旦那ちゃんと嫁ちゃんのエピソード3~そして転職へ~
えぴそーど3です。
嫁ちゃんが長年勤めていた仕事から転職して、1年が経ったある日のこと、
「俺も会社辞めようかな」
機は熟したと思い、旦那ちゃんは呟いた。
元々、旦那ちゃんは嫁ちゃんより転職としようと思っていたのだが、先を越された感じとなってしまって、彼女の仕事が落ち着いてきた今ならと伝えたのだった。
何より嫁ちゃんも転職したという事実があるので、言いづらいという葛藤はなかった。
「いいよ」
嫁ちゃんのあっさりとした返事に、面くらう旦那ちゃんだったが、
「だけど、ちゃんと仕事はしてよね」
らしい返事がやってきた。
「勿論」
旦那ちゃんは頷く。
「あてはあるの?」
「それねぇ・・・うーん」
旦那ちゃんは、今の仕事を辞めたいという思いはあったが、具体的にその後どうするのかという考えはなかった。
休日、たまたま柳川の川下りを楽しんだ旦那ちゃんと嫁ちゃんだった。
旦那ちゃんは、そこでこれだと確信したのだった。
80過ぎのベテラン船頭さんが楽し気に川下りとガイドをしているのを聞いて、ビビビッと来たのだった。
「船頭になろうかな」
「はあ?旦那ちゃんが?鈍くさい旦那ちゃんが?」
「いやいや、勝算はあるよ」
「私にはみえないけど」
「いいかい、まず歴史好きであること、ワシ発掘調査員していたでしょ、それから保育士の経験から人前で立っている。のど自慢予選で度胸もついている。パチ屋のバイトで声出しもOK。これって天職ちゃう?」
「そっか、さんざん転職しているものね」
「そうそう。今までの経験が活きると思うんだ」
「うーん。でも、センスないじゃん、君」
「・・・・・・」
「それにいまの会社が一番長続きしているんでしょ」
「うん10年続いている・・・」
「40を超えて、いい年しての転職、そんなに甘くないと思うよ。よく考えて」
「・・・うん」
旦那ちゃんは一瞬、自分だってとつい口に出しそうになったが、その言葉を飲み込んだ。
だけど、旦那ちゃんの心はすでに決していたのだった。
10年勤めた会社だったけど、最近、心が全く前を向かないしヤメ時だと感じていた。
しかし、船頭という職業はどうやってなれるのだろう。
コネ?それとも凸してみる?
なんぞ考えながら、旦那ちゃんはぼちぼちと次の職を探しに職安へ行くようになった。
現実的に船頭っていったって、どうやって・・・あ・・・募集しとる。
旦那ちゃんは、普通に求人されていたのに驚いた。
おおっ!と嬉々とするも、もたもたしている内にその求人はなくなっていた。
旦那ちゃんは、これは仕事を続けろという啓示かなと感じ、次の求人までと思うことにした。
明けて新年の初詣、おみくじにも仕事運、今は動くべからずなんて書いてあったので躊躇する一因にもなった。
そうして、秋ごろおみくじのことも忘れたある日、職安へ行ってみると、船頭の求人があった。
旦那ちゃんは、舟会社の求人要綱を印刷して家へ持ち帰り、嫁ちゃんに報告する。
「俺、やっぱり船頭になりたい」
「・・・わかったわ。でももしダメだったら、すぐに切り替えてね」
「?」
「私は旦那ちゃんが出来るとは思わないんだよなあ」
「・・・たしかに」
ふたりは笑い合った。
それから旦那ちゃんは、職安を通して、面接となり、トントンと就職が決まった。
ついに船頭になることが決まり、今度は勤めている会社へ退職願いをだし、3か月後に辞める事が決まった。
一度、事が決まるとあっさりとしたもので、あとは流れるように日が過ぎ去っていった。
そこで旦那ちゃんの懸念事項を解決する日が来た。
ともに暮らすお義父さんへの報告だった。
旦那ちゃんは早々に父母には伝えていたのだが、お義父さんにはなかなか伝えられずにいた。
そこで嫁ちゃんが、貰った牛しゃぶ鍋屋のチケットをネタに夕食会をすることになった。
美味しい牛肉をしゃぶしゃぶし、お酒を飲んで、ほろ酔い気分、宴もたけなわという
ところで、旦那ちゃんは正座をし思いを伝える。
「お義父さん、私、仕事をやめることにしました」
「ふーん」
「あ、旦那ちゃん、すぐに次の仕事するのよ」
嫁ちゃんは、すかさずフォロー。
「何をするの」
「船頭です」
「ほー、俺ももうちょっと若かったら・・・いいんじゃない」
「ありがとうございます」
結婚報告以来となるめっちゃ、緊張しまくっていた旦那ちゃんは、ほっと肩の荷が
おりる。
「よかったね」
「ありがとう」
年がまた明ける。
旦那ちゃんは会社を辞めて、川下りの仕事まで二週間の休みとなった。
その期間を利用し、2人は広島旅行へとでかける。
一月、こちらにしては珍しい大雪の日だった。
車で高速を走らせ、関門海峡を越えたあたりから大雪となり、安全の為途中でインターを降り呉から鞆の浦の宿へ。
ちょっとした英気を養いつつ労いの旅となった。
数日後、旦那ちゃんは嫁ちゃんに励まし見送られ新しい仕事へと向かった。
こんなこともありましたね。




