見習い冒険者5
「遊び相手?お父様、どういうことでしょうか?」
ロゼット様が困惑している、冒険者に遊び相手を頼むとか意味不明だろうな、俺だって意味がわからない、察しはつくけどな。
「これから仕事でね。一週間、もうちょっと長くなるかもしれないがここを離れることになっていてね。学校も休みだし、その間のロゼットの遊び相手になってもらおうと思っているんだよ」
遊び相手か・・・まあ俺は誘拐犯からロゼットを助けている、若干不審な点はあるが伯爵邸内に敵の目があるかもしれない今だと信用できる人間の一人であると判断したのかな。
俺が敵の内通者であるならロゼットを助ける意味もないし。
「それは・・・私の護衛ということですか?」
流石に気がつくよな、ロゼットも渋い顔をしている。
「まあそういうことだね。もちろん彼以外にも護衛は用意している。ただ、大人ばかりだと疲れてしまうんじゃないかと思ってね、ナインなら歳も同じだしちょうどいいと思ったんだよ」
ロゼットは複雑な表情をしている。
俺はどうするか・・・正直、貴族のお嬢様の相手なんてできない、でも伯爵を見る限り何か考えがありそうなんだよな。
「わかりました。遊び相手を引き受けさせて貰います。期間は伯爵が帰ってくるまでという事でいいでしょうか?」
他にも護衛がいるなら安心だろう。
「よし契約成立だな、部屋を用意させるから今日から頼むよ。依頼書を書くからナインは執務室に一緒に来てくれ」
そう言うと俺と伯爵は席を立ち執務室に移動する、ロゼットは何処かに行ってしまった。
執務室に入ると、伯爵は何かの魔法道具を起動させる。
これは・・・音を外に漏らさないヤツだな、帝国でもよく使われていた。
「さて、ここからは秘密の話だ。私は王国である法案を通そうと動いていてね。明日から王都に行ってその法案の採決をとるのだがもう通ると決まっているんだ。ただそれを阻止しようとする反対派が今回のロゼット誘拐を企んだと確信している。」
よくある政治がらみのゴタゴタだ、でも誘拐してまでってよっぽど反対なんだな。
「だから誘拐だったんですね。殺してしまっては脅せない。脅して法案を出させないってところですか」
「ああ、その通りだ。だから今回の誘拐はまさにギリギリだったんだ。本当に助かったよ。ただ、これからの一週間はそうは行かない。相手もなりふり構っていられないからね。」
だから一週間の護衛か、内通者がいるなら結構危険だと思う。
「私もロゼットも少し前から狙われていてね。正直、信用できる手駒が足りないんだ。そこで君にお願いしたい。」
「かなり危険な依頼ですよね。俺は見習いですが大丈夫なんですか?」
「本来なら数を揃えるべきなんだが、どこに手が回っているかわからない。兵士にも伯爵邸にも内通者がいる事がほぼ確実だ。冒険者にも接触している可能性がある。」
だから見習い冒険者でタイミング的に敵との接触のない俺が選ばれた、ってことか。
「わかりました。どれだけできるかわかりませんが頑張ってみます」
「いい度胸だね!普通は尻込みするところだけど・・・君はどれだけ強いんだい?」
「とりあえずは見習い最強ってところですかね。」
ジャギさんに勝ってるからそれで良いよね。
答える気がないのがわかったのか伯爵は苦笑いをする。
「では一週間よろしく頼むよ、見習い冒険者ナイン。」
俺と伯爵は握手をすると執務室を退出した。
執務室の前にはメイドさんが待機していてすぐに俺の自室となる部屋へ案内してくれるが、そこはロゼット様の隣の部屋だった。
護衛とはいえ、伯爵令嬢の隣の部屋を俺みたいな見習い冒険者に使わせていいのだろうか?しかも俺は男だぞ。
俺は部屋に入ると念のため索敵を使う・・・部屋を見張っているような気配は無し、本当に普通の部屋だ。
隣の部屋には気配が二つあるからロゼット様とメイドさんて感じだろうか。
俺は部屋に異常がないことを確認したのち、特に部屋ですることもないのでロゼット様の部屋に向かう。
コンコンコン
「どうぞ」
メイドさんが開けてくれた扉を通って俺はロゼット様の部屋に入る。
「さっきぶりですねロゼット様。遊びに来ました。」
「ナイン様・・・護衛を引き受けたのですか?危険ですよ。」
「大丈夫ですよ。一週間程度なら守り通して見せます。あの時言ったでしょ?冒険者は強いんですよ、まぁ実際は見習いですけど。」
少し笑ってくれた、一度誘拐されているから怖いのだろう、そして護衛が俺みたいな十才の子供だと尚更な。
その日は遅くまでロゼット様と遊んだ、遊んだといっても主にロゼット様の学校での話や俺の話をしただけだが、ただ見習いになって日が浅いので俺は大した話はできなかったが。
次の日、伯爵様が王都に出発した。
俺とロゼットは伯爵を見送るとロゼット様の部屋に行く、これから一週間、できる限りロゼットの傍にいるつもりだ、全体的な指示は第一執事のセバンスさんがとり行い俺は基本自由に行動できる。
伯爵邸の人数はそれほど減ってはいないが、戦える人間の数は伯爵様に約半分が道中などの護衛として着いて行ったので、戦力は減っている。
「ナイン様は魔法は使えるの?」
「はい。初級程度なら使えますよ。ちょっとやって見せますね」
そう言うと部屋にあるクマのぬいぐるみに時空魔法を使う。
「リジェクト・ケージ」
クマのぬいぐるみを覆う結界ができる、時間経過で消滅するがかなり使い勝手のいい魔法だ、生半可な攻撃じゃ破壊することはできない時空魔法の初級だ。
俺は腰についている剣をロゼットに渡す。
「これで斬りつけてみてください。壊れませんから」
「これでですか?」
おっかなびっくり剣を握る。
ん?学校に行っているって言ってたから剣ぐらい使えると思っていたが違うのか?
ゆっくりとクマのぬいぐるみの前に行くと軽く触れさせる、音はならないがそれ以上は進まない。
「すごい!全然剣が進まない。壁があるみたい!」
うん、納得してくれたみたいだ。
「これなら変なヤツが襲ってきてもロゼット様を守れますし、他の冒険者が駆けつけてくるまで二人で耐えることができますよ。ただこの魔法のことは内緒です。対策されると困ってしまうので」
「うん。わかった。これなら安心できるね」
二人で結界で遊んでいるとロゼット様の勉強の時間になった、学校が休みといってもそこは伯爵家、家で勉強はするみたいだ。
家庭教師の先生が部屋に来て勉強を教える中、俺はソファーに座ってその様子を眺めていた。
護衛を引き受けた理由はこの魔法にある、新しく覚えた時空魔法は防御に優れた魔法だ。
これがある限りは離れすぎなければ何とか守っていけるだろう。
たぶんだが伯爵邸に襲撃があるとすれば夜中、王都で会議があるのが三日後だから、この三日間のうちに襲撃があると俺もセバンスさんも予想している。
ロゼット様の勉強が終わると夕方になっていた、ここからが本番だ、領主様がいないので食事はロゼットの部屋でとることになっている。
俺は索敵で建物全体を探っていく、考えた結果ロゼット様の部屋に近づく人だけ注意を払っておけばいいと結論づけた。
相手の成功はロゼットの誘拐、俺の成功はロゼットを誰にも渡さないこと、はっきりと勝ち負けがわかっているので俺としてはやりやすい。
そんなこんなで夕食時、豪華なメニューが俺とロゼットの分が運ばれてくる。
メイドさんが配膳し部屋の隅に退いた後、俺はスキルを発動する。
「鑑定」
目の前にある食事に一つ一つ鑑定をかける。
スープ・・・睡眠薬が配合されており時間経過で眠くなる。
睡眠薬入りスープか・・・速攻で仕掛けてきたな、大金をかけた誘拐が失敗して相手も焦っているのかもしれない。
もう伯爵邸内の内通者の存在を隠してちまちまやる余裕はないってことだな。
「ロゼット様。食事に睡眠薬が入っています。スープは食べないようにしてください」
「えっ!?本当ですか?まさか・・・そんな」
ロゼットは顔を青ざめさせている。
同じように顔を青ざめさせているメイドさんに一瞬で近づき剣を突きつける。
「ひっ!?」
「睡眠薬を入れたのはお前か?」
顔をプルプルさせて否定する。
「こ、これを作ったのは料理人のダースです。わ、私はそれを運んできただけですので何もしていません」
「料理に他に手を触れた者は?睡眠薬を入れる事ができる者は?」
「い、いません。」
「ロゼット様、ベルを鳴らして人を呼んでもらえますか?俺はこのメイドさんを見ています」
俺はロゼットにベルを鳴らしてもらいセバンスさんを呼んでもらう。
駆けつけてきたセバンスさんはメイドに剣を突きつけてる俺を見て慌てる。
「ナイン様どうなさいました?そのメイドが何か!?」
「スープに睡眠薬が入っています。作ったのは料理人ダースと、手を触れる事ができるのはこのメイドだけだそうです。」
セバンスさんは理解するとすぐさまメイドを拘束して、厨房に向かい逃げる準備をしていたダースも拘束した。
拘束したダースのポケットの中に睡眠薬の粉の一部が発見され、ダースは地下牢で尋問を受けることになった。
だが、料理人という立場ではロゼットの詳しい予定や護衛の数がわかるわけがないと思う、彼がわかるのは今日は食事をとるのかどうかぐらいなんじゃないかな。
ダースのコミュニケーション能力が高くて情報を仕入れるのに長けているって可能性も否定はできないが、俺はまだ他に内通者がいる前提で護衛した方がいいだろう。
睡眠薬騒ぎで食事を食い逃した俺とロゼット様は、しょうがないので俺が持っている干し肉と水で夕飯にした。
内通者が一人発見できた事で芋づる式に捕まえようとセバンスさんは今頑張っている。
俺は内通者の登場で落ち込んでしまったロゼットと一緒にいた、かなりショックを受けているみたいだな。
「まさかダースさんが内通者だったなんて・・・」
どう慰めたら良いかわからずに、俺は隣に座って失礼かと思ったがロゼット様の頭を撫でていた。
ある程度すると落ち着いてきたのか俺にもたれかかってくる。
「そんな時のための俺ですよ。初日から辛い事がありましたが、必ず守りますから」
「ありがとう、ナイン様。どうか私を助けてください。」
そのまま眠るまで手を握っていた。
改稿




