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
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⑭ 『運命の出会い』

 その日は、私の十(さい)の誕生日だった。


 近くの街まで出かけて、誕生日プレゼントを買ってもらっただけでなく、レストランで食事をした。

 普段(ふだん)ならライバル店の味の調査が目的でもあるんだけれど、この時の私はただただ美味しい食事を楽しんだ。


 でも、それで終わりじゃあない。

 街のお店で持てるだけの食材とスパイスを仕入れてきた。

 そして、家に帰ればお父さんとお母さんが、それを使って私のために豪華(ごうか)な夕食を作ってくれることになっていたんだ。


 私はこの日、(だれ)よりも幸せな女の子だった。



 でも、村まで後少しというところで、私たちが乗った馬車が突然(とつぜん)横転してしまう事故が発生し、私たちはそれに()()まれた。

 お母さんが私のことを(かば)ってくれたから、私は怪我(けが)をしなかったけれど、お母さんは気を失ってしまった。


 私はちょうどお父さんとお母さんに(はさ)まれる位置に座っていたんだけれど、お父さんが頭を怪我(けが)しながらも、私を(たお)れてしまった馬車から()がそうと変形してしまった馬車のドアを()した。

 ドアが開き、私はお父さんに両腕で支えながら、なんとか馬車の外に出ることが出来た。


 でも、ホッとする間もなかった。

 だって、馬車から出た先には、見たこともない銀色のクマが居たのだから。


 銀色クマは、倒れている馬に爪を何度も何度も叩きつけていた。

 もう馬は死んでいるのに。それを食べるでもなく、ただただ、攻撃(こうげき)を続けている。


「……いやっ、いやぁぁぁぁぁっ!」

 声を出さないほうが良かったのかもしれないけれど、その時の私にそんな事を判断する余裕(よゆう)はなかった。


 私の(さけ)び声を聞いたお父さんは、何があったかと(たず)ねてきたけれど、私はこちらに気がついて、()()ってくる銀色のクマのことで、それどころではなかった。


 銀色のクマの大きな前足が、爪が、私の頭目掛けて振り下ろされる。

 それを、私はただ見つめていた。瞬きをすることも忘れて。


 ああ、私死んじゃうんだと、何故か冷静にそう思った。


 でも、その瞬間(しゅんかん)はいつまで経ってもやって来ない。

 銀色のクマは前足を上げたまま全く動かなくなってしまったのだ。


「ふぅ~。間に合ってよかった~」

 ふいにそんなのんきな声が聞こえてきて、私はそちらを向く。するとそこには、大きなリュックを背負った若い男の人が立っていた。


 赤い(かみ)に赤いジャケットに黒のシャツ。そして淡い緑のズボン姿のその人は、私に気がつくとニッコリと笑い、


大丈夫(だいじょうぶ)かい?」


 そう優しく(たず)ねてきた。


「……はっ、はい……」

 私は(おどろ)き、そう答えることしか出来なかった。


「君の他に、その場車に乗っている人はいるのかい?」

「はっ、はい! まだ、馬車の中に、お父さんとお母さんが……」

 私が(あわ)てて言うと、男の人は背中のリュックを置き、私のところに()()ってきてくれた。


「……うん。二人共無事だね。御者(ぎょしゃ)の人も、さっき助けたから、安心して」

 男の人はそう言うと、手も()れずに馬車を動かし始めた。


「えっ? なに、これ……」

 私は夢を見ているのかと思った。

 だって、あんなに大きな馬車が宙に浮き上がって、勝手に車輪が下の状態になっていくんだもん。


「ああ、心配ないよ。中にいる君のお父さんとお母さんに害はないようにしているから」

 男の人は当たり前のことのように言う。


 やがて、馬車が元の状態に戻ると、お父さんとお母さんがそこから降りてきた。


「こっ、これは、いったい? あっ、アミィ!」

「アミィ! アミィ! よかった、あなたも無事だったのね」


「お父さん、お母さん!」

 私はお父さんと今まで動かなかったお母さんが無事なのを知り、二人に()きつく。

 二人は優しく私を()きしめて、(なみだ)を流して喜んでくれた。


「あのお兄さんが助けてくれたの!」

 私がそう言うと、お父さんとお母さんは、今頃(いまごろ)になって、前足を大きく()り上げた銀色のクマに気がついて(おどろ)き、それをどうやったか知らないが、動きを止めている男の人に更に(おどろ)く。


「あっ、貴方が私たちを助けてくださったのですか? ありがとうございます」

 お父さんが私たちを代表して男の人に頭を下げる。


「いいえ。たまたま通りかかっただけです。しかし、運が悪かったですね。魔力酔(まりょくよ)いしているクマに出くわしてしまうなんて」

「えっ、あっ、はぁ……」

 お父さんは何を言ったのか良く分からなかったみたいで、おかしな返事をするだけだったけれど、私は『魔力(まりょく)』という言葉に反応した。


「その! おっ、お兄さんは、もしかして『魔法(まほう)使い』なんですか?」

 私はお母さんの手を離れて、男の人の前に行きって(たず)ねる。


「……ははっ。今更(いまさら)誤魔化(ごまか)せないよね。うん。ボクの名前はアゼル。魔法(まほう)使いだよ」

 男の人はそう言って微笑(ほほえ)んだ。



 そしてこれが、私の運命の出会いだったんだ!

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― 新着の感想 ―
[一言] はいはいのろけのろけ(← いや良く考えたら囚われの身なんだよな(^ω^;) のろけとか言ってる場合じゃ無いな くまも○「ヤツは我ら熊族の中では最弱」
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