6 小鳥とあやかしたち ①
「人間を助けるんじゃなくて、あやかしや妖怪を助けるの」
いきしの言葉を小鳥は念押しするように尋ねる。
「人間が妖怪に困らされていて、そのトラブルを解決するのではなくて、困っている妖怪やあやかしを助ける、ということですか?」
(迷惑をかけているのは妖怪のほうじゃないの?)
小鳥の疑問に龍騎が答える。
「そういうことだな。人間から相談されることはほぼない。俺たちも妖怪が見えることを口にしないし、妖怪が見える人間も滅多にいないってのもある」
「……そうですよね。私も家族以外で妖怪たちが見える人間は神津さん以外に会ったことはありません。他にも見える家系があるのかもしれませんが、代々、内緒にしているんでしょうね」
自分の家系がそうしていたこともあり、小鳥にはすんなりと納得できた。
(妖怪が人間のせいで困るってどんなことなんだろう。妖怪って好き勝手やっているイメージが強いんだけど……)
小鳥には紅茶、龍騎にはコーヒー、いきしにはジョッキに入った巨大なパフェが運ばれてきたので、話は一度そこで中断された。
「ずっと食べてみたかったの! うーん、おいしい!」
いきしはソーダスプーンを手に取り、高く積まれたチョコレートパフェの一番上に乗っているバニラアイスをすくって食べて、幸せに浸っている。
(このパフェってジョッキパフェなんじゃないの? 細いのに一人で食べれるのかな。……って、あやかしも人の食べ物を食べるんだ)
紅茶を飲みながら、幸せそうにパフェを食べているいきしを見つめる。
(考えてみたら、神様へのお供えも食べ物だし、妖怪が人の食べ物を食べてもおかしくないか)
一息ついてから、小鳥は龍騎に話しかける。
「あやかしのお助け屋というのは、具体的にどんなことをしているんですか?」
「そのままだよ。助けてくれと依頼があれば動いて、上手く対処する」
「たとえば、どのような依頼があるんでしょう」
今の小鳥は恐怖心よりも好奇心のほうが勝っていた。いきしはそんな小鳥に気がついてニヤニヤしているが、当の小鳥は龍騎に質問することに必死だ。
「色々だな。簡単に解決できるものと言ったら、心無いやつに落書きをされたから綺麗にしてほしいとかだが、物騒なものもある」
「物騒なもの?」
聞き返してから、小鳥は根本的なことを思い出す。
「……あの、そういえば、どうして私にそんなお話を持ちかけてくれたんでしょう?」
「龍騎は顔が良すぎて男性型のあやかしには好かれないのよ」
龍騎の代わりにいきしは答え、からからと笑う。
「龍騎の顔の良さに嫉妬しちゃうあやかしもいるの。代わりにあたしが相手をしようとすると力の弱い妖怪たちは怖がるし、話が中々進まない時もあるのよ」
「そうなんですね」
旅館の若女将のような美しい見た目なのに、パフェを食べるのは下手くそなようで、口の周りはチョコレートだらけだ。
(口の周りに付いているチョコレートが気になる)
つい、いきしの口元を凝視していると、いきしは微笑む。
「小鳥も食べたいの? 半分こしましょうか」
「えっ、あ、いえ」
(嫌いじゃないけど、量が多すぎて食欲が失せてる!)
正直に答えようとした時、耳元で「ピーッ」という小鬼の鳴き声が聞こえた。小鳥が目を向けると、小鬼たちは小鳥の肩の上に立ってパフェを羨ましそうに見ている。
「パフェが食べたいの?」
「ピーッ! ピーッ!」
食べたいと訴える小鬼たちを指差しながら、小鳥はいきしに頼む。
「この子たちに食べさせても良いですか?」
「かまわないわよ。それに、そこにいる白い犬と黒い猫も食べたがってるわ」
「え?」
慌てて、いきしの視線の先を追うと、しっぽが二つに分かれている黒い猫と『送』と眉間のあたりに黒く記された白い中型犬が、小鳥のすぐ近くに座っていた。
(ねこまたと送り犬? たしか、送り犬は良い妖怪だと言われていたわね)
二匹は小鳥と目が合うと、期待の眼差しを向けてきた。
「あ……、はい。あの、この子たちにもパフェを分けてあげてもらえ」
「あたしもたべたい!」
「ぼくもたべたい!」
小鳥の隣の席は空いていたのだが、いつの間にか赤いちゃんちゃんこを着た、5歳くらいの女の子と縞模様の入った黒の着物を着た男の子が並んで座っていた。
(も、もしかして座敷わらし? 情報量が多すぎて頭がパンクしそう!)
「大丈夫か?」
「……は、はい。ただ、色々な事がありすぎて、頭が追いつかないと言いますか」
「とにかく今日は家に帰って家族と相談してくれ。断ってもかまわないから」
「ありがとうございます」
小鳥は心配してくれた龍騎に軽く頭を下げたあと、食べさせろとねだってくる妖怪たちの相手をすることにしたのだった。




