57 思い込みが激しい男 ①
「いきしさんとオーナーの息子さんって会ったことがなかったんですね」
「姿を消している時に会ったことはあるから、見たことはあるけどね」
小鳥の問いかけにいきしが頷くと、龍騎が苦笑して話し始める。
「俺がオーナーと知り合った頃にはあの人、基本は部屋から出てこなかったし、あやかしたちはあの人のことを嫌ってるからな」
不機嫌そうないきしを見ながら、小鳥は頷く。
「あの人が来るかもしれない、ここにも来たくはないんでしょうけど、ここにいるあやかしはみんな、オーナーが大好きだから、その気持ちが勝ってるんですよね」
「そうだな。イタズラ好きな小鬼でさえオーナーにはしないしな」
(そう言われてみればそうかも。私や龍騎さんで遊んだりはするけれど、オーナーにはそんなこともしないもんね)
オーナーにはあやかしは見えない。
だから、小鬼がイタズラをしても、龍騎や小鳥のように叱ったりすることができない。
やりたい放題できるはずなのに、小鬼が何もせずに懐いているということは、オーナーはとても心が綺麗な人間だということだ。
「ピッ!」
しないよ、と言わんばかりに小鬼たちは線のような腕を上げた。
「あやかしが嫌っているということは、今は誰も息子さんを監視していないんですか?」
「みたいだな」
「ピー」
小鬼はぶるぶると体を横に振って訴えているが、小鳥には何を言おうとしているのか、 まったく見当がつかない。
「ごめん。私はまだ小鬼の話していることがわからないんだよね」
「あんな奴に近づきたくないって言ってるにゃん」
苦笑する小鳥に、たまが毛づくろいをしながら言った。
「オーナーの周りにはあやかしがいるから、危険を察知したら連絡をもらえるし、その前にあやかしたちが彼を何とかすると思う」
「……そうですね」
(姿を消せることを良いことに偶然を装って、色々と痛い目に遭わせるんだろうなあ……)
想像して苦笑していると、いきしは大きなため息を吐く。
「辛いことがあったから逃げ出したり、楽な道を生きることが悪いとは思わないわ。だけど、自分では何もせずに他人に頼ってばかりの人間は嫌いなのよ」
いきしは不機嫌そうな顔で言うと、オーナーに声を掛ける。
「なんだかヤケ食いしたい気分だから、巨大パフェをちょうだい! 代金は龍騎に請求してね!」
「承知いたしました」
「しょうがねぇな。今回だけだぞ」
龍騎が呆れた顔をしていきしに言うと、彼女は満足そうに微笑む。
「ありがとう。でもね、これからあんたは大変だと思うわよ」
「どういうことだ?」
「だって、あたしが人間の姿でいる時は、あんたが近くにいるわけだし、人間の設定では私はあんたの親戚なのよ」
「……ということは、いきしさんに会わせろと言ってくる可能性があるということですね」
いきしの言おうとしていることがわかった小鳥が補足すると、龍騎は苦虫を噛み潰したような顔になった。
そして、この日から誠はいきしに会おうと妖怪が見える『あやかし』ではなく、普通の人間にしか見えない『まぼろし』に通ってくるようになるのだった。




