仄暗い闇の中で5
ユリゲール、掲示板に載っていた俺が入る臨時パーティーのEランク冒険者だ。
でもなぜ俺がナインだとわかった?
もしかしたら一ヶ月前の事件の関係者かもしれない、ちょっと警戒しておくか、あからさまに貴族なのを察して欲しそうな顔してるし。
「ユリゲールさんですね。改めましてFランクのナインです。討伐依頼は臨時パーティーですがよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく頼むよ。君は新人だからわからないこともあると思うけど、臨時パーティーを組む場合は基本的にはランクが高い者がリーダーを務めることになっている。なぜかわかるかい?」
何だ?俺がリーダーアピールかな。
臨時のパーティーなんて誰がリーダーでも構わないって俺は思ってるんだが、逆に指揮を勉強したりしてる人がいればその人にやってほしい。
「えっと、ランクが高いからといって強い、経験が多いとは必ずしも言えないけど、その傾向が強いので臨時パーティーみたいなお互いの実力が把握しにくい場合はランクを判断基準にするというところですか?」
ユリゲールは感心したように頷きながら満足げに答える。
「よくわかっているようだね。特に僕の場合は貴・・・いや、指揮をする勉強をしているからね。大抵の場合は僕がリーダーをやらせてもらっているよ。」
めっちゃリーダーやりたいんだろうな、貴族は平民の上に立ちってのがお約束だからな。
俺は自分が死なないように立ち回るだけだな。
「そうですか。それでは今度のパーティーもよろしくお願いしますね。俺はソロなのでそこら辺はよくわかりません」
「任せておきたまえ。君は中々見所があるね。この依頼が終わったら僕のパーティーに正式に入れてあげてもいいよ」
パーティー?この人ソロだから寄せ集めパーティーなんだと思ってたが、パーティー組んでるのかな、他のメンバーが不参加だからソロで参加ということだろうか。
「それは今回が終わってから、考えさせてください。じゃあ俺はこれで」
「そうか、それまでに考えておいてくれたまえ」
俺はユリゲールと掲示板から離れると隣接している酒場に向かう、昼までにはまだまだ時間があるな。
正直、この依頼が終わったら細々とした依頼を受けつつゆっくりするつもりだからな。
魔王様からも腕輪外すのは程々にしろって言われてるしなるべく体に負担のかからない依頼を達成して自分のペースでやっていきたい、それにはどうしてもパーティーは不向きだ。
俺は酒場のカウンターに座ると軽食を注文する。
冒険者が主となるここの酒場ではちょっとだけだが味が濃く作られている、仕事で汗をかく冒険者に配慮されているのだ。
軽食を食べながら何か情報がないかと周りの声に耳を傾ける。
「聞いたか?明日の討伐作戦に自由の翼が参加するらしいぞ」
「自由の翼?確か魔王討伐で酷いダメージを受けて休止状態だって聞いたが冒険者を再開したのか?」
「かなりの人数を動員するらしいが、そこまでなのか?」
「何でも数日はかかるかもしれないって話だ」
「ゴブリンキングは美味しいな。こっち回ってこねぇかな」
「討伐後には洞窟の調査があるはずだ、そっちをメインにするために余力は残しておけよ」
チラチラ聞こえてくる話は明日の討伐依頼の事だけだな、みんなそれぞれ思惑がありそうだ。
そして気になったのは自由の翼だ・・・確か聖教国を本拠地とした聖教国最強のAランクパーティーだったと思う。
リーダーの名前はハイライト、俺は魔族との戦争で少し見ただけだが魔法を剣に纏わせて戦う魔剣士スタイルが有名だ。
だが何で聖教国の冒険者がここに?変なタイミングだな、昨日今日で来れる距離ではないぞ。
その後も俺は冒険者達の言葉に耳を傾けていた、ほとんどが明日のゴブリン退治の話題埋め尽くされていた。
昼になると冒険者達の話す内容が少し変わった、ゴブリン退治の話からゴブリンの情報になってきた。
「ゴブリンキングはゴブリンを強化するのか。」
「ゴブリンキングが出てくることによって生まれるゴブリンもいるらしいぞ」
「魔法特化型のゴブリン、強化型のホブゴブリンに連携されると危険だな」
これは情報掲示板に情報が開示されたみたいだ。
至る所でパーティー戦の対策、方針を決める話が始まっている、俺たちの臨時パーティーもある程度決めておいたほうがいいのかもしれない。
早めに臨時メンバーと合流してある程度戦い方を決めておいたほうがいいな。
俺は席を立つと情報掲示板へ向かう。
情報掲示板の前には人が集まっているせいで俺の身長じゃ見れないな、人が多いってのもあるが何とか最前列にいけないかな。
どこか前に行ける隙間がないかと辺りを見回すとユリゲールがいた。
ユリゲールに聞いてみよう、俺は前に進むのをあきらめるとユリゲールの方へ行き話しかける。
「ユリゲールさん。情報は見れましたか?俺は混んでてちょっと見れなくて。」
「おお、ちょうどいいところに来たな。臨時パーティーのメンバーを発見したところだ。」
よく見るとユリゲールの隣に二人立っている、この二人が臨時メンバーか。
「初めまして。Fランクのナインです。よろしくお願いします。」
「初めまして。Fランクのマリンです」
「・・・サイモンだ。まだ子供じゃないか。大丈夫なのか?」
黒髪黒目の女の子がマリンさん、魔法がメインなのか黒いコート姿で青い髪留めをしている。
そしてこのとても失礼な赤髪短髪の方がサイモンだ、こっちは皮鎧で一般的な冒険者装備って感じだな、自分だって言うほど大人じゃないだろうに・・・。
俺たちの一応の挨拶が終わるとユリゲールが仕切りだす。
「これでメンバーは揃ったわけだね。ではランクの上な僕がこのパーティーのリーダーになろう。これから作戦会議をする。ついてきたまえ」
そう言うとユリゲールはさっさと歩きだす。
俺たちはユリゲールに連れられて冒険者ギルドを出て、ちょっとおしゃれなカフェに連れていかれた。
こんなところあるんだな、こっちの世界に来てから初めて入った。
そこは壁も白く塗られお洒落なインテリアが並んでいる、冒険者が入るような雰囲気ではないどちらかというとカップルがデートに使うようなカフェだ。
「チッ、こんなところに入るとは思わなかったぜ。」
「この服で入るのはちょっと勇気がいりますね」
さっそくサイモンが悪態をつく、マリンは服装が気になるようだ。
まあ一番合ってないのは派手な金属鎧のユリゲールなんだけど、顔がそれっぽいので顔だけ見てれば合っているといっていいのかもしれない。
早速席につくとユリゲールが全員分の紅茶を注文する。
店員ももはや慣れたものなのかササっと紅茶を持ってくる、ユリゲールはここ常連なのか?
四人の前に紅茶が並べられるとユリゲールが話しだす。
「では作戦会議を始める。その前に、せっかくなのでお互いを呼び捨てで呼び合おうと思う」
三人でうなずく、指示だしの時に少しでも短い言葉でってやつだな。
「では、二人と話したところ、前衛ができるのが僕とサイモンだ。後衛はマリンに任せる。そしてナインは何ができる?」
「俺は基本は剣で、初級魔法なら一通りは使える」
できることなら前衛をしたいが、魔法を使える戦力は貴重だからな。
二人前衛がいるなら真ん中で前後のフォローでもいいだろう。
だがそこで待ったがかかる、サイモンだ。
「ちょっと待て!その年で本当に剣も魔法も使えるのか?どう見ても見習いぐらいの年齢だろう、仮に使えたとしてただ剣を振り回す程度や威力のない魔法じゃ戦力にならない」
マジか~おっさん冒険者とかに言われるのはまあ大人と子供ってことである程度はしょうがないと諦めてるところはある、ムカつくけど。
だがサイモンだってそんなベテランといえるような年じゃないし、冒険者の平均で言ったら子供に分類されるだろう。
「年は十才。できるからFランク冒険者と認められているんだ、見た目とランクで強さは測れないってのが冒険者の基本だろ」
俺とサイモンがにらみ合う、こいつめんどくせーな。
「二人ともそこまでだ。では後でお互いの戦力の確認がてら模擬戦でもしようじゃないか。それでサイモンも良いだろう?せっかくここまで来たんだ、ナインができる前提でフォーメーションを決めていく。模擬戦後ダメなら変えればいい」
ユリゲールのフォローもあってその後は着々と進んでいった、だがまて、模擬戦しなきゃいけないのか・・・正直めんどくさい。
作戦は前衛がある程度抑えてマリンは得意の水魔法で攻撃、俺は中衛で前衛が抜かれた場合の対処とマリンのフォローという感じだ。
マリンは魔法メインの冒険者なので長時間戦うのはかなり厳しい、なのでマナポーションを使って継戦能力を上げるということになった、マナポーションを服用することで魔力の回復を早めることができる。
俺たちはFランクパーティーという扱いなのでDランク以上のパーティーの近くが持ち場になる。
ゆっくりと紅茶を飲んだ後に、冒険者ギルドに戻って模擬戦だ。
正直もうめんどくさいから何でも良かったのだけど、ある程度できる事は見せておかないといけない。
冒険者ギルドの訓練場を借りるとそこにはほとんど人がいなかった。
明日本番だからな、明日に備えて休みにしている冒険者が多いのだろう。
「じゃあすぐ終わらせられる魔法から、ファイア・ランス」
俺は訓練場に入るとすぐに魔法訓練用の的を用意して魔法を放つ、ほぼノーモーションのファイア・ランスが的にぶつかると炎をまき散らす。
振り向くと三人がぽかーんとしている。
「魔法はこれでいいでしょ?何か問題ありますか?」
マリンが首をプルプル振っている、よし魔法は合格ということで。
「剣もやりますか?お互い怪我をしないように程々で。」
俺はすぐに立てかけてある模擬剣を持ってくるとサイモンとユリゲールに差し出す、どっちがやるのだろう?サイモンかな。
「俺がやる。」
たぶん俺が本当に剣も魔法も使えると言うことがわかったのだろう、サイモンが真剣な表情で構える、ユリゲールが俺たちの中間に立ち審判をしてくれるみたいだ。
「はじめっ!」
声に合わせて俺とサイモンが同時に前に出る、だが同時に前に出たからと言って同じスピードとは限らない。
一瞬で俺はサイモンに近づくと振りかぶっているサイモンの剣を弾き飛ばし模擬剣を突きつける。
「これで終わりでいいでしょう、こっちも子供だって理由だけでイチャモンつけられるのはいい加減ウンザリしてたんです」
何が起こったのかわからなかったのだろう、サイモンは驚いたような顔をして固まっていた、俺は剣を下す。
「ああ、実力は理解した」
サイモンはガックリ項垂れてそう答えた。
ちょっとやり過ぎだとは思うが流石に子供だからって侮られるのもそろそろ面倒なのだ。
審判のユリゲールが近寄ってきた。
「強いな。僕ですら完全には見切れなかった。どこでそこまで鍛えたんだ?」
ユリゲールが聞いてくるが答えられるようなことってないんだよな、人工勇者でしたとも言えないし。
「俺、田舎の森の中に住んでたんでこれぐらいできないと生きていけなかったんですよ」
そんな感じに誤魔化してその日は解散になった。
改稿




