石牢の迷宮6
第十一階層からも俺達は前衛が魔物を倒し、後衛が最短ルートを指示し、魔物を一瞬で切り刻んで進んでいく。
ほぼノンストップで十五階層のセーフポイントに到達する。
ここまで来る間に一人の冒険者にも会っていない、ダンジョンの入り口には多くの冒険者がいたが何かあるのだろうか?
「ヒスメ、ここまで来る間に一人の冒険者にも遭遇していないのは何かあるのかな?」
俺のすぐそばでペタッと座り込んでいるヒスメに問いかける。
「私達みたいに最短ルートを真っ直ぐ進む冒険者はほとんどいない。主に食糧調達や目当ての魔物を狩りに行くからいろいろなルートから下に向かっていく。それでもここまで会わないのも珍しい。ダンジョンコアの事件のせいかも」
ヒスメは何でもないようにそう答える。
ダンジョンの同じ階でも出やすい魔物や出にくい魔物など、おおよその生息地が別れている。
俺達が目指している最短ルートは下に行くためのもの、他の人達は目的の階の目的の魔物がいるところへ低階層のうちから最短ルートを選んでいくらしい。
わかりやすくいうと、右に目的の魔物が多く生息しているなら魔物の弱い低階層のうちに右に寄って下に降りていくということだ。
だただた下に行く俺達の最短ルートと、目的の魔物を狩りに行く最短ルートは違うってことだな。
「そうか、確かに今はダンジョンに潜る冒険者も減っているからな」
俺達はここで仮眠を取るために順番を決める、格下のランクということで俺が先に仮眠をもらうことになり、とりあえず目をつぶって今は何も考えず眠りにつく。
ヒスメによると、とりあえずもっと下の階層なら冒険者もほとんど来ないのである程度安心して寝れるとのことなのでお互い三時間づつの仮眠で我慢した。
順調に最短ルートを通って二十階に到達する。
ボス部屋は開ききっていてこのまま素通りできそうだ。
と思った瞬間、俺達が入ろうとしていたボス部屋の扉がバタンと音を立てて閉じてしまった。
「⋯⋯これって、ボス復活しましたよって事かな」
「そう⋯⋯とても運が悪い」
俺とヒスメは呆然と大きいボス部屋の扉を見上げながら呟く。
何て運の悪さだ、十五階で仮眠とらなきゃ、もしくは後数分早く辿り着ければ素通りできたのに!
俺はヒスメと顔を見合わせながら渋々扉に手をかけて開いていく。
俺達がボス部屋に入った途端に扉が閉まり、奥の方から何かが歩いて来る。
「ガオオォォ⋯⋯!」
部屋中に響き渡る雄叫びを上げて出てきたのは、Cランクのベントゥスベアだ。
「何でベントゥスベアがこんな低階層でっ!」
ヒスメが驚いて声をあげているが、俺も驚いた。
ベントゥスベア、通称風グマだ。
そう、俺が深羅の森で狩った事もある熊型の魔物、しかもデカい!五メートルぐらいあるんじゃないかこれ。
驚いている俺たちに向かって風グマは腕を振るう、風が巻き起こり俺達に迫ってくる。
左右に離れるようにそれを回避した俺とヒスメは同時に剣を抜く。
「疑問は倒した後だ。」
「了解っ!」
俺達は同時に風グマの左右から襲いかかる、迷った風グマは俺の方に向きなおり、爪で俺を引き裂こうとするが、寸前に血を吐いて絶命する。
上半身がグシャっと音を立ててずり落ちて行く、ヒスメが後ろから胴体を真っ二つにしたのだ。
風グマは上半身が音を立てて地面に落ち、下半身は内臓を撒き散らしながら倒れた。
ブンッと片手剣を一振りすると付着していた風グマの血液が吹きとんでいく、ヒスメもかなり良い魔力剣使っているんだよな。
とりあえずCランクということで風グマを回収し、俺達はセーフポイントに入る。
「おかしい。前に来た時はEランクの動物型の魔物だった。地図の情報にも極稀にDランクの魔物が出るとは書いてあるけど、Cランクは確認されていない」
ヒスメは地図を見返しながら情報の確認をする。
「確かにこの階層でCランクは不自然だ。これじゃ下手すると三十階層でBランクが出る可能性だってあるぞ」
何かが変わっている⋯⋯思い浮かぶのは、ダンジョンコア破壊による影響。
破壊された古城迷宮のダンジョンコアの魔素は自称神が吸い尽くしたが、本来古城迷宮のダンジョンコアが吸う予定だった魔素を他のダンジョンコアが吸い込んで魔物が強くなっている?
いやでも、こんなに極端に影響が出るものなのか?自称神はちょっとって言ってたのに。
「ナイン、他にも変化していることがあるかもしれない。ここからは注意していこう」
俺たち二人ならAランクぐらいの魔物は余裕でいけると思うが、下手するとSランクオーバーとか出てきたら洒落にならない。
「そうだな、今までよりも少し慎重に進んでいこう。」
二十一階層からはダンジョンが一気に変わり草原フィールドだ。
迷路状ではなく一フロア全て壁がなく外に出た気分になれる。
ダンジョン外の時間と連動してるらしく、昼と夜が繰り返される、今は朝方ということらしい。
まだ薄暗く、だんだん日が昇ってくるだろう。
ここでは魔物の種類に制限がないみたいで入るたびに出会う魔物が変わっているとか。
遠くの方に人型の何かがいるがはっきりと確認できない。
「ヒスメ。ここは広くて見通しがいい。だから魔物を無視して最速で真っ直ぐ近くの階段に向かおう。俺が先行する」
ヒスメが頷くのを確認すると索敵を使い隠れている魔物に注意を払いつつ一気に草原を走り抜ける。
索敵には近くに魔物の反応はない、平原だと地中を移動する魔物がいるかと思ったが今の所は大丈夫だ。
「エア・ブレード」
進路上にオークが数体いるがこっちに気がつかれる前にすれ違いざまに斬り捨てる。
俺とヒスメが通り過ぎた後に血を吹き出して倒れ、遠くの魔物に気が付かれるがもう遅い。
「やるねナイン。魔物を完全に置いてきぼりにしてる。すれ違いざまの攻撃も驚くほど正確」
「本番はまだ先だからね。今はどんどん先に進むことだけ考えよう。目指せ新記録」
俺達が走っていると少し離れたところに人影を発見する、ここに来て初めて冒険者パーティーを発見した。
だんだん近づいて行くと冒険者四人が茶色のデカい蛇と戦っているみたいだ。
「あれはガラか?確かDランクの魔物だったはずだ。」
ガラ、全長二十メートル程のDランクの蛇の魔物だ、特殊能力はないが強靭な尻尾の攻撃や、牙での噛みつき、締め上げる力は強力で一度捕まると抜け出せないと言われている。
そのまま通り過ぎようとするが、どうやら旗色が悪そうだ。
一人がガラに噛まれたのか血を流している。
何とかガラの攻撃を凌いでいる大剣の男も残り二人もかなり息が切れている。
俺はヒスメと目を合わせると、ヒスメは頷く、これは助けても良いってことだよな。
俺は瞬間的にスピードを上げてガラと冒険者の間に割り込み、通り過ぎるついでにガラの首を切断して行く。
続いてヒスメも通り過ぎるとガラは血を吹き出しながらピクピク動いていたがすぐに動かなくなる。
通り過ぎる俺達を呆然と冒険者パーティーが眺めているが、俺達は止まらずに走り去った。
二十五階層に辿り着くとまずはセーフポイントに移動する。
セーフポイントはちょっと大きめの山小屋になっていた。
「ここで一旦休憩」
山小屋に入るとヒスメも疲れたのか壁にもたれかかる。
「強行軍で突っ走ってきたから疲れた。そろそろ寝ておかないと体力が持たないな」
実際には体力的にはまだ余裕があるが、仮眠を少しとっただけだからそろそろしっかり休みたい。
「ここでゆっくり寝ましょう。他の冒険者で会ったのはガラの時のパーティーだけ、大丈夫でしょう。」
よし、ヒスメの許可が降りたので、俺はアイテムボックスから大きめの敷布団を取り出すと床に広げる。
「ナインはそんな物までアイテムボックスに入れているの?」
呆れた声でヒスメが言ってくるが、これはとても大事だと思うんだ。
「俺はソロだからあまり使うことはないけど、せっかくゆっくり休めるからね。休める時に遠慮してちゃ身体が持たないし」
本当は風呂にでも入れればさらに良いのだが、残念ながら浴槽は持っていない。
今度鍛冶屋さんにでも行って作ってもらおうかな、持ち運びできる桶的な。
そして大きい毛布を取り出すと、革鎧を外して潜り込む。
ヒスメがじっと見ているけど何だろう?一緒に入りたいのかな?
「ヒスメも一緒に入る?疲れが取れると思うよ」
俺のお誘いに少し、いや、かなり迷っていたが布団の誘惑に耐えられなくなったのか。
「お邪魔します」
と言って入ってきた、まあお互い子供同士だからできることだよな。
「布団気持ちいい⋯⋯」
「リジェクト・ゲージ」
念のため俺は限界まで時間を引き伸ばした結界を張る。
「おやすみなさい……」
布団が気持ちいいのか半分寝かかったヒスメが何か言っているが、俺も限界が来て眠りについた。




