62 土蜘蛛とライバル ①
今日は土曜日で約束の日は明日だったが、龍騎たちは誠の件が気になって『あやかし』に向かっていた。
「いきしが急に走り出したから、何かあったのかとは思ってたんだが、そんなことが起こってたんだな。来るのが遅くなってごめん」
あやかしで龍騎と合流し、事の経緯を話すと龍騎は眉尻を下げて小鳥に謝った。
「龍騎さんが悪いわけではないので気にしないでください。いきしさんに助けてもらえて私は無事でしたし!」
「呑気なことを言わないでよ。あたしが来るのが遅かったら、あんたもっと嫌な思いをしていたかもしれないのよ?」
「そうなんですが、あれくらいのことなら自分で対処しないといけないかなと思いまして」
「ピピーッ!」
心配そうに近寄ってきた小鬼を撫でながら、小鳥は続ける。
「小鬼たちも助けてくれましたし、その間に逃げることもできたのかなって」
「逃げても追いかけてくるだろ」
「何十年も引きこもりの人が相手でしたら、さすがに私の体力でも勝てると思うんですよ」
「体力勝負に持ち込むつもりか」
「ピー」
呆れた顔をする龍騎と心配そうに声を上げる小鬼を見た小鳥は、苦笑して答える。
「誰にも助けを求められない時はそうしようと思いますが、小鬼たちもいますし、やっぱり無理はしないようにします。それから、いきしさん、改めて助けていただきありがとうございます」
「あんたを巻き込んでしまってごめんなさい。あの男が懲りないようならあいつに出てもらうわ」
「あいつ?」
小鳥が聞き返すと、いきしは大きなため息を吐いて答える。
「土蜘蛛よ。あいつ、あたしのことが好きだから、ライバルが現れたなんて知ったら、相手が人間でも脅しをかけるに決まってるわ」
「いきしさん、さすがに……」
(土蜘蛛は人間を食べようとしていたし、勢い余ったふりをして食べたりしないよね?)
話を聞いていたオーナーも小鳥と同じことを考えたのか、困った顔で話しかけると、いきしは微笑む。
「心配しないで。殺したり食べたりしないように伝えておくわ。あいつが脅してくれたら、素直に諦めてくれるかもしれないし、それは良いかしら?」
(土蜘蛛が相手となると心配だなあ)
これまた小鳥の言葉を代弁するように、龍騎が渋い顔で言う。
「土蜘蛛は信用できないんだが」
「あたしだって信用しているわけじゃないわよ」
「ならやめておけよ」
「あたしが忠告しておいたほうが、土蜘蛛も馬鹿なことはしないでしょう」
このまま土蜘蛛に何も言わないままなら、何らかのきっかけで彼が誠の気持ちを知った時、怒りに任せて彼を食べようとする可能性がある。
いきしは自分が関与しておくことで、危害を加えることはあっても食べないようにさせるつもりだった。
「息子が迷惑をかけてしまい申し訳ございません」
深々と頭を下げるオーナーの表情が疲れ切っているように見えて、複雑な気分になっていた小鳥の元に、自由にさせていたシロが近寄ってきた。
「シロ、今日はびっくりさせてごめんね。ぽちも助けてくれてありがとう」
シロとぽちの頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振った。
「のら子さんのほうを先に動こうかと思っていたが、誠さんの件をどうにかしたほうが良さそうだな」
龍騎が呟くと、いきしは真剣な表情で頷いた。




