表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの家事手伝い  作者: トド
第一章 『私のアゼル』
10/27

⑩ 『和解?』

 ポールはなんとまだ十六(さい)で、となりの村で木こりをしている。

 家族は他にお母さんしかいなくて、二人で生活をしていたのらしい。


 けれど、二ヶ月ほど前にお母さんが病気にかかってしまい、()たきりになってしまったのだという。

 ポールは仕事をしながら一生懸命(いっしょうけんめい)にお母さんの看病をしたのだが、お母さんの体調は良くならなかった。

 村で売っている薬では効果がなく、他の村人が街に行くついでに薬を買ってきてもらったが、それでもだめだった。

 そして、後はもう、街のお医者さんに見てもらうしかないのだが、病に苦しむお母さんを街まで連れて行くのは不可能だと考えたみたい。


 ポールは頑張(がんば)って考えて、たまたま村を視察に来ていた領主様にお願いをした。

 どうか、お母さんを助けてほしいと。

 領主様はそんなポールの願いを聞いてくれて、あとで自分の家にいるお医者さんをポールの家に行くように手配してくれた。

 これでお母さんが良くなると思ったポールだったのだけれど、そう上手くはいかなかったみたいで……。


「お母さんを治す薬代が、だっ、大金貨一枚! そんなの無茶苦茶よ! 私なんて、小金貨さえも見たことがないのに!」

 ポールの話をだまって聞いていたけれど、つい声を出してしまった。


 だって、小金貨って、私が見たことがあるお金の中でも一番高価な小銀貨(うちの定食を十回は食べられるくらいのお金)が百枚あるのと同じで、小金貨が十枚で大金貨だから……。


「うちの店の定食を一万回食べられる? 一日三食として……って、えええっ! 二十七年以上も食べられるっていうこと?」

 あまりにも現実感のない金額に、私はおどろくことしか出来ない。

 きっと、ライネス村のみんなの財布のお金を集めても、そんな金額にはならないんじゃあないかな。


「そんなとんでもねえお金なんて、オラには(はら)えねえ。そういうと、領主様のところのお医者さんが、自分の手伝いをすれば薬はタダでくれるって言うもんだから……」

 ポールの言葉に、私は(いや)な予感がした。


「ちょっと待って! それがまさか、女の子をつかまえて来ることなの?」

「んだ。そんな悪いことは本当はやりたくなかったけれど、おっかあのために……」

 ポールは本当に申し訳無さそうに言う。


 でも、私はポールの様子以上に疑問に思ってしまったことがある。


「待って。おかしいわよ、そんな話」

「えっ、どういうことだ?」

「話が出来すぎているっていうことよ!」

「んっ? どういうことだぁ?」

 ポールは不思議そうな顔を私に向けてくる。


 きっとポールはものすごく人がいいのだろう。そして、お母さんを助けるためにワラにもすがる思いでがんばっている。

 けれど、私はお父さんとお母さんから、そしてアゼルから聞いて知っている。そういった一生懸命(いっしょうけんめい)を、悪用する人がいるっていうことを。


「大金貨一枚もする薬と交換(こうかん)するにしては、女の子を一人連れてくるだけでは安すぎ……あっ、いや、ちがう。逆だわ。薬がいくらなんでも高すぎるのよ。私、ちっちゃいころに病気で近くの街に入院したことがあるけれど、その時でも、小銀貨が何枚かしかかからなかったって、うちのお母さんが言っていたの」

「だけんども、それは、おっかあの病気がそれだけひどいから……」

「たしかに二ヶ月も良くならないのは心配だけれど、それなら一度、別のお医者さんに見てもらった方がいいと思うの。私のかかりつけのお医者さんなら、お願いしたら村まで来てくれるから、あなたの村まで足をのばしてもらえるように、うちのお母さんにたのんで手紙を書いてもらってあげるわよ」

 私の言葉に、ポールの顔が明るくなるのが分かった。


「本当だか? 本当にお医者様の知り合いがいるんだか?」

「うん。だからあなたも、女の子を連れ去るなんて悪いことをしてはダメよ」

 私は安心させるように微笑(ほほえ)んで言う。


「……ウソを付いたりしねえだか? オラをだまして……」

「そんなことしないわよ! 約束を守るわ! それに、私から言わせたら、あなたのお母さんへの薬を理由にして、悪いことをさせるお医者さんの方が、あなたをだましていると思うわ」

 ポールは、う~んと、少しの間考えていたけれど、「わかっただ」と言って(うなず)いてくれた。

 そのことに私はホッとする。

 そして、ここが何処だかわからないので、ポールに、村まで連れて行ってくれるように(たの)もうとしたときだった。


 突然(とつぜん)、フュンという音が聞こえた。それが風の音だと気がついた瞬間(しゅんかん)、ポールの背中から血がふき出した。


「ぐっ、うっあああっ……」

「ポール!」

 背中が痛いのだろう。ポールは低く苦しそうに声を上げる。

 あわてて背中を見ると、十字に背中が切られていて、そこから血が流れていた。


「はぁ~。『大男総身に知恵(ちえ)が回りかね』というのは本当ね。たかだか子ども一人をさらう程度のこともやりとげられないなんて……」

 あきれたような女の人の声が聞こえた。

 ポールの心配をしながらも、私はその声の方に顔を向ける。


「なっ、なんなの、あなた! これ以上ポールを傷つけないで!」

 私はうずくまるポールをかばう様に前に出て、両手を広げる。


 体がふるえる。

 信じられないけれど、今、ポールの背中を傷つけたのは風の魔法(まほう)だ。前に、一度だけアゼルが使うのを見せてくれたことがあるから知っている。

 つまり、この女の人は、アゼルと同じ魔法(まほう)使いだということ……。


(あっ……)

 私はここでようやく気がついた。

 ポールが私の力を背中に受けて、『あっ、あのおっかねぇ魔法(まほう)を、また使ったりしねぇか?』と言っていたことを。


 私はあれが、魔法(まほう)の力だと当然知っている。でも、どうしてポールが『魔法(まほう)』と断言できたのかを考えていなかった。

 ポールが私の力を断言した理由は単純で、ポールも魔法(まほう)を見たことがあったんだ。この女の人が使う魔法(まほう)を……。


「ふふっ。元気のいいお(じょう)ちゃんね。気に入ったわ。途中(とちゅう)で私を裏切(うらぎ)ろうとしたのは許せないけれど、魔法力(まほうりょく)を持っている子どもをここまで連れてきたことは、ほめてあげるわ、ポール」

 二十代前半くらいかな? (むらさき)の長い(かみ)の女の人は、背中の痛みで苦しんでいるポールに(あま)ったるい声で言う。

 白を基調にしたローブ姿は、確かにお医者さんぽくは見えるけれど、私の知っているお医者さんのような優しい雰囲気(ふんいき)がない。あるのは、人を見下すような冷たい感じだけだ。


(……アゼル……助けて……)

 私は心の中で救いを求めたけれど、アゼルはかけつけてくれず、私は結局この女の人にとらえられてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お、お巡りさーん!!(」;`Д´)」 助けてー! 未成年者略取誘拐・・・gtgt
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ