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アイドル危機一髪【31】


 ここで二人の生産性のない言い争いに巻き込まれるのも面倒だ。はるかの喚き声に北斗は鬼の形相をしていたが、やがて深く息を吐いた。


「いや、いい。どうせ、フルーツフィールドは落ち目のアイドルグループだ。こんなグループのマネージャーをするくらいなら、解散させようと思ったのも本当だ。でも、結局、ストーカーをしたのはそこの葛原だろう?俺は関係ない。でも、窃盗をしたアイドルがいるグループ、もう解散だな。俺はマネージャーなんだ。俺の証言が事務所にとっては一番信用できるだろ」


「って言ってるけど、どうする?社長さん」


 砂橋さんは自分のスマホを持ち上げると通話画面に移行して、スピーカーに切り替えた。


『……話は聞かせてもらった。握手会は中止だ。北斗くんとはるかくんは後で社長室に来るように』

「え……社長……?」


 砂橋さんはスピーカーを切り、スマホを耳に当てた。


「ストーカーの方はどうします?警察にこのまま連れて行きましょうか?はいはい、分かりました。ああ、二人にはちゃんと社長室行くまでうちの笹川をついていかせますんで。はい」


 砂橋さんが通話を切ると同時に、北斗はその場に座り込んだ。


「ということで、笹川くん。はるかと北斗の二人が社長室行くまでついていって」

「分かりました」


 俺が北斗に近づいて、腕を掴むと彼はすんなりと立ち上がった。はるかの方に近寄ろうとすると、彼女は叫び声をあげて、テントの隅へと逃げて行った。


「やだやだ!はるか、悪いことしてないもん!」

「いい加減にしなさいよ!」


 俺よりも先に苺果がはるかの目前へとせまり、右の頬に平手打ちを食らわせた。


「私に桃実が社長と枕営業してるんじゃないかって教えたのも、桃実が嘘ついてるって言いだしたのもあんたじゃないの!悪いことしてない?よく言えたわね!悪意しかない行為じゃない!」


 右の頬を赤く染めたはるかはぽかんと苺果を見ていたが、やがて目を潤ませた。嗚咽混じりに「はるか、悪くないもん」と何度か言っていたが、俺はそれを聞くことなく、彼女の腕を掴んでテントの外へと出た。


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