8 小鳥とあやかしたち ➂
次の日の朝、覚悟を決めたはいいものの、龍騎との連絡の取り方がわからないことを思い出した小鳥は頭を抱えた。連絡先を交換しておけば良かったのだが、小鳥も龍騎も異性の友人がおらず、お互いに遠慮して聞きそびれていたのだ。
(妖怪を経由して返事をしてもらおうかな)
小鳥の部屋にも守り神はいて、代々受け継がれている紫色の小さな宝石だ。人の姿に変化しているのを見たことはないが、何とかしてくれるのではないかと小鳥が考えていると、どこからか座敷わらしのわこが現れた。
「おはよう、ことり」
「おはよう、わこちゃん」
小鳥が挨拶を返すと、わこはにっこりと微笑んだ。
「ことりはきょうはなにするの?」
「今日はお仕事なの。おばあちゃんは家にいるから一緒にお留守番をお願いね」
「わかった! こととあそんでまってる!」
こと、というのは小鳥の祖母の名で漢字で書くと『琴』だ。わこは自由に家の中を動き回れることが嬉しいらしく、上機嫌で扉をすり抜けて小鳥の部屋から出て行った。
喫茶店のオーナーには50代のニートの息子がおり、働けるのに働かないため、わこたちは彼のことが嫌いで彼に会わないように隠れていたのだ。
(座敷わらしがいるからニートでもやっていけるだけよね。オーナーさんが息子さんと別居したら座敷わらしも出ていくだろうから、息子さんも破滅だろうなあ)
そんなことを考えながら、小鳥は朝食をとるために部屋を出た。
******
その日、龍騎は先輩と一日外回りだったため、小鳥と顔を合わせることはなかった。
(社内メールを送ろうか……。いやでも、私用メールは良くないよね)
モヤモヤした気持ちで1日が過ぎた。仕事を終えた小鳥が制服から私服に着替えていると「ピーッ!」と耳元で鳴き声が聞こえた。目を向けると、小鬼たちがキラキラした目で小鳥を見ている。
「……もしかしてパフェを食べさせろって言ってる?」
「ピーッ! ピーッ!」
手を叩くものや飛び跳ねるものなど色々と反応は違っていたが、肯定しているのだということはわかった。
「しょうがないなあ。今日だけだからね」
「ピーッ!」
アルバイトをしたこともなく、初任給をもらっていない小鳥の財布事情は厳しい。でも、喜んでいる小鬼たちを見ると断ることもできなかった。
(買おうと思っていた雑誌、諦めないと駄目かなあ)
会社の外に出ると、日は沈みかけていて薄暗くなっていた。小鬼たちを連れて昨日の喫茶店に向かうことにした小鳥は、路地に入ったところで柔らかなものではあるが、全身を発光させている女性を見つけた。現代風の服を着ているが、手には提灯を持っている。
(えーと、なんだっけ。送り提灯? どうして人型になってるの? あと、これについて行っても目的地にたどり着けないんだっけ?)
「ピーッ!」
小鬼は小鳥の髪の毛を引っ張り、付いていくなと言わんばかりに違う方向を手で示す。
「大丈夫!」
頷くと、小鬼は満足したように小鳥の髪の毛を放した。小鳥は見なかったふりをして送り提灯の横を通り過ぎた。すると、送り提灯は小鳥の前に移動して違う方向に誘導しようとしてくる。
「ほらほら、こっちですよ~」
「道案内は間に合ってます!」
話が通じるかはわからないが、小鳥がきっぱり言うと鼻が低くのっぺりとした顔立ちの送り提灯は驚いた顔をした。
(しまった! 小鬼が戯れているだけで妖怪が見えているとは思ってなかったんだ!)
今さらだが見えないふりをして、早足で歩き出すと送り提灯が追いかけてくる。
「ま、ま、待ってください~! 私の姿が見えているんですよね~?」
「はい! 見えてます! 場所はわかっていますのでお気遣いなく!」
「お気遣いではなくお話があるんですけど~!」
「ごめんなさい! 急いでますんで!」
「用事が終わるまで待ちますんで話を聞いてください~!」
「ごめんなさい、無理です!」
(なんなの! 私に何の用事があるの!?)
結局、送り提灯は喫茶店まで付いてくると、小鳥と一緒に店内に入った。店内には人がおらず、オーナーに好きな席に座るように言った。
小鳥が以前、龍騎たちと話をした席に座ると、送り提灯は小鳥の向かい側の席に座った。
(どうして向かい側に座るのよ)
小鳥が呆れていると、送り提灯は「聞いてください~」と頼んでもいないのに話し始めたのだった。




