59 思い込みが激しい男 ③
その日、家に帰った小鳥は早速、龍騎にメッセージを送った。依頼の話はたまたちが直接伝えていると思ったが、龍騎と連絡を取りたいという気持ちが勝った。
(好きなんだろうなあ)
リビングのソファで扇風機に当たりながら、小鳥はしみじみ思った。
好きになってはいけないと思うほど、龍騎が気になって仕方がない。会社でも気を抜けば、彼がいないか探してしまう自分がいることに気づき、小鳥は龍騎への恋を自覚した。
「まさか、こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった」
膝を抱えて呟くと、小鬼が近寄ってきて「ピー!」と鳴いた。体を大きく傾けているから、どうしたの? と聞いているのだとわかった小鳥は苦笑して答える。
「ごめんね。独り言だよ。そういえば、今日は仲間がいないのね」
いつもなら小鳥の近くには十匹以上の小鬼いるのに、今日は五匹しかいない。
「ピー!」
小鬼は器用にスマートフォンのロック画面を解除し、メッセージアプリを立ち上げて、何やら文章を書き始めた。
『オーナーのむすこが、のっぺらぼうがいたって、けいさつにつうほうしたんだ』
「ええっ!? 警察に?」
(SNSに発信するならまだしも、警察に行ったの? イタズラだと思われるだけでしょう!)
『これいじょう、けいさつにめいわくをかけられないから、こうたいでみはるようにたのまれたんだよ。おにになってもだめだし』
「……鬼になる可能性があるの?」
『まことは、おもいやりのせいしんがないんだよ。だから、じぶんのおもいどおりにならないことをいらだってる』
(オーナーの対応のことかしら。それとも、いきしさんが現れないことに苛立ってる? どっちにしてもオーナーもいきしさんも悪くないわ)
小鳥が考えている間も、小鬼は一生懸命腕を動かし続ける。
『まことは、りゅうきとことりがいじわるして、いきしにあわせないとおもいこんでいるから、ぼくたちはことりをまもるためにがんばるんだ!』
「「「「ピー!」」」」
おー!
と言わんばかりに、残りの小鬼たちが右腕を上げた。
「ありがとう、みんな」
小鬼たちに感謝していると、龍騎からメッセージが届いた。先ほど、小鳥が送ったメッセージについての返信と、今週の休みの予定を聞いてきていた。
特に予定もなかったので、空いていることを伝えると、日曜日に誠の件よりも先に、のら子の悩みを解決するという連絡がきた。のら子には悩み事があったので『あやかし』を訪れていたからだ。
誠の件も放置して良いものでもないため、明日の夜に『あやかし』で待ち合わせは可能かと書かれていた。
小鳥は久しぶりに龍騎に会えることは嬉しかったが、いきしがどうしているかも気になった。
いきしに連絡を入れてみると『あたしは元気よ。外に出たいけれど、あいつの顔を見たくないから我慢しているの』
姿を見せなければ、誠に絡まれることはないが、いきしはどうしても誠の姿を見たくないようだった。
『龍騎も言っているんだけど、誠も桐谷と同じく逆恨みするタイプだと思う。小鬼や送り犬を付けるけれど、十分に気をつけなさい』
小鳥がわかりましたとメッセージを返した時、キッチンから「きゃあっ!」と母の悲鳴が聞こえてきた。
(まさか、オーナーの息子さんが嫌がらせとか!?)
「お母さん!」
小鳥がキッチンに向かうと、そこには満面の笑みを浮かべた母と、真っ白な子犬を抱いたわこがいた。
「あ、ことり! きょうからことりのごえいをする、ぽちのこどものしろだよ」
「小鳥! 見て! 可愛い!」
犬好きの母は子犬を見てメロメロになっている。
真っ白な長毛にくりくりした黒い目を持った子犬は、わこの腕の中で「よろしくね」と言わんばかりに「キャン!」と鳴いたのだった。




