石牢の迷宮5
さて困った、俺も引く気はないしターバンも引く気はないだろう。
「俺は引く気はないけど、あなたもでしょ?」
俺の問いかけにターバンは頷く。
「俺が見たところ、魔物の首を斬ったのはほぼ同時である、と思うけどどうですか?」
ターバンは頷く、やはりターバンから見ても同時か。
「なら半分こにしませんか?俺もここで争いたくないし、できれば平和的に解決したい」
俺の半分こ提案にターバンは少し目を見開くと、少し考える仕草をした後、大きく頷いてくれた。
良かった、ここでターバンと戦闘は不味いよな、ターバンかなり強そうだから殺し合いになってしまう。
ターバンは魔物の側にくると頭を拾う。
「私が首を、貴方が胴体を仕舞うってのはどう?それで一緒にギルドに行って報酬を半分こ」
ターバンが綺麗な声で話しかけてくる⋯⋯この人女の子だっ!
「わかった。それでいこう。俺はDランク冒険者ナイン。君は?」
俺は手を出して挨拶をする、ターバンは一瞬ためらった後俺の手を握り返した。
「私はAランク冒険者ヒスメ。」
俺達は一緒に第五階層のセーフポイントに行くとそこで少し休憩をとる。
セーフポイントは通路ではなく少し広い部屋になっていて何パーティーか入れるスペースがあるが、今は誰もいないので使いたい放題だ。
ヒスメは俺を警戒しているのかターバンは外さずこちらに近づいてこない。
Aランク冒険者ヒスメか……まさかの大物と出会ってしまった。
確かホームを持たず転々と各国を行き来するソロの冒険者だったはず、若干十二歳でAランクに上り詰めた天才冒険者、片手剣の二刀流を使い魔法の腕もかなり高い万能の冒険者。
「ぐぅぅぅ〜⋯⋯」
どこかの剣術大会で前回優勝者を瞬殺して優勝し、騎士団に誘われたとか何とかもあった気がする、魔族との戦争には参加せず、主に依頼の難易度が高いものや報酬が安くて割に合わないものを率先して受けていてギルドの評判もいい。
「ぐぅぅぅ〜⋯⋯」
ただ人とは距離を置き、基本的にはソロでしか動かない。
「ヒスメもこっちで食べないか?」
俺は焚火を作り鉄板を出して一人焼き肉をしている、魔王城からいろいろ調味料をもらってきているのでいろいろな味が楽しめるようになっているのだ。
さっきから確実にヒスメのお腹がなっているような気がする⋯⋯。
ヒスメはすっと近づいてくると、肉と調味料を一つ一つ見ていく、これは⋯⋯鑑定持ってるのか?
俺はヒスメに皿とフォークを渡すと肉をどんどん焼いていく。
「好きなだけ食べてくれ。アイテムボックスに大量の肉が入っているからいくら食べてもなくならないんだよ」
ヒスメが遠慮しないように言葉をかける。
「調味料も使ってくれ。種類が色々あるからお好みで。使い方がわからないのは聞いてね。」
ヒスメはすっと口元を覆っている布をずらすとゆっくり食べ始める、可愛い子だな、変態避けのために顔を隠していたのかもしれない。
「美味しい!ありがとうナイン。すごく助かった。」
ヒスメは俺を見つめながらお礼を言うが表情が変わらない、表情の乏しい子なんだな、でもお礼を言えるならいい子だと思う。
俺達は腹一杯になるまで焼肉パーティーをすると、お茶を飲みながら少し話をする。
「ナインのダンジョンの目的は何?お肉のお礼に協力する」
ヒスメは協力を申し出てくれるが、俺の目的は『徘徊する魔物』討伐だから達成してしまっている。
「俺の目的は『徘徊する魔物』だ。でももう討伐したから特にないんだよ」
「そう、私の目的も『徘徊する魔物』だったから」
ちょっと残念そうな表情にヒスメがなるが、俺これ以上の地図持ってないから先に行く気にはならないんだよな。
「ヒスメは何階まで進んだことがあるの?」
「私は三十一階層までしか行ったことがない。それ以上はソロだと難しいから」
Aランク冒険者でもソロだと三十階程度が限度か……だが最大攻略階層は四十三階層、たぶん戦力的な問題ではなく体力的、精神的なキツさが出てくるのだろう。
なら、俺と二人ならどうだ?もっと行けるんじゃないのか?
「地図は何階までもっている?四十階まで持っているのなら、俺と一緒に記録の更新を狙ってみないか?」
俺の言葉に一瞬目を見開くが、真剣な目で俺を見てくる。
「地図はあるけど、私にはナインの実力がわからない。Dランクということだけど、私についてこれるの?」
確かに俺はDランクで圧倒的格下感はあるよな、だが、最低でもC上位~B程度はあると思う、攻撃力だけならAにも匹敵すると俺は考えているけど。
「ああ、後悔だけはさせないように頑張るよ」
ヒスメは俺の方をじっと見つめている、ちょっとだけ実力出してあげるかな。
俺は魔力剣を引き抜くと魔法を唱える。
「ディメンション・アード」
魔力剣に時空魔法が付与される、空間ごと引き裂く俺の奥の手の一つが顕現する。
これがどれぐらいヤバいのかを察したヒスメは少し後ずさるが、俺はくるりと後ろを振り向いてダンジョンの壁を斬りつける。
ギャリギャリッ……と気持ち悪い音を立ててダンジョンの壁に亀裂が走る。
ダンジョン内は異空間とされている、故に壁や天井などは破壊不可、それを易々と斬り裂いて、俺自身もドン引きする……。
こんなえげつない威力だったのか……そりゃ今より高威力な斬撃をまともにくらったハイライトは長期間の行動不能になるわな、てかハイライト大丈夫かな?ちょっと心配になってきた。
「何この威力。ダンジョンの壁があっさりと……しかも、壁が修復しない?」
壁に近づいてヒスメは俺がつけた傷跡をまじまじと眺めているが、本来少しづつ修復されていくダンジョンの壁が一向に修復し始めない。
俺はぞっとする……これ使っちゃいけないヤツだ。
いやでもこれって普通に火とか水とかの属性剣と同じ要領で作っただけなんだけど、確かに元の威力とか特性とか変化するのはわかってたけど、これだけなんかおかしい。
ヒスメの方をふっと見ると、さすがにドン引きしている空気が伝わってくる。
「……」
あっこれダメなヤツだ、ドン引きされて遠回しに断られちゃうヤツだ。
うん、知ってる知ってる、俺は空気の読めるやつだからな……これは封印だな、今度ハイライトに一番いいポーションを持っていこう。
傷跡を見ていたヒスメがクルッとこっちを向き直り、俺は断られる覚悟を決めてドキドキする。
「よろしくナイン。私は、貴方が私に匹敵する強者だと認める。」
ここで、初めてヒスメがニッコリと笑って、俺に微笑みかけてくれた。
「えっ?良いの?えげつなさ過ぎてドン引きされていると思ったんだけど」
俺は確認するがヒスメは首を振ると理由を教えてくれる。
「私は強すぎて、でもナインなら、私と一緒に戦える」
少し恥ずかしそうにヒスメが答えてくれる。
そうか、自分でもドン引きしてたけど大丈夫みたいだ、これで下に降りていける。
「改めてよろしくヒスメ。攻略階層更新しようぜ!」
俺達は改めてしっかりと握手した。
俺達は地図を見ながら最短距離を突き進む、予定としてはある程度地図が出来上がっている四十階層までは最短距離で突っ走る予定だ、一階層ごとに前後を入れ替わってお互いの負担を減らしていく。
六階以降はゴブリン、ウェアウルフの他にコボルトが出現してきた。
コボルトもFランクの魔物で犬を二足歩行させたような外見、大きさはゴブリンより少し大きい程度。
集団で戦う犬って感じだな。
コボルトの集団もほとんど問題なく先行する俺かヒスメが一瞬で両断しながら進んでいく、俺も先行する場合は右手に魔力剣、左手に水の属性剣を出して二刀流でサクサク倒していく。
低階層では高く売れる素材は手に入らないので全て無視していくことに決めている。
そして第十階層に辿り着く。
そこには開いている大きな扉が存在した、ボス部屋だ、第十階層にはボス部屋のみ。
だがボス部屋は一度ボスを倒すと扉が開きっぱなしになり、一定期間たたないとボスは復活しない、そしてボス部屋の奥に帰還魔法陣とセーフポイントがある。
ダンジョンの仕様として、五階層ごとにセーフポイントが存在し、十階層ごとにボス部屋と帰還するための魔法陣が存在する、帰還魔法陣は使うと第一階層のどこかにランダムで転移する仕様になっていて、運が悪いとダンジョンの一番端に行ってしまうこともある。
ここが開いているということはボスは今はいないのだろう。
「十階のボスはホブゴブリンとゴブリンの集団だけど数日前に倒されている。ここは素通りできるからさらに進もうと思うけどどう?」
ヒスメの言葉に俺は頷く。
「ああ、ボスがいないなら楽でいいね。とりあえず行けるところまで行ってみよう。」
そのままボス部屋を通過して十一階層に降りる。
十一階層からはダンジョンの雰囲気が一気に変わる、ここからは生産エリアなんて呼ばれている。
ほとんどの冒険者が十一階から二十階層で魔物素材を集めたり、肉を調達して帰ってくるリンドルの町の生活の要とも言える階層になる。
今までは灰色の加工された石壁の様だったダンジョンが洞窟のような風景に変貌する、左右上下も倍以上に広くなり戦いやすくもなっている。
十一階も最短距離で突き進み、出てくる魔物は狼型、鳥型、熊型、兎型など多岐に渡り俺が見たことのない、知らない魔物がほとんどだった。
ふと自称神との会話を思い出す、もしかしたらダンジョンは地上からいなくなってしまった魔物すら出現させることができるのか?
今更ながらにその考えに至ってぞっとする⋯⋯もし、誰かがダンジョンコアを手に入れて、魔物を大量に作り出すことができるなら、ダンジョンボスを作り出すことができるなら。
俺が世界を崩壊させることだってできるのかもしれない。




