7 小鳥とあやかしたち ②
その日の晩は、すっかり小鳥に懐いてしまった小鬼たちと共に家に帰ることになった。龍騎が送ってくれると申し出てくれたが、ご近所さんに見られたら、どんな噂を立てられるかわからないため丁重にお断りした。
「良い返事を期待しているわよ」
去り際にいきしはそう言って笑っていた。その時の様子を思い出して小鳥はため息を吐く。
「あの顔は期待しているではなくて、良い返事しかいらないという顔にしか見えないんだよね」
小鳥は実家住まいで、実家は会社から十数駅離れた場所にある。家は駅から徒歩5分で住宅街の中にあるが、遅い時間は人通りが少ないため、女性の一人歩きは少し不安だ。
でも、今日の小鳥は怖くなかった。龍騎に頼まれた送り犬のポチや小鬼たちが一緒だからだ。
送り犬というのは各地によって狼だったり、伝承が違っている。ポチは犬で龍騎によく躾けられており、目的地まで無事に送り届けてくれる妖怪だ。
カフェでねだられた小鳥は、ポチが犬の外見をしているので、チョコレートをあげても大丈夫か龍騎に確認してみた。大丈夫だと言うのであげてみると、小鳥を気に入ったようでお腹を見せてくれただけでなく、今も尻尾を振りながら横を歩いている。
(こんなところを家にいる妖怪たちに見られたら怒られそうだし、小鬼たちにも家の前で別れてもらわなくちゃ)
帰る道中に、カフェでの話を聞いた他の小鬼たちが自分にも食べさせてほしいと列をなして付いてきているのが気になる。
(困ったなあ。付いてこられても今日は絶対に無理なんだけど。家にチョコレートはあったっけ)
と心配になっていた小鳥だったが、妖怪にも縄張りがあることと、小鳥の家の中には守り神がいるため、小鬼たちは家の中までは入ってこなかった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
出迎えてくれた母に応えたあと、小鳥は自分の部屋に向かった。
今、この家に住んでいるのは小鳥と小鳥の母と祖母だけで、父はいない。小鳥が妖怪が見えると言うと怖がって別居生活を選んだのだ。父が離婚をしないのは、妖怪が怖いだけで小鳥のことも母のことも愛しているからだが、小鳥にしてみれば複雑な気分でもある。
荷物を置いて居間に向かうと、まだ出しっぱなしだった炬燵で祖母が寝転んでいた。小鳥の姿を見ると、祖母はゆっくりと体を起こした。
「小鳥ちゃん、おかえり」
「ただいま、おばあちゃん」
「今日はたくさん妖怪と触れ合ったみたいだね」
「どうしてわかるの?」
横に座って尋ねると、祖母は笑う。
「小鳥ちゃん、後ろを見てごらん」
「えっ? うわっ!」
言われるがままに振り返り、小鳥は声を上げた。そこには喫茶店で出会った赤いちゃんちゃんこを着た黒髪おかっぱの座敷わらしが笑顔で手を振っていたからだ。
「ど、どうしてここに!?」
「あたしはこううんのそんざいだから、ここにすんでよいっていわれたんだ。これからよろしくね」
座敷わらしは小鳥に近づいてくると、握手を求めてきた。
「よ、よろしくお願いします」
握手をしていると、小鳥の晩御飯をお盆に乗せてやって来た母に見られてしまい、小鳥は今日の出来事を最初から話すことになったのだった。
******
座敷わらしの『わこ』は喫茶店の奥にあるオーナーの家に住んでいた座敷わらしだった。今は彼女の相棒である男の子の姿をした『らお』が残っている。
ちなみに名前をつけたのはいきしで、由来は深く考えておらずインスピレーションらしい。
わこは小鳥の家にいる妖怪たちよりも格が上なので、みんなに歓迎されていたし、座敷わらしは幸運の象徴でもあるので祖母も母もとても喜んだ。
あやかしのお助け屋の仕事については二人とも難色を示していたが、座敷わらしたちが龍騎の人柄を認めていることを知り、最初は助手見習いとしてやってみることにすれば良いのではないかという話になった。
(せっかく妖怪が見えるんだもの。何かの役に立てるなんて素敵なことよね)
龍騎の手伝いをすることは仕事が休みの日がメインなので、一緒にいる所を会社の人に見られたら最悪だ。でも、小鳥が仕事を手伝うと思い込んで喜んでいた小鬼たちをがっかりさせたくなくて、小鳥は腹を決めることにした。




