見習い冒険者9
冒険者ギルドへ入る。
外とは違ってあまり人はいない、冒険者ギルドが混むのは朝と夕方だ。
今はほとんどの冒険者が仕事へ行っている、いるのは昼間っから酒を飲んでいる不良冒険者や、依頼をしに来ている人達ぐらいだ。
俺はこっちを見てニコニコしている受け付けのお姉さんを発見してそこに依頼書を渡す、エンレンさんだ。
「ナイン君、大活躍だったそうじゃない!ギルドマスターから聞いたわよ~。ロゼット様を助けるために謎の人さらい集団の本拠地に単独で突入。お姫様を救いだしてその功績でお姫様の護衛に!城に攻め入る賊をお姫様を庇いながらの死闘を繰り広げ何とか撃退。黒幕の野望を暴きハッピーエンド。すごいわ!御伽噺の英雄譚みたい!」
いや、違う!ロゼットがお姫様になってるし、領主邸は城じゃない!
大筋は合っているけどちょっと規模が大きくなっている。
「ありがとうございます。でもそんな大げさな話じゃない気がします。えっと、後これ依頼完了の書類です」
俺は書類を渡すと何やかんやしゃべっているエンレンさんの話を聞き流す。
あらかたしゃべり終えるとエンレンさんがたたずまいを直し、真面目な口調で話しだす。
「もう!では改めまして。見習い冒険者から冒険者になったナイン君。冒険者の説明をさせていただきます。」
「はい。よろしくお願いします。」
やっとか、やっと俺の異世界転生物語が始まるんだな。
「冒険者にはFランクからSランクまでのランクがあります。これはギルドへの貢献度、強さ、知識など様々な要素で上昇していきます。ランクによって受けることができる依頼が変わるのは知っているとは思いますが、冒険者の無謀な挑戦を阻止するためです。今回の誘拐犯のアジトに単独で突入するのは無謀なことですので今後は控えてください」
釘を刺されてしまった、いや、たまたま、たまたまだったんだよ。
「はい、以後気をつけます・・・」
「よろしい。そして見習い時に使われていたギルドの五人部屋は、次の見習いが入ることも考えて退去してもらいます。申請すれば一か月ほどは使うことができますがどうしますか?」
もう使わなくていいだろう、できることなら宿で一人でゆっくりしたい。
「今日中に退去しますね。」
「わかりました。今までの公共施設のサービスは継続して受けることができます。ランクが高くなるとさらに待遇が良くなることがあるので頑張ってランクを上げるのもいいと思います。受けられる依頼は一つ上の依頼までです。下の依頼は制限がありませんが、下の人の依頼を奪ってしまうことがあるのでなるべく同ランクの依頼を受けることをおすすめします。」
うん、俺はまだFランクだから下はないけど、見習いが受けられる依頼は遠慮しろってことだな。
上はEまで受けることができる、討伐依頼が多いからなるべくEを受けよう。
「わかりました。他には何かありますか?」
「気をつけなければいけないのは町中での冒険者の立場です。冒険者というのは戦力とみなされますので安易な武器の抜刀、魔法の行使は罪が重くなることがありますので気をつけてください」
だからか、無駄に絡んでくる冒険者がいないのは。
確かにひょいひょい剣を振り回してたらただの通り魔でしかないからな。
「そしてこれがナイン君のギルドプレートです。これを提示する事で各種サービス、身分証になります。」
銀色の鉄でできたプレートを受け取る、ただの鉄でできたプレートだな。
首から下げるようになっている。
「あと、ナイン君に手紙を預かっています。」
俺は手紙を受け取る、表には俺の名前、裏には・・・ランスと書かれていた。
「これはいつ届けられたものですか?」
「え〜とね・・・今日の朝になっているわ。」
俺はその場で封を開けると内容を読む。
「ありがとうございました。部屋を片付けちゃいますね」
俺は五人部屋に向かい、荷物はないけど貼りつけてある自分のネームプレートをはがす、結構すぐ見習い期間が終わってよかったな。
俺はすぐに冒険者ギルドを出て町の外に出るための外壁に向かう、門番さんにドヤ顔でギルドプレートを出して見せると「がんばれよ」って声をかけてくれた。
町から離れて俺は西の森へ向かいながら装備を雷鳴の剣に変更し、暗殺者の衣のフードを被る。
何があるかわからないので準備は万全にしておきたい。
手紙の内容は「話がしたい、西の森で待つ」とだけ書かれていた。
俺は西の森の入り口につくと、索敵を使って周囲を探るが周辺には特に何もない。
少し歩くと、一つだけぽつんと気配があるのを感知する、相手に気がつかれないように音を立てずゆっくり気配を殺して進んでいく、相手の姿が見えた。
「早かったですね。何日か待つものだと思っていましたが。」
気がつかれた!?気配を完全に殺しているのに。
俺は平静を装い問いかける。
「久しぶりですね。ランスさん、いえセバンスさん」
そう、森で立っていたのは仮面二号の姿をしたセバンスさんだった。
ランスというのは教会の誘拐犯に依頼をした人物の名前だ、まさかセバンスさんだとは思わなかった。
「わざわざ手紙をくれるとは思いませんでした。それで、俺に何か用でしょうか?報復とかそんな感じですか?」
仮面を外して首を振るセバンスさん。
「いえ、手紙に書いた通り話がしたかったのです。単刀直入に聞きます。ナイン様、あなたは・・・勇者ではありませんか?」
セバンスの言葉に動揺する、何故ここで勇者が出てくる?俺が何も答えずにいると。
「当たらずとも遠からず、というところでしょうか?私はね、昔、勇者に会ったことがあるのですよ。ナイン様の言動には違和感がある、それを観察しているうちにどうしても勇者とダブってしまったのです。そして一瞬だけですが見えた腕輪、スキルや魔法を封じるものではありませんか?強い力を隠すためのもの、もしくは副作用を軽減させるため。」
俺は衝撃を受ける。
確かに同じ日本から来たということで、行動が日本の常識に囚われて動くこともある。
ただ、俺はそんなにセバンスと会っていないはずだ。
期間も約三日、そこまでわかるものなのか?
「残念ながら俺は勇者じゃありません。」
「他のことには答えていただけないのですね。ではこれは知っていますか?人工勇者計画」
これはある程度予想はできた。
勇者、副作用とくれば、関わっている人物なら出してくる話だろうと。
これでセバンスは人工勇者計画の関係者だ。
「もちろん知っています。魔王に挑んで勇者と共に全滅したと聞いています。」
「私はね。人工勇者計画で作られた失敗作なんですよ」
何!?俺はセバンスと会った事はないはずだ。
それに大人はいなかった・・・一番上でも確か十五才だったはずだ。
「人工勇者計画はここ数年で有名になりましたが、何十年も前から行われていました。当時はまだ手探りの状態で、今よりさらに酷い人体実験が繰り返されていました。私達はその中で魔物の魔石を体内に入れて魔力を強制的に上げる実験を施された。」
魔石を体内に入れるなんて正気の沙汰じゃない、魔石は魔力の塊だ。
魔素は取り込めるが、一度魔力に変化したものは他人が取り込めるものじゃない。
「実験は成功したかに思われました。だが、数日であるものは発狂、あるものは魔物に変化、そして私は魔力を失い、ほとんどの者が制御不能の暴走を始めたのです。研究施設は崩壊、殆どの実験体が死滅する中、私だけが自我を取り戻し生き残ったのです。・・・私はこれで人として生きられるのだと、助かったのだと勘違いをしていたのです」
副作用か・・・人工勇者計画には俺に起こったような副作用が存在する。
身体の機能を強制的に引き上げるため必ずどこかに不具合が生じる。
俺の過魔素吸収症もその一つだ。
「初めは少し体調が悪くなるだけでした。しかし、そのうち意識を失うようになってしまったのです。そして気がついた時には、周りの人間がみんな死んでいる。そう副作用として、取りこんだ魔石の魔物の殺戮衝動が出てしまうのです。幸いといっては何ですが、少ししてコントロールができるようになったのですが、その衝動がなくなることはありませんでした。では、そこで私が殺戮衝動を発散させるために行ったことは何だと思いますか?」
そこにつながるのか・・・それが裏切った理由だと。
「今回のことを考えると、奴隷か?」
「正解です。定期的に奴隷を買い、その者たちを弄り殺すことで殺戮衝動を発散させることを思いついたのです。魔物ではダメなのです。人族、獣人、魔族などの人類でなくては。伯爵に仕えるのはちょうど良かったのです。もみ消すことが簡単にできる。なので今回の法案はどうしても通っては困るものだったのです。だから反対派の貴族に加担した。」
基本的に重度の犯罪奴隷は強制労働として鉱山や命を失う可能性が高いところに送られる。
一領主の執事がそこに関与して奴隷を回してもらうということはできない。
だが軽犯罪の奴隷や違法奴隷は簡単に手に入れることができて生死を気にするような人もほとんどいない。
それが法改正によって管理、解放されてしまうと殺戮衝動の発散ができなくなる。
「そうですか・・・事情はわかりました。このことは領主様に報告したほうがいいですか?」
「そうですね。報告してもらってもかまいませんが、ナイン様がここから帰ることができたら、という話になります」
「無事に帰してもらうってことはできないのでしょうか?」
「それは難しいですね・・・。そろそろ殺人衝動が出始めていましてね。今の私は、あなたを殺したくてしょうがない」
俺たちは同時に剣を抜いた。
改稿




