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あやかしのお助け屋の助手を始めました  作者: 風見ゆうみ


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58   思い込みが激しい男 ②

「最悪だにゃん! いきしのせいでみけたちの安息の場がなくなったにゃん!」

「そうにゃ! 責任を取ってほしいにゃん!」


 夏が近づき、暑さを感じる季節になってきたある日のこと。久しぶりに仕事が定時で終わり、無性に冷たいものが食べたくなった小鳥が『あやかし』に足を踏み入れると、猫又たちから愚痴を聞かされた。


(そういえば、オーナーの息子さんがいきしさんに一目惚れしてから、もう十日くらいだったんだっけ)


 仕事が忙しかったため、すっかりそのことを忘れてしまっていた。龍騎もプライベートが忙しいらしく、お助け屋の仕事も来月までお休みだ。

 龍騎は美鈴とは違い外回りが多いため、直行直帰が多い。


(最近、龍騎さんに会えてないな。だから、いきしさんもここに来れないんだよね)


 龍騎といきしに頻繁に会っていただけに、仕方がないとわかっていながらも寂しさを感じていると、店に送り提灯のちょう子が入ってきた。


「なんか、変な人が店の周りをウロウロしていましたよ~」

「ちょう子さん、お久しぶりです!」

「あ! 小鳥さん! お久しぶりです~!」


 小鳥が忙しいこともあり、ちょう子は遠慮して小鳥に会いに行くのを控えていたため、久しふりの再会だった。


「近いうちにちょう子さんに会いに行こうと思っていたんです!」

「そうだったんですね~。嬉しいです~!」


 二人で再会を喜び合っていると、たまが尋ねる。


「変な人が周りをウロウロしているって言ってたけど、追い払ってきたら良いかにゃん?」

「大丈夫ですよ~。のら子さんが追い返してくれましたから~」

「……のら子さん?」


 初めて聞く名前だったので小鳥が聞き返すと、話を聞いていたオーナーが答える。


「のっぺらぼうののら子さんですよ。普段は若い女性の格好をしておられます」

「のっぺらぼう!」


 ポピュラーな妖怪なので、小鳥もすぐにピンときた。


(たしか、若い女性のふりをして、男性を驚かすことが多いんだっけ)


 扉が開き、漆黒の艶のある長い髪を背中に垂らした、和服姿の女性が入ってきた。といっても体形が女性らしいだけで顔では判断できなかった。

 のっぺらぼうの顔には目も鼻も口もなく、恐怖心のない子供ならヘノヘノモヘジと落書きしたくなりそうな綺麗な顔面だ。


 肌がツルツルなのを見た小鳥は、少しだけ羨ましいと思った。


「はじめまして。千夏小鳥といいます」


 小鳥は椅子から立ち上がって自己紹介をすると、のっぺらぼうはペコペコと頭を下げるだけだ。

 不思議に思った小鳥に、ちょう子が説明する。


「のら子さんは口がないから話せないんですよ~」

「あ、そうですよね。ごめんなさい!」


(そうだった! 口がなかったら声を出せないよね。……目がないのにどうやって見えているんだろう)


 疑問を感じながらも謝った小鳥に、のら子は首を横に振ると、和装バッグの中からメモ帳とペンを取り出した。


『気にしないでください。わたしはのら子です。よろしくお願いいたします』

「よろしくお願いします!」 


 小鳥がちょう子から詳しい話を聞いてみると、のら子は目はないが心眼で物事を見ているということだった。

 『あやかし』の周りをウロウロしている、怪しい中年男性がいたので脅かしたという話を聞いて、小鳥にはそれが誰だかわかった。


(オーナーの息子さんだわ。あの人がいる限り、妖怪たちはここに来にくくなる。どうにかしなくちゃ)


「龍騎にあいつを追っ払ってもらうようにお願いするにゃん」

「あやかしのお助け屋に依頼するわけですね~」

 

 たまの言葉を聞いたちょう子が小鳥を見て続ける。


「相手が男性ですから、小鳥さん一人では危険ですからね~」


(一人で頑張ってみようと思ったけど、やっぱり駄目だよね)


「はい。ちゃんと龍騎さんに相談します」


 小鳥は苦笑して頷いた。

 

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