ダンジョンコア10
「僕の歓喜の心に応えろ、ハルシオン・ルヴィエル」
俺とポレルは残念そうな顔で神官服を見つめていると、盛大に手を上げて神官服は倒れる。
「頭打つ前もあんな感じだったんですか?」
「よく知らないにゃ、あんな変な人はお付きにはいなかった気がするにゃ、ワンチャン偽者で聖教国関係ないまであるにゃ」
俺とポレルは倒れた神官服をどうしようかと思っていると、急激に魔素が集まり神官服が倒れている前に魔法陣が出現する。
マジかよ、聞いたことない魔法だったけど成功してる。
俺とポレルは一瞬で戦闘態勢に入ると、魔法陣を見つめる。
ズルリ・・・ズルリ・・・魔法陣からはい出るように現れたのは、ミノタウロスか?
ミノタウロス・・・人族の身体に牛の頭を持つ人型の二・五メートル前後の高ランクの魔物だ。
ランクとしてはB、だが俺の知っているミノタウロスはオレンジ色の肌をしているのだが、このミノタウロスは灰色をしている。
大抵元の色と違う魔物は強さが上がっていたり、特殊な能力を持つ個体になる、この灰ミノタウロスも普通のミノタウロスとは別ものと考えたほうが良いだろう。
「グモオオォォ・・・!!」
灰ミノタウロスは一声叫ぶと両手持ちの柄の長い斧を振り回す、バトルアックスというやつだな。
「ポレルさん、こんな色のミノタウロスは見たことありますか?」
「こんなの見たことないにゃ、特殊能力持ちかもしれないから気をつけるにゃ、それと呼び捨てでいいにゃ」
ポレルはウインクすると灰ミノタウロスに向かって高速で突っ込んでいく、戦闘時のスピードはさらに上がるのか。
「気をつけてポレル!斧持ちだよ。」
俺はそう叫ぶと少し遅れて追従する、灰ミノタウロスは斧を持っているので危険度は上がっている。
ポレルは灰ミノタウロスの直前で消えるように方向を変えると振り下ろされたバトルアックスが地面に叩きつけられる。
隙を晒した灰ミノタウロスにポレルの短剣が迫るが直前で灰ミノタウロスがギリギリ肌を斬り裂かれながら避ける。
バトルアックスを力任せに振り回して、ポレルは一旦後ろに下がる、と同時に俺が入れ替わって低い軌道から灰ミノタウロスの膝を切り裂く。
この灰ミノタウロス固い!一撃で切断しようと思ったのにできなかった。
たぶんこの灰色なのは防御に特化したミノタウロスなのかもしれない。
「ポレル、こいつものすごく固い」
「わかってるにゃ、考えがあるから少しだけナインに任せるにゃ」
そう言うとポレルは少し離れる。
少しだけで良いなら任された。
俺はそのまま灰ミノタウロスに接近戦を挑む、横から振り回される刃を避けると脇腹に一撃、切り裂くことはできるか微々たるダメージだ。
すぐに振り下ろしがくるが、それに合わせて腕を撫でるように斬り上げる、少しづつ少しづつカウンターで灰ミノタウロスの身体にダメージを与えていく。
「ナインどくにゃ!」
ポレルの一声で俺はすぐさま声と反対方向に回避する。
灰ミノタウロスが俺に集中して身体ごと向き直ってくるがそこにポレルが突っ込んでいく。
ポレルの拳には尋常じゃないほどの魔力が輝いていてあれでぶん殴るのだろう。
灰ミノタウロスがポレルに気がついたときには遅かった、ポレルの拳が灰ミノタウロスの腹の表面に当たると、一瞬の静寂があり、灰ミノタウロスが爆散した。
・・・何あのエグい技・・・見た感じ魔力を相手の体内に流し込み内側から破裂させるってやつだろうけど、エグすぎる。
ビチャビチャと音を立てて爆散した灰ミノタウロスの肉片があたり一面に落ちてくる。
するとカキンッと音を立てて灰ミノタウロスの魔石も落ちてきた。
「どうにゃナイン。固い相手は中から破壊するのが鉄則にゃ。」
ポレルはドヤ顔で感想を求めてくる。
俺も大概首切ったりぶっ刺したりしてるから人の事はとやかく言えないが、ここまで爆散させるともうそれはテロだと思うんだ。
「凄すぎてもう言葉が出ないです・・・」
「そうにゃろうそうにゃろう。これぞ必殺技!って感じがするにゃ」
俺は必殺技について熱く語っているポレルの話を聞き流しつつ、落ちている魔石を拾う。
普通の魔石だな、ランクは微妙だけどギリギリA寄りのBってところか。
「ポレル。今のうちに神官服のおっさんを確保しよう」
俺の言葉にポレルは今まで忘れていたのか神官服に駆け寄り、奴隷の首輪を嵌めさらに縄で縛って動けなくする。
「それにしても何だったんだ、頭を打ったようにおかしくなり、魔物の召喚、あの光が影響してるのかな」
「そうにゃお付きはあんな魔法を使えるわけないにゃ、魔物を召喚なんて聖教国では禁忌とされているにゃ」
ポレルも困ったように首を傾げていると、神官服が目を覚ます。
「この身体が脆弱すぎてせっかく肉体を得たのに死ぬところだった・・僕としたことがはしゃぎすぎてしまったな」
神官服は目を覚ますとそう呟く。
やっぱそうなのか?考えたくなくて頭打っておかしくなったおっさんだと思い込もうとしたけど、やっぱ祠に封印されてた何かとかそういうやつなのか?
「お前は誰にゃ?前とは匂いが別人にゃ。」
真剣な表情でポレルが神官服に尋ねる。
「僕かい?僕は名もなき神だよ。名前が無いから好きに呼んでくれていい。ところで僕が召喚した下僕は何処だい?」
自称神は廃ミノタウロスを探してキョロキョロしているが周りには爆散した肉塊しかない。
神様か・・・一番聞きたくなかった言葉だな、俺は項垂れると自称神に灰ミノタウロスの魔石を見せる。
「まさか!もう試練をクリアしたのかい?では君たちには褒美を与えよう。この邪魔な首輪を外して縄を解いてくれるかい」
さも当然のように要求してくるが俺もポレルも動かない。
「まずは話してください神様。何であなたはここにいるんですか?」
俺が問いかけると自称神様は不思議そうに首をかしげる。
「何を言っているんだ、君たちがダンジョンコアの魔素を使って僕に力を取り戻させてくれたんじゃないか。だから僕の試練と褒美を与えたんだ。早く外してくれないかい。」
自称神様はニコニコ笑顔で外せと言ってくる・・・どうしたもんか。
「何言ってるにゃ、お前は死刑だにゃ。反省の色がないようだからその態度だと拷問もあるかもしれないにゃ。ダンジョンコアの責任をどうとるつもりにゃ?にゃーも怒られるにゃ・・・」
ポレルはガッツリと落ちこんでいる。
理由を聞くと、ハイライトが重傷で王城に運び込まれてメンバーが混乱している隙を突いて、この神官服のお付きがダンジョンコアを盗み取って逃走したらしい。
聖教国側の裏切りとして全員捕らえられ、ダンジョンコアと引き換えで全員を開放するという条件の元、戦闘力と索敵能力の高いポレルが選ばれ単独で追跡していたらしい。
「そう言うことならしかたないですね。この自称神様を連れて城に説明に行くしかないですよ」
「ナインは一緒に来てくれるのにゃ?」
目を輝かせながらポレルが懇願するように俺を見てくるができることなら行きたくない。
でもしょうがないか・・・ダンジョンコアが破壊されるところも見てしまったし、この森に俺がいたのは冒険者ギルドの依頼を受けたからだから無用に疑われることもないだろう。
「わかった。俺も行ってダンジョンコアが破壊されたことを証言するよ」
「さすがナインだにゃ。もうナインとは友達で戦友で仲間にゃ」
ポレルは顔を輝かせると抱き着いてくる。
「僕のことを忘れられると困るんだけど、僕は死刑になるのかな?」
自称神様は困った顔で聞いてくる。
「お前は死刑だにゃ」
「ダンジョンコアを元に戻したりはできないの?神様なんでしょ?」
俺は何となく聞いてみる、できればラッキー程度だが。
「ダンジョンコアは無理だけど似てるものは作ることができるよ、褒美にそれを望むかい?」
「今すぐ作るのにゃ!色も形も同じ物じゃないとダメにゃぞ」
すぐにポレルが食いつくが、信用していいのかな?
「じゃあこの首輪を外してくれるかな?これがあると力が出せない」
いや流石にそれはダメだろう・・・と思ったがポレルが外してしまった。
「じゃあ行くよ」
自称神が目を閉じると、俺の持っている灰ミノタウロスの魔石が輝き出すと一瞬にして崩れ、魔素が集まりダンジョンコアに似たものが出来上がる。
「これを褒美に授けよう。力は使い切ったから他の褒美はないけどそれでいいよね。この宝珠の使い方はダンジョンコアと同じだよ、ただ効果は低いしダンジョンは作れないけど」
これなら誤魔化せるか、そして俺への褒美は無しと・・・いやいらないけどさ。
「本当にゃ、本当に神様にゃ!これなら処刑だけはしないように頼んであげるにゃ」
喜ぶポレルの一瞬の隙をついて自称神様は縄を抜け出し、空を飛ぶ。
「一生牢で暮らすのはお断りなんだ。折角だから僕は遊びたい。じゃあまたね。」
そう言うと俺達が何か言う間もなく消える、すぐに索敵を使ってみたが気配がない。
「ポレル、追えない?」
「無理にゃ、気配も匂いも消えてるにゃ・・・」
逃げられた・・・まあダンジョンコアもどきが手に入っただけ良かったとしよう。
俺達は自称神様が消えた空を少しの間眺めていた。




