66 愛で人が変わらない時もある
『あやかし』から出る前に龍騎たちがやって来たため、土蜘蛛は自分の手柄をいきしにアピールしたが、やり過ぎだと怒られて終わり、礼は言われたものの店から追い出された。『あやかし』に出入りする妖怪の多くは土蜘蛛を嫌っており、営業妨害にもなるからだ。
しばらくして目を覚ました誠は、いきしに土蜘蛛との関係を尋ねた。
彼とどうこうなるつもりはないが、自分に付きまとうなら彼がまた目の前に現れるだろうといきしが答えると、誠は情けない顔になった。
「君が僕と付き合うと言えば、僕はどうなるんだ?」
「絶対とは言わないけれど、痛い目に遭わされるでしょうね。というか、命を失うことになるかもよ」
その言葉を聞いた誠は「あんな野蛮な男と関係がある女なんて御免だ」と言って『あやかし』を去っていった。
少しして、静かになった店内の沈黙を破ったのは小鳥だった。
「これで諦めて大人しくなってくれるんでしょうか」
「そうね。あの様子だと、鬼化もしないでしょうし、あたしのことは諦めざるを得ないはずよ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
不思議そうに尋ねた小鳥に、いきしは笑顔で答える。
「土蜘蛛の見た目だと、反社会的勢力と繋がっていると勘違いされてもおかしくないでしょう」
「……全ての人がそういうわけではないでしょうけど、そう思う可能性が高いですね」
(見た目も口調も、お話に出てくるチンピラそのものだもの。誤解したっておかしくないわよね)
社会に出れば色々なファッションがあると知っていくものだが、誠は何十年も引きこもり、自分の見たい世界しか見ないため、知識が浅かった。
「あいつは自分が一番可愛いんです。ですから、いきしさんのことも今日限りで諦めることでしょう」
オーナーの予想通り、この日から誠はいきしを諦め、また元通りの生活に戻ったと思われた。
だが、もう彼を世話していた父親は同じ家にいない。近いうちに『あやかし』にやって来るだろうと話をしていた頃、小鳥にとっては大事件が起きた。
それは、龍騎の元婚約者が彼が担当している営業先の窓口担当になったことだった。




