表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
11/27

⑪ 『森の奥(おく)』

 ポールにかかえられて、私は森の(おく)に運ばれていく。

 女の人に命令されて、私を(かか)えるときに『すまねぇだ』と言って謝ったきり、ポールは言葉を何も口にしない。


 ポールは背中に怪我(けが)をしている。私の魔法(まほう)だけでなく、私たちの後ろをゆっくりと歩く、あの(にく)たらしい女の人の魔法(まほう)を受けて。

 私を(かか)えていることで、きっと傷が痛むのだろう。額から(あせ)沢山(たくさん)にじんでいた。


「ほらっ、もたもたしないで歩きなさい」

 そんな苦しそうなポールに対して、女の人はそんなひどいことを楽しそうに口にする。


「そんな事を言うのは止めてよ! ポール。私、自分で歩くわ。だから、下ろして」

「あらっ? ダメよ、そんなの。お(じょう)ちゃんはまだ、魔法力(まほうりょく)が安定していないんだから、男がエスコートしないと」

 どうしてだか分からないが、私の体にまだ力が(もど)っていないことを、この女の人はわかるようだ。


 私は顔を後ろに向けて、紫髪(むらさきがみ)の女の人をにらむと、


「アミィよ。私の名前はアミィ。お(じょう)ちゃんなんて呼び方、気持ち悪いからしないでよ!」

 本当は、もっと悪口を言ってやりたかったが、そのせいでまたポールがケガでもさせられたら(いや)なので、私はそれだけ言って、つん! と顔を横に向ける。


「そう。アミィと言うのね。いい名前だわ。それじゃあ、私も名乗るわね。私の名前はセリーナ。優しいお医者さんよ」

「どこが優しいのよ!」

 セリーナがわざとそう言っているのは分かっていたが、私はガマンができなくて、つい文句を言ってしまう。


 そんな私に、セリーナはさも楽しそうに微笑(ほほえ)む。

 うん。分かっていたけれど、私はこの女の人が大嫌(だいきら)いだと再認識した。


(あれっ?)

 不意にゆれが少なくなったことに驚き、前を見ると、そこには道が出来ていた。獣道(けものみち)とかではなく、人間が通る、そのために出来たであろう道が。


(うそ……。なんで、森の中にこんな……)

 私は心のなかで(おどろ)く。

 そして、以前、ネイが教えてくれた、森の動物が減っているという話を思い出した。


(もしかして、けっこう前からこんな道を作って準備していた? 一体何をするつもりなの?)


 そう思うのと同時に、私は、ますますセリーナが(きら)いになった。


 私たちの村、ライネル村の人間は知っている。

 森のめぐみによって、私たちは生活が出来ていることを。


 だからこそ、必要以上に動物を()ったりはしないし、木の実なんかも必要最低限の分しか取らない。

 そして、森の(おく)は動物たちの住処なので、そこにはけっして入らないようにしている。それなのに……。


「ふふっ、(おどろ)いた? もう何ヶ月も前からこの場所は整備されているのよ。ここに(ねむ)る素晴らしいものを手に入れるためにね」

 聞いてもいないのに、セリーナは楽しそうに話し出し、


「そして、それを手に入れるためには、あなたが必要なのよ、アミィちゃん」

 そう言って私に近づいて頭をなでた。


(うっ……)

 ゾクッとした。風邪(かぜ)でも引いたときのように。


 セリーナは笑っていた。でも、それはとても冷たくて、それでいて楽しそうだった。こんな(ひど)いことをしているのに本当に楽しそうで、私は(こわ)くなってしまう。


「ふっ、うふふふふふっ」

 そんな私の顔を見て、セリーナは声を上げて笑い出す。


 分からない。なんなの、この人は……。

 私が今まで出会ったことがないタイプの人だ。


「ほらっ、アミィちゃん。見えてきたわよ。あなたがこれから過ごす場所がね。……まぁ、短い時間かもしれないけれどね」

 セリーナの顔を見ているのが(いや)で、私は前を向く。するとそこには、何件かの木でできた家が建っていた。腹が立つけれど、どの建物も私の家よりも大きい。


 そして、そこには(けん)を持った人が五、六人いた。

 けれど、みんな銀色のすごく高そうな(よろい)を身に着けて、顔を兜で隠しているのでどんな人なのかよく分からない。

 ただ、セリーナが近づくと、みんな姿勢を正して、「おかえりなさいませ、セリーナ様」と声をかけてくる。


「ご苦労さま。しっかりと見回りをしておいてね」

 セリーナはそんな様子を満足そうにみて、上機嫌(じょうきげん)で言葉を返す。


 村の女の子を誘拐(ゆうかい)して何かを(たくら)んでいる人たちが、一人や二人ではないだろうと私も考えていたけれど、人数はそれなりにいるようだ。


「ほらっ、ポール。早くアミィちゃんを私の研究室まで運びなさい。そうしたら、約束どおり薬をあげるわよ」

「……分かっただ……」

 ポールは抵抗(ていこう)することもなく、顔をうつむけて、痛みをこらえながら私を運んでいく。


 きっとポールも分かっているのだろう。

 セリーナの言葉がウソだということは。でも、魔法(まほう)を使う事ができるセリーナには逆らえないのだ。


(アゼル、早く助けに来て……)

 私は泣きたくなる気持ちを懸命(けんめい)にこらえて、心のなかでアゼルに(たの)む。


 けれど、やっぱりアゼルは現れてはくれず、私は一番(おく)の建物の中に()()まれてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ