見習い冒険者10
セバンスの対人戦能力は俺より上だ、屋敷で戦った時にそれはわかっている。
魔力がなくなったと言っているところから魔法は使えないのだろう。
ただ暗殺者の衣で気配を殺している俺を感知していることから考えると、吸収した魔石の魔物の能力や特殊能力が使えると考えておいたほうがいい。
魔法が使えずB級冒険者になっていることから身体能力も劇的に上がっていると考えられる。
俺はすぐに封魔の腕輪を一つ外してアイテムボックスに放り込む、元Bランクの人工勇者、戦力としてはBランクでは収まらないと考えたほうがいい。
急激に魔素を吸いこんで放出も始まる、身体に負担がかかるがこれはしょうがない。
「やはりその腕輪で能力を落としていたのですね。その年でここまでの強さとは末恐ろしい」
セバンスが斬り込んでくる・・・っつ早い!流石元Bランク。
俺は雷鳴の剣に魔力を通してバチバチさせる。
斬り込んできたセバンスは剣を合わせるのを嫌いすぐにバックステップで後ろに下がる。
「その剣は厄介ですね・・・」
俺は答えず魔法を唱える。
「ストーン・バレット」
石つぶてが三つ、下がったセバンスに飛んでいく。
それを簡単に短剣で弾くが俺はすぐに斬りかかる、俺の剣を全て紙一重で躱す、なんで全部躱せるんだよ・・・。
回避能力というか身体能力が高すぎる!これでBランクなのか?
俺だって封魔の腕輪を一つ外しているんだ、かなり身体能力は上がっている、並のBランク程度なら互角以上に戦えると思っていたが。
セバンスが軽く腕を振るう、なんだ?一瞬景色が歪んだと思ったと同時に嫌な予感が頭をよぎる。
俺は感で左に跳ぶ。メギッと俺のいた場所の後ろにある木が音を立てる。
「何だそれ?魔法は使えないんじゃなかったのか?」
「いいえ。魔力がなくなったと言ったのですよ。これは魔物の能力でしてね。まさか完全に避けられるとは思いませんでした。」
ほぼ視認できない風の刃か?
セバンスは風の刃を連続で放ってくる。
俺はシールドを併用して逸らす、躱す、剣で斬る。
大体範囲はわかった、ただこれじゃ近づけない・・・俺は大きく躱すと魔法を使う。
「ファイア・ランス」
炎の槍がセバンスに向かっていくが風の刃とぶつかって消滅。
打ち消す事はできるのか。
セバンスが風の刃を放ちながら斬り込んできた、いつの間にか片手剣を持っている。
俺は剣で受けるが、セバンスは平気で剣を振るう。
電撃が効いていない?いや、通っていない?
セバンスの攻撃を俺が受けて反撃、激しい剣の応酬になったがほぼ互角。
力はセバンス、速さは俺、技術は互角といったところか。
決め手を欠いたまま剣戟の音だけがこだまする。
俺はシールドでセバンスの剣を逸らすと腹に蹴りを入れて吹き飛ばす。
「ヴェリアス・レイ」
魔法陣から六色の魔法が飛び出していく。
急激な魔力の消費に俺は歯を食いしばって耐える、当たればいいダメージが入るはずだ。
激しい轟音と土煙が立ち昇る中で俺は索敵を使いセバンスの様子を窺う。
直撃したかどうかはわからないが当たっているはずだ、セバンスはまだそこにいる。
俺は警戒しながらゆっくり近づいていく。
土煙がはれると服がボロボロになったセバンスが立っている。
「どうする?これだけダメージが入っているならもう戦闘は無理だろ?おとなしく・・・」
俺が言い終わる前にセバンスが突っ込んでくる、さっきよりも早くなってる!
セバンスの振るう剣を俺は受けるが吹っ飛ばされる。
そこに風の刃が飛んでくるが何とか剣で弾く。
「ガッ・・・ガッアアアアアアアアッ!」
セバンスが吠えると濃密な殺気が俺に突き刺さる。
セバンスの目が、白目の部分が赤くなり口からはよだれを垂らしている。
これ暴走してるんじゃ・・・。
暴走したセバンスは風の刃を放ちながら突っ込んでくる、さっきよりも数段速い。
風の刃を躱した俺は突っ込んできたセバンスの剣を受け流そうとするか受け流せない。
セバンスの蹴りが腹に入って俺は吹っ飛ばされ木に叩きつけられる。
何とか体勢を立て直すが、セバンスの剣はさっきまでの技術に裏打ちされた剣術とは違い、力任せに振り回すだけのものだが、早さと力が加わり俺は受けることに精いっぱいになる。
時折飛んでくる蹴りや拳で俺はどんどんダメージを負い身体が傷ついていく。
このままだと遠くないうちに確実に殺される、何かないか?攻撃の激しさに魔法を使う暇はない。
二度三度、吹っ飛ばされて身体がボロボロになっていく、ここまで来たらもうやるしかない。
俺は吹っ飛ばされたタイミングで、残っていた封魔の腕輪を外した。
空気中にある魔素が身体に入りこんでくる、そして制御できない魔力が身体から出ていく。
身体中に激痛が走り意識を失いそうになるが必死に耐える。
セバンスが走ってくるのがわかるがさっきとは違いすごく遅く感じる。
たぶんこれ身体強化の影響もあるのだろう。
俺は剣を握り直すとすれ違いざまにセバンスの右腕を軽々と斬り飛ばした。
俺の体にも激痛が走る、振り向きざまにセバンスと目が合う。
セバンスは残った左腕を振り風の刃を近距離で飛ばしてくるが、俺も剣を振り弾き飛ばす。
それと同時に雷撃が飛んでいきセバンスの左腕をズタズタにする。
これで両腕は使えない。
「セバンスッ!」
なぜ俺は名前を呼んだのかはわからない、ただただ悲しかったのだ、同情したのかもしれない。
俺と同じような失敗作、そして俺の歩んだ道のりよりも過酷。
いや、もしかしたら俺も同じような道を歩むとするなら、怖かった。
ここでセバンスを見逃すことはできない。
ただ同じ境遇の人族を殺すことを俺の心は拒否する。
それでもナインではなく人工勇者の試験体No九は自然に不自然に身体が動いてしまう。
ここでセバンスを殺すための最適解を。
一瞬で魔力を練り上げ荒れ狂う魔素と魔力を一つに束ねる。
「メギド・バースト」
セバンスの真下の地面に一瞬で魔法陣が出来上がり、セバンスを中心に高圧縮された炎が立ち上り魔法陣内部の者を一瞬で焼き尽くす。
火属性超級魔法「メギド・バースト」人工勇者時代の俺が最も得意としていた超級魔法だ。
包みこまれる瞬間、セバンスが何か言っていた。
炎が消えたときにはそこには焼けただれた地面があるだけで他に何もなかった。
超級魔法を使った反動で俺の身体のある魔力は全て放出されるが一瞬で身体に魔素が入りこんできて魔力が回復する。
気持ち悪い・・・身体が重くて・・・ダメだ、もう立っていられない。
俺は崩れ落ちるように地面に寝転がると息を整える、すぐに封魔の腕輪をつけるが、さらに反動で身体中に負荷がかかる。
ヤバい・・・全く動けない、地面の冷たさが気持ちいいな。
このまま眠ってしまえるならどれだけ気持ちいいだろうか・・・。
だけどここは森の中、初心者ご用達の西の森とはいえこんなところで寝たらもう目を覚ますことはない。
苦い思いがこみ上げてくる・・・セバンスが最後に言った言葉。
「ありがとう」
・・・セバンスは死にたかったのだろうか、いや、生きていたかった?
死にたくても死ぬのが怖かったんじゃないだろうか?だから誰かに殺して欲しかった・・・たまたま、勇者に似ている俺が選ばれた。
俺も前世の記憶が覚醒した時はそうだったな、絶望して死んでもいいと思っていたけど、自殺する勇気なんてなくて、身体がもたないって言われたときにはちょっと安心したのを覚えている。
このまま死んでも、自分から死んだわけじゃなくて仕方ないんだって、言い訳を自分自身にしてたのを覚えている。
考えてもよくわからない。
「こんな所で何を寝っ転がっておる。森林浴をするならもっと奥の川があるところがいいぞ」
不意に声をかけられて慌てる、索敵には誰も引っ掛からなかったのに!
俺は慌てて声の方を向きお願いする。
「動けなくなってしまったのです。アイテムボックスにポーションがあるので・・・」
声の主は赤い髪、赤い目の冒険者風の装備をした、魔王様だった・・・驚いて言葉を詰まらせる俺、あれ?何でここにいるの?しかも角がない。
「ん?何だ?ちょっと見ないうちに私の顔を見忘れたか?薄情な奴め。」
ああ、やっぱ魔王様だ。
「いやいや覚えてます。何で魔王様がいるのかなって。角もないですし。」
「角は隠している。人族の町に遊びにいくのに不便であろう?ここにはお前を探しにきだんだ。リルが煩くてな」
どういう事だ?俺が疑問に思っていると、魔王様は俺を抱き上げた。
助けてくれるのは嬉しいけど、ポーション飲ませて貰えば一人で歩けると思うんだけど・・・。
「魔王様。ポーションもらえれば歩けるぐらいには回復すると思うので、ポーションを頂けると助かるんですが・・・」
「せっかく見つけたのだ。逃げられては私が困ってしまうのでな。それにポーション係はもう決まっている。」
ポーション係って何だ?
魔王様は歩きながら、ついでに落ちているセバンスが使っていた魔力剣を拾い上げる。
「なかなかの業物だな。これは王国で作られた聖剣の試作品というところか」
「それは・・・セバンスっていう、俺と同じ人工勇者が使っていたものです・・・」
「そうか。」
そう言うと魔王様は転移魔法を使って俺ごと魔王城へ飛んでいった。
魔王城につくと、俺は魔王様に抱っこされたまま城を歩く。
サキュバスのメイドさんたちがニコニコしながらこっちを見てくる・・・すっごい恥ずかしい。
・・・今日はみんな角と尻尾と翼があるんだな。
「魔王様。ものすごく恥ずかしいので何とかなりませんか?」
「ならんな。」
ぴしゃりと言いきられる・・・
城の中を歩いてリルの部屋の前に行く、何か懐かしいな。
「リル。ナインを持って来たぞ」
リルの部屋に入るとリルが飛びついてきた、エヴァさんもこちらにくる。
「ナイン!・・・何でお母様に抱っこされてるの?」
「久しぶりリル、エヴァさん。これはいろいろあって動けないんだ。」
「ナインは森で行き倒れておってな。私が通りかからなければ危ないところだったのだぞ」
リルは目を見開いて驚いている。
いや、倒れてたのは本当だし危なかったと言われると危なかったかもしれないけど、もうちょっと言い方があると思うんだが・・・。
「私は忙しいのでな。ナインが元気になるまでリルが面倒を見てやってくれ。」
そう言うと魔王様は俺をエヴァさんに渡す。
物じゃないんだけどな。
「久しぶりですね。ナイン様。汚れているようですのでまずはお風呂に入りましょう、リル様お願いします。」
「わかった。安心してナイン!私がちゃんと洗ってあげる。」
そして俺は強制的に風呂に入れられることになった。
いやまずポーションくれよ。
改稿
ここで第二部終了になります。
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