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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
剣豪領主

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キンティー村の戦い1

 シリル・バールの協力を得られた時点で、もう後顧の憂いはなくなった。


 俺はキンティー村の領主のバスティン・バークスに、クルトゥワ伯爵家からミュー海神神殿に明け渡すようにという命令を受けたので、それに従え――と勧告書(および裁許状の写し)を送った。もちろん、従わないようなら兵を送る用意があるとはっきりと書いた。


 これで素直に従う者はいない。バスティン・バークスはすぐに周囲の領主に助けを求めただろう。だろうというか、求めた。こちら側の陣営の密使も送り込んでいるし、そうじゃなくても、緘口令を徹底するほど向こうに統率はとれてないのだから、情報はいくらでも入ってくる。


 俺はコルケ屋敷に家臣団を集めた。


「――というわけで、バスティン・バークスは北側の海に近い側の領主を中心に仲間を募っています。言うまでもなくあの領主連合の再来です」

 ラコが説明役を担当する。


「今で、どれぐらい集まっている?」

「敵は500人は集められそうなようです」

「あれ、思ったよりも意気盛んだな」

 俺の剣士としての腕はノイク郡ではかなり広まっているはずだが。それでもかなりの数の領主がこちらと戦おうとしているらしい。


「ちなみに、レオン側の兵がそこまで集まっていないという情報も流しています。せいぜい300人ぐらいだと」

 ああ、誤情報をきっちり流しているのか。


「それで、本当はどれぐらい集まりそうですの?」

「こっちも500人は集められます。結論から言うと、これだけで十分です」


「十分? 数では負けているようですが……」

 ナディアが不思議そうに尋ねた。


「敵の兵はたんなる寄せ集めです。一方で、こちらは土地を所有する正当な根拠を持っています。あと、こちらが兵を集める時にはクルトゥワ伯爵家の裁許状は強調していません。それで500人集められるようなら多すぎるぐらいです」


「どういうことでしょう? 大義名分は見せつけるに越したことはないのでは……。今は旗幟きしを鮮明にしてない領主が従うこともあるのでは……」

 ウォーマーも意味がわからないという顔をしている。


 ラコがにやっと笑った。

「旗幟を鮮明にしなかったことを理由にあとで堂々と詰めることができますので、これでよいのです。周囲に仲間もいなくなったところでクルトゥワ伯爵家に楯突いたと言われれば、小領主はこちらに服属するしかなくなります」


 そう、協力してくれる領主はほどほどでいい。そのほうが次の大勝の価値が上がる。


「大きな会戦は次が初だな」

「まあ、大領主からすれば小競り合いの規模でしょうが、我々にとっては大切な戦いですね」


 竜騎士家の当主らしい戦いになるな。


「キンティー村が手に入れば、街道にも影響力を出せる。つまり郡の物流にも力を伸ばせる。なんとしてもここは取りたいよな」


「もっとも、キンティー村はおまけですがね」

 ラコが今日一番悪賢い顔になる。

「おい、どういうことだ? ラコ、俺も聞いてないことをいろいろ画策してるだろ……」


「おっしゃるとおりです。大軍を集めてキンティー村の近所で会戦してもいいかと思ったんですが、はっきり言って効率が悪いなと感じていました。そこから先の北への進出ペースが少し遅くなりますので。それでもっとインパクトの強い策を考えていました」


 こういう時のラコが一番生き生きしていると思う。

「ただ、これまでは対抗してくる領主の位置関係が読み切れなかったので、この策が具体化しづらかったのです。でも、領主の動向がわかってきたので動けるなと。皆さん――」


 ラコが全ての出席者をゆっくり見回していった。

「この戦い、レオン・エレヴァントゥスによる戦いだと思っていませんか?」


「そうでしょう? 南から北に進撃する流れになっていますわ」

 ナディアがよくわからないという顔で言う。

「ええ。軍はそのように動きます。でも、これは海神神殿の荘園を奪還するための、海神神殿の戦いなんです。ということは総大将はもっと別にいい方が存在しますよね」


 ラコは地図のキンティー村の前にエレオノーラと書き込んだ。


「総大将は神官長のエレオノーラさんにやっていただきます。敵の領地を通らずにこちらに来てもらうぐらいのことはどうとでもなるでしょう。そしてエレオノーラさんがキンティー村の敵と睨み合っている間に私たちは、敵対してきた領主の村に攻め込んでやりましょう」


 ラコはいくつかの村に〇をつけていく。


「兵を出しているうちに自分たちの村が制圧されている、そんな話を聞かされたらキンティー村の敵兵も大混乱ですよね」

 話を聞いていた出席者たちはとんでもない作戦に混乱していた。


「あの……それって少数の別動隊をいくつも用意して村を制圧していけということですわよね……? 個別に撃破されるおそれはありませんの?」

 ナディアはリスクのほうが気になるらしい。俺も一緒だ。


「仮に一つの村で動員できる兵士の数を平均50としましょう。まさかキンティー村に10人しか兵を出さないというわけにもいかないし30人出すとして、残りは20人。皆さんの力なら、簡単に制圧できるでしょう?」

 ウォーマーが唾を飲んだのがわかった。緊張しているが、その作戦をやりたいと思ってるな。


「それぞれの領主の兵力や兵の割り振りはもう少し調べてみるつもりですが、後背地をいくつも落とされれば、領主連合は必ずあたふたします。この時点で勝負アリです」

「領地を守ろうと会戦から引き返してきた敵に壊滅させられたりしないよな……?」

「私たちに協力的な領主もいくつかあるので、そこの村に逃げ込めばいいんです。まあ、そこまで皆さんは弱くないですよ。その腕を存分に見せてあげてください」


 この軍師の言うことを信じるか。


「わかった。それでいく! もっと正確な情報を集めてくれ!」



 後日、俺はエレオノーラさんのところに向かい、作戦への協力を要請した。


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