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骨董魔族の放浪記  作者: 蟒蛇
間章
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閑話 ~アルクラドとドワーフの酒宴~

 ラゴートでの魔物騒ぎがあった日から数日が経ったある日、アルクラドとシャリーは、数多くのドワーフに囲まれていた。ドワーフ達は皆、顔を赤くし、何かを大声で喚き散らしている。

 場所はラゴートのとある料理屋。彼らは酒盛りの真っ最中だった。料理屋で食事をしているアルクラドに、あるドワーフが声をかけたのが事の始まりだった。


「オルネルが剣を打ってるってのは、あんただよな?」

 冒険者風の出で立ちのドワーフが、食事中のアルクラドに声をかけた。手には杯を持ち、頬が僅かに赤くなっている。

「そうである」

 料理を飲み込んだアルクラドは、視線を向けることなく答え、再び料理を口にする。

「どうやってあの頑固者に認められたんだ? 教えてくれよ!」

 どうやらこのドワーフの冒険者は、オルネルの武器を持ちたいと思う者の1人のようだった。厳つい顔と髭面のせいで他種族からは分かりにくいが、このドワーフはまだ青年と言っていいほどの年齢だった。若者が名工の仕事を手にしたいと思うのはよくあることで、彼もどうにかしてオルネルの武器が欲しかったのだ。その為に、剣を打ってもらっているという噂のアルクラドに、オルネルに気に入られる秘訣を聞き出そうとしているのだった。

 オルネルは基本的に気に入った仕事しか受けない。そんな彼が仕事を始めると、誰の為に武器を打っているのか、と噂が飛び交う。今回も例に漏れず噂が飛び交ったが、オルネルの仕事相手はすぐに特定されてしまった。

 エルフを連れた黒ずくめの麗人が、何度もオルネルのねどこを訪ねている。この情報さえあれば、アルクラド達を見つけることは容易い。加えて言えば魔物騒ぎが終わってからというもの、アルクラド達は毎日料理屋巡りをしている。その為アルクラドは多くの町人の目に移り、オルネルを納得させた2人組、などと囁かれたりしていた。

 アルクラドは今もシャリーと共にある料理屋で食事を取っていた。そんなアルクラド達を見つけ、酒の力も借り、一大決心をして声をかけたのが、このドワーフの青年だったのだ。一見すると若く見えるアルクラド達。そんな2人が認められたのだから、自分もいける、と彼は思っているのだ。

「識らぬ」

「アルクラド様……」

 依然として視線を上げないままのアルクラドから返ってきたのは、素っ気ない言葉だった。そんなアルクラドに、シャリーはもっと言い方があるだろう、と苦笑いを浮かべる。

 しかしアルクラド自身、オルネルに認められる為に行動したつもりは一切ない。彼に気に入られたのも、聖銀の剣を持っていたことや、偶々オルネルの傑作品を選びだしたなど、偶然によるところが大きい。故にどうやって認められたかなど、アルクラド自身が知らないのだ。

「そこをなんとか! 俺、どうしてもあの人の武器が……」

「やめとけ。お前じゃどの道、実力不足だ」

 食い下がる青年を、新たにやって来たドワーフが引き留める。厳つい髭面ではあるが、肌や髭の色つやから青年よりは年嵩だと思われた。

「よう。ミミズ退治じゃ大活躍だったな」

 そう言って年嵩のドワーフはアルクラド達の前に腰を下ろす。アルクラド達は知らなかったが、彼も岩ミミズ討伐の依頼に参加し、アルクラドが幾匹もの岩ミミズを斬っていくのを見ていたのだ。

「オルネルは頑固で偏屈だが、鍛冶に対しては真摯だ。戦士としての強さ、武器を巧みに操る技術、武器を正しく使う知識とそれに対する思いやり。それがなきゃ、いくら剣が欲しいと言っても、打ってはくれねぇさ」

 年嵩のドワーフは青年をたしなめるように言う。

「まずは強くなることを考えな。岩ミミズを剣で斬れるくらいにな」

「岩ミミズを剣で斬るなんて……」

 強くなれというドワーフの言葉に、青年はそんなことは無理だと言う。それを聞き、年嵩のドワーフはため息交じりに肩をすくめる。

「この人は、とんでもねぇ数の岩ミミズを、剣で斬ってたぜ?」

「そんなっ……!?」

 続く言葉に、青年は信じられない気持ちで、アルクラドを見た。線が細く決して強そうには見えない彼が、それほどの力を持っているとは思えなかったのだ。

 そんな2人の会話を、アルクラドは気にすることなく料理を食べ続けている。対してシャリーは、アルクラドを参考にするのは止めた方がいい、と内心で思いながら苦笑いを浮かべていた。

「おうっ、あんたがミミズ討伐で大活躍だったって奴かい?」

「オルネルが仕事を受けたっつうから、どんなゴツい奴かと思ったら……」

 そうしていると2人のドワーフの話を聞きつけた店の客達が、アルクラド達の周りに集まってきた。ミミズ討伐やオルネルのことで噂になっているアルクラド達を、町人の多くが気にしていたのである。2人のドワーフが話す様子を見て、この機会を逃すまいとやって来たのである。

 周りから色々と質問を投げかけられるアルクラドは、料理を嚥下する度にひと言ふた言、言葉を返していく。全く言葉足らずの時もあったが、その時にはシャリーがその補足をしており、気づけば多くのドワーフ達に囲まれていたのである。

 酒を提供する料理屋でドワーフ達が集まる。そうなればやることは1つしかない。それにアルクラドも巻き込まれていったのであった。


「手前ぇら、仲間連れてこい! この澄ました野郎をぶっ潰すんだ!」

「おうっ! ここで引いたとあっちゃ、ドワーフの名折れだ!」

 顔を真っ赤にしたドワーフ達が、大声で物騒なことを叫んでいる。その前でアルクラドは平然としているが、テーブルの周りには床に倒れる数多くのドワーフの姿があった。シャリーはシャリーで仄かに顔を赤くし、フワフワとした様子でユラユラと身体を左右に揺らしている。

「俺達ドワーフが、酒で負けるわけにはいかねぇ! こいつを絶対に酔い潰すんだ!」

 ドワーフ達との酒宴が始まった頃は、皆が穏やかに飲んでいた。しかしドワーフ達の酔いが深まると、アルクラドを巻き込んで酒の飲み比べ始まったのである。シャリーはドワーフ達に、アルクラドは酔わないから勝負にならない、と忠告した。しかしそんな奴がいるわけねぇ、とドワーフ達は反発。何としてもアルクラドを酔わせてやる、と逆に息巻いてしまった。

 かくして飲み比べは、アルクラド対ドワーフという構図になったのだが、結果は明らかであった。

 ドワーフ殺しを水の如く飲むアルクラドの前では、いくら酒豪揃いのドワーフであっても手も足もでなかった。白い肌に一切朱が差すことのないアルクラドに対し、ドワーフ達の顔はどんどん赤くなっていく。そして限界を迎え、次々と床に倒れていくのであった。中には今にも嘔吐物をぶち撒けそうなほど真っ青な顔をした者もおり、彼らは他の客の手によって店の外に放り出されていた。

 その様子を見て、ドワーフ達は更に白熱した。1人の旅人に束になったドワーフが負けたとなれば、ドワーフの名が泣く、と何とかしてアルクラドを酔い潰そうと躍起になっていた。町中のドワーフが店に押し寄せ、順にアルクラドと杯を交わしていく。

 そんな飲み比べは、その店と近隣の店の酒がなくなるまで続いた。しかしドワーフ達はアルクラドの顔色1つ変えることができず、逆に店の外に自分達の屍を積み上げることになった。

 ラゴートを出立する数日前、アルクラドはこの町に1つの伝説を作り上げたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

アルクラドに飲み比べを挑む、無謀なドワーフ達でした。

少し時間が空きますが、次話より7章に入ります。

次回もよろしくお願いします。

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