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探偵のオペラ【9】


 主人公である少女の名前はエマ。

 幼い頃に火事に巻き込まれ、顔が焼け爛れてしまった。心のない言葉を浴びせられるのも少なくない。


「お前のような顔の女は貰い手がいないだろうな!」


 幼馴染のクーレルはエマにそう言い放つ。

 彼はクルミ座の支配人の息子だった。エマはずっと街の花形ともいえるクルミ座の舞台に立つことを夢見ていた。

 焼け爛れた皮膚ではそれも叶わない。どこかに雇ってくれる場所もなく、少女はクーレルの父親であり、クルミ座の支配人であるパスカルの善意により、クルミ座の清掃員となった。

 真夜中にクルミ座の舞台で昼間の舞台を思い出して、プリマドンナの演技を真似て舞台で声を張る彼女を見ている影が一つ。


「見返したいか?」


 果たして、その男の声は悪魔の甘言か、天使の恵みか。


「見返したいに決まってるでしょう?」


 焼け爛れた顔を包帯で隠す少女は咆哮するように影に答えた。影は黒いマントで全身を包んだ男であった。彼は彼女の前に立ち、手を差し伸べる。


「願いと引き換えに何か代償をもらおう!さぁ、願え!お前の望みを!」


 エマは悪魔の手を取った。


「美しい顔が欲しい。そうして、みんなを見返すのよ!」


 反抗心や復讐心は、生きるための原動力にはなりえるが、その火力が強すぎると自分さえも燃やしてしまう。悪魔は彼女も自身の心に燃やされてしまうと考えていた。


 エマは自身の歌声に自信があった。


「今のプリマドンナを引きずり落して、私がクルミ座の舞台に立つわ」


 真夜中の舞台で、悪魔を相手に彼女は新しい顔で妖艶に微笑んだ。その笑みを見て、悪魔も笑う。


「お前が、プリマドンナになる姿を見てみたいな。もし、プリマドンナになれなかったら、私と一緒に地獄に堕ちてもらおう!」


「堕ちるのは貴方だけで結構よ。少なくとも生きているうちは私はこの顔で人生を謳歌するのだから。プリマドンナにだってすぐになってみせるわ」


 プリマドンナになれなかったらクルミ座に巣くう悪魔と共に地獄に堕ちる。そのような代償を自らにかけて、彼女は清掃作業に手を抜くこともなく、次の日から練習に参加させてもらえるように支配人に頼み込んだ。

 事故から彼女の身に起こる不遇に心を痛めていた支配人のパスカルは彼女の頼みを素直に聞き、彼女はコーラスガールとなる。しかし、プリマドンナへの道は遠いばかりか、エマの歌声に自身の立場への危うさを感じ取ったプリマドンナのアンネが彼女が舞台にあがれないように小細工を用意し始める。


 アンネは自身を支持する裏方のルノーをはじめとした人間にエマを怪我させようとして、それをクルミ座の悪魔に見つかってしまう。


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