ダンジョンコア9
ほとんど人のいなくなった冒険者ギルドから隣の酒場に移動する、ここまででわかったことは。
古城迷宮のダンジョンコアが盗まれたという偽情報、まあこれは政治的なものだろう。
王城に侵入したのは上位以上の魔法を使いこなす黒ずくめ。
ハイライトをボコボコにできる腕を持つ強者という噂、ただこれは侵入者じゃなくて実際には他国の密偵だとフーリースから報告は上がっているだろう。
夜の森に放たれた追跡部隊と、騎士団と冒険者からなる追加の討伐部隊が組織されている。
こんなところか。
聖教国とリースフィア王国の関係は気になるが、聞こえてきた話だと国境が封鎖されたそうだから安易にどこかに行くわけにはいかないな。
王都に俺がいることは入る時にチェックされてたから、たかだかEランク冒険者一人まで調査されるとは思わないが国の一大事だから楽観はできない。
俺のアイテムボックスの中にはダンジョンコアとハイライトから奪った剣があるが・・・一度この二つを何処かに埋めておいた方が安心できるか?
俺は少し考えた後、依頼掲示板から一つの採取依頼を剥がし取ると受付嬢に渡し、冒険者ギルドを出ていく。
俺が受けた依頼はリカバリーポーションの原料となるこの地方の特産であるロウジ草と言われる薬草の採取だ。
難易度Eで特にこのロウジ草に何かあるわけではなく、採取場所が俺が昨日逃げ込んだ森とは全くの真逆であるということだけだ。
俺は王都をすぐに出ると遠くに騎士団と冒険者からなる討伐隊が森の方に向かっているのが見える。
やはりみんなそこを重点的に探すよな、俺が行く方には誰も人がいるようには見えない、これならゆっくりダンジョンコアと剣を隠せるだろう。
「鑑定」
俺は歩きながらハイライトの剣を取り出すと鑑定を使う。
聖火の剣・・・聖教国の儀式魔法によってできた奇跡の剣。全てを断ち切る鋭さと不壊の強度を併せ持つ最高レベルの剣。認証が必要。
これはかなり、いやおかしいレベルで強い剣だな。
奇跡のってことはたまたまって事なのかな?ディメンション・アードでも切断できなかったのも頷ける性能だ。
森に到着すると俺はロウジ草を探しながら森を進んでいく。
今日の天気は晴天というわけではないが、そこそこ暖かい日差しが降り注ぎ、森の散策にはちょうどいい。
ある程度進んだところで川を発見し、気まぐれに釣竿を作って釣りを始めてみた。
静かに流れる川、鳥達の声に眠気に誘われた俺は魔物避けの結界を使うと大きい岩の上でゴロッと横になる。
うとうとし始めた時に俺の索敵に何かの気配が一瞬引っかかってきた。
これは魔物じゃなくて人族かな・・・いや・・・俺の索敵がおかしいのか勘違いか、人族一人とそれに重なるようにダンジョンコアの気配があった気がする。
すぐに俺の索敵範囲から抜けてしまったので詳しくは判断できないが、何か王都で起こったのだろうか?
俺はすぐに起き上がると気配の方に向かって走っていく、正直なところ関わるつもりはなかったけど一つ目のダンジョンコアは俺が盗んでしまったし、もう一個はこの国に置いておきたい。
他国に渡って戦争の道具とされるのはできる限り防ぎたいのだ。
気配の元はそれほど早いスピードではないのですぐに索敵範囲に入れることができた・・・間違いない、人族の気配と一緒にダンジョンコアがある!
理由はわからないがこれを放置するのはまずい気がして後をつけていくと、後ろからすごいスピードで追ってくる気配を感知する。
このスピードと気配の大きさを考えると自由の翼の・・・ポレルかもしれない、だが気配は一つしかない、ハイライトはたぶん行動不能だと思うが聖女メリッサとエルフのフーリースがいるはずだ。
このままだとすぐに追いつかれるが、今から隠れるわけにもいかない、たぶんすでに感知されているはずだ。
ざっと音を立てて俺の隣に並んできたのは予想通りのポレルだ。
自由の翼のBランク冒険者、赤みがかった茶髪と同じような眼の色、肩ぐらいの短い髪で索敵と強襲を得意とする。
頭からぴょこんと見える猫耳の獣人の少女だ、獣人だけにしなやかな体を使った短剣術、体術を使うと聞いたことがある。
「君!ここに聖教国の服を着た怪しいおじさんは来にゃかった?」
かなり焦っているのか厳しい顔で俺の隣を歩きながら聞いてくる、にゃって。
「ちょうど怪しい人を見かけてこっそり後をつけているんです。自由の翼のポレルさんですよね?俺はEランク冒険者のナインといいます。その人が何かしたんですか?」
「そいつがダンジョンコアを・・・いや、大切な物を盗んだにゃ・・・盗んだんだ」
語尾が、にゃ、なのか?何人かの獣人の話を聞いたことあったけどそんな人いなかったような気がするが・・・まあでもこれで確定だな、聖教国の人間がダンジョンコアを盗んだ。
「この先にいるはずです。ポレルさんならすぐに追いつけると思いますよ」
俺は気配の元を真っ直ぐに指をさして教えてあげる。
「ありがとにゃ、そのうちお礼はするにゃ」
そう言うとポレルさんは一気にスピードを上げて気配の元に近づいていく、俺も走ってついて行く。
追いつく直前に気配は目的地でもあったのかそこに止まり、俺たちが追いついた時には聖教国の神官服を着た男は黒いナイフを振りかぶっていた。
男の目の前には台の上に置かれたダンジョンコア、木々に侵食されている小さな祠がある。
「この星にっ!神の導きをもう一度与えたまえっ!!」
神官服の男が黒いナイフをダンジョンコアに振り下ろす。
「やめるにゃー!」
ポレルさんが止めに入るがもう間に合わない、黒いナイフはダンジョンコアに突き刺さりパキッと軽い音を立てて砕け散った。
ぞくっ・・・ダンジョンコアが溜め込んでいた大量の濃密な魔素が解放されて蠢き、拡散されずに全て小さい朽ちた祠に入っていく。
ポレルは神官服の男を殴り飛ばしダンジョンコアをに触れるが、何も変化はないしどうにもできない。
ほんの数秒でダンジョンコアから出た魔素が祠に吸収される・・・何だこの祠は?こんなのがあるなんて聞いたことがない。
瞬間、祠から今度は膨大な魔力が膨れ上がる、まずい!
「ポレルさんっ!ここは危険です、下がってください」
言い終わると同時に俺は魔法を発動させる。
「リジェクト・ケージ」
自分を包み込むようにリジェクト・ケージが発動した瞬間、祠を中心に膨大な魔力が吹きあがり周囲の木々を薙倒し吹き飛ばしていく。
ギリギリ間に合った俺も一瞬でリジェクト・ケージを破壊され吹き飛ばされる。
「ぐっ・・・身体が痛い・・・何が・・・」
数秒気を失っていたのだろうか俺は身体の痛みで意識を取り戻す。
打ち身はあるが身体は無事だ、この程度ならポーションを使うまでもないか。
「ヒール」
俺は倒れたまま自分に回復魔法をかける、光が身体を包み込み身体中の痛みがある程度消える。
「そうだ、ポレルさんは・・・」
辺りを見回して俺は愕然とする、さっきまで森の中にいたはずなのに周囲は何もなく、遠くの方に吹き飛ばされた木々が折り重なっている。
祠のあった場所から円形に周囲百メートル程度が全て吹き飛ばされている、俺から少し離れたところでポレルさんが気を失っているのかピクリとも動かず倒れている。
ポレルさんは祠の近くにいたからかなりの衝撃を受けたはずだ、すぐに治療しないと危ないかもしれない。
俺はポレルさんに近づく途中でチラリと聖教国の神官服が目に入るが、あいつは今はどうでも良いだろう。
ポレルさんを見ると片足が折れている、意識はないがこれならまだ大丈夫だ。
俺は一番いいポーションを取りだすと少しづつ、ゆっくりとポレルさんの口にポーションを飲ませていく。
半分ぐらい飲ませたところでポレルさんが目を覚ました。
「にゃ・・・ここは・・・君は・・・」
まだ意識がハッキリしていないようだ。
「俺はナインです。神官服を追っている途中で出会った。自分の名前はわかりますか?所属パーティーは?」
俺は意識を取り戻した人に大抵は医者がやるであろうと思われるテレビで見たような確認をする。
「ナイン・・・私はポレルにゃ・・・パーティーは自由の翼」
大丈夫そうだな、ポーションのおかげで足も治ってきているので俺はポーションの残りをポレルさんに渡す。
それにしても何が起こった?ダンジョンコアと言うよりは祠がこの爆発の原因だと思うが・・・
チラリと何かが視界の端に映る、俺は何気なくそこを見ると爆発の中心に光り輝く何かが浮遊している。
これは何だ?魔法のようにも見えるが、これが爆発の原因か、いやだがさっきまではなかった。
光はふわふわと移動すると倒れている神官服に近づき、すっと身体に入るように消えた。
「ナイン、あれは何にゃ?」
完全に回復したのかポレルさんが立ち上がって俺に聞いてくる。
「俺にもわかりません。たぶんですが、この魔力爆発の原因かもしれませんが」
その時、神官服がすくっと立ち上がり、手足をぶらぶらさせて、身体の調子を確かめているようだ。
「うん、あまり強い人族の身体じゃないけど、まあ悪くないかな。君達、今日は僕の復活のお祝いだよ。試練と褒美を与えよう」
ボロボロの神官服はフードで顔が見えないが俺達を見ると楽しそうに嬉しそうな声でそう言い出す。
何言ってんだこのおっさん?俺とポレルは顔を見合わせると、頭を打ったんだろうというジェスチャーでお互い納得する。
「お前のしたことは犯罪にゃ!ダンジョンコアの強奪、破壊。どう頑張っても国家反逆罪で一生牢の中か処刑にゃ。抵抗せずに捕まるにゃ」
ポレルさんはビシッ!っと神官服に指を突きつけ大きい声でそう宣告するが、それを言っちゃ大人しく捕まろうと思う人っていなくない?
「この男は罪人か、気分は良いものではないが、僕のこの喜びの前には些細なこと。さあ、試練を始めよう。」




