55 恋人と親友 ③
結局、龍騎とのデートはまたもや中止になった。改めて二人で出かける話はしているが、具体的な日にちが決まっているわけでもない。
(縁が無いって言われているみたいで嫌だな)
その日の晩、ベッドの上でもやもやした気持ちでいると、美鈴から電話がかかってきた。
「今日はほんまにごめんな!」
「気にしなくていいよ それよりも大丈夫だった?」
「別れるって言うたら人前で大声で泣き出すもんやから、ほんまに困ったわ。今回は保留にしておいたけど条件つけてん」
「条件?」
「うん。小鳥に逆恨みとかしたら嫌やし、小鳥や神津君とかが危険な目におうたら、どんな状況であっても犯人があんたやと思って、問答無用で別れるって言うた」
「……ありがとう」
(これで私や龍騎さんに何かしようという馬鹿な考えが消えてくれているといいんだけど……)
桐谷のことは小鬼たちが引き続き見張ってくれているので、美鈴にも危険が及ぶことはないだろうと判断し、小鳥が礼を言うと、美鈴が彼女に尋ねる。
「あの時、結局聞けずじまいやったんやけど、神津くん、自分のこと小鳥って呼んでたやんな?」
この場合の自分というのは小鳥のことだ。以前、美鈴に『それ自分でやるし、自分はそっちやっといてくれへん?』と言われたことがあった。
混乱していると、それは美鈴がやるから、小鳥はそっちをやってほしいという意味だったと教えてくれた。
『自分』の使い方が話の内容によって変わってくると知った小鳥は、今回の『自分』は小鳥のことだと判断できた。
「よ、よく覚えてたね」
「忘れるわけないやん! そりゃあ、彼氏に怒り狂ってたから、そん時は忘れてたけど冷静になったら思い出すやん!」
美鈴が興奮していることは、電話越しからでも伝わってくる。
「別に深い意味はないんだけど、仲良くなったから小鳥と龍騎さんって呼び合うようになったんだ」
(これは嘘じゃない。詳しい話をしないだけだよね)
ちょっとした罪悪感を感じつつも小鳥が言うと、美鈴のがっかりした声が聞こえてくる。
「付き合い始めたんかと思ったけど残念。でも、良い感じに進んでるんやね」
「うん。気にしてくれてありがとう」
「余計なお世話にならん程度に気にするわ。やから、言いたくないことは言わんでええからね」
「ありがとう。美鈴も桐谷さんのことを忘れられないんだったら」
「嫌な意味でいえば忘れられへんかもやけど、恋人としてはないわ! 別れたらとっとと忘れる」
きっぱりと宣言した美鈴に小鳥は笑ったあと、夜も遅いこともあり、二言三言交わして電話を切った。
(友達なんかそっちのけで彼氏を優先してた子がいたけど、その子とはまったく違うんだな)
親友と彼氏、どちらが大事でも間違ってはいない。彼氏優先で動く友人とは疎遠になっているので、小鳥としては美鈴とはそんな関係にはならないだろうと思って安堵した。
(彼氏が大事なのはわかる。だからといって友人を大事にしないのは違う気がするんだよね)
人には色々な考え方がある。小鳥の考えだって数多くある中の一つの考え方だ。
(私は彼氏も親友もどちらも大事で、優先しなければならない時はケースバイケースといった感じになりたいな)
ベッドに寝転がった小鳥はそんなことを思った。
次の日の朝、小鬼がやって来て、文字を打てる小鬼に「ピー」と話しかけた。すると他の小鬼が小鳥のスマートフォンを使って通訳してくれる。
『きりやは、はんせいしているみたい』
「そっか」
(人に当たるんじゃなくて、普通の人生を歩んでくれたらいいんだけど)
小鳥は心の中でそう考えたあと、報告してくれた小鬼や他の小鬼たちに、スイーツを食べさせてあげることにした。




