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遺産相続パニック【12】


「坂口さんからレーズンサンドの差し入れだ」


 砂橋に一つ、雛子に一つ、レーズンサンドを渡した。俺は食べるつもりがないが、ここで二人のうち一人にもう一つレーズンサンドを渡したらかわいそうだと俺は自分のポケットの中に隠すことにした。


「それにしても一人じゃできないゲームもたくさんあるな。坂口さんといつもやっていたのか?」

「ちがうよ。おじいちゃんと瞳ちゃんと一緒にいつもやってるの!」

「瞳ちゃん?」


 おじいちゃんというのは朗氏のことだろうが。


「坂口さんの下の名前じゃない?」

「なるほど」


「おじいちゃん、ゲーム下手なの!いつもヒナに負けてばっかり!だから、いつもヒナがね。教えてあげるんだよ!」


 きっとそれはわざと負けていたのだろう。いくらなんでも八歳の子供相手にゲームで毎回負けるわけがない。


 俺はちらりと砂橋の方を見た。


 砂橋は俺をゲームにつき合わせる時、自分が勝つまでゲームを終わらせない節がある。雛子に対してもその負けず嫌いが発揮されてしまったらどうしようか。いや、さすがに八歳の子供相手にゲームで勝とうと躍起になることはないだろう。


「人生ゲームとか人数が増えれば楽しいよね」


 まぁ、いつも二人でできるゲームしかやってこなかったからな。今度は三人でもできるゲームなどを探して、探偵事務所の笹川も巻き込んでゲームでもし始めるかもしれない。笹川なら砂橋を勝たせようとするかもしれないが、俺には意地でも負けないだろう。三人でのゲームではなく、二対一の戦いになってしまう。


「……おじいちゃんのことは好きだった?」

「好きだよ!大好き!」


 どれだけ好きかというのを表すかのように雛子は両手を精一杯に広げた。


「そっかぁ。おじいちゃんに何か数字のようなものを教えてもらったりしたことない?二人だけの秘密の合言葉とか」


 砂橋の言葉に俺は目を剥いた。


 先ほどまでは金庫の数字など探らないと言っていたくせにすぐにこれだ。きっと雛子と遊ぶのを受け入れたのも他の人間がいない時に雛子から金庫の開け方を探るためだったのだろう。


 しかし、雛子は首を傾げた後に「ないよ!」と元気よく返事をした。


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