53 恋人と親友 ①
「ほんまにそんなこと言うたん?」
美鈴はまだ信じられないといった様子で桐谷に尋ねた。
「言うてないって。この人が嘘ついてるだけやって」
「嘘じゃありません。この人の言う通り、私はあなたにそう言われました」
フードコートには多くの人が集まっているため、少しくらい大きな声を出してもそう目立たないはずなのだが、龍騎といきしのルックスのせいで、周りの視線は小鳥たちに集まっていた。
すると、小鳥たちが座っているテーブルの左隣の若い男女が美鈴に話しかける。
「すいません。聞くつもりなかったんですけど、ここ席が近いからどうしても聞こえてしまって」
男性は謝ったあとに続ける。
「こっちの人、言いたい放題言ってましたよ。こちらの女性が彼女さんに言うって言ったら、どうせ信じないみたいなこと言ってました」
連れの女性は無言ではあるが、男性の言葉を肯定するように何度も頷いた。桐谷はこんな展開は予想していなかったのか、小さく舌打ちをすると苦笑する。
「そんなん冗談に決まってるやん。何を本気にしてんのさ」
「……冗談やて?」
美鈴の声色がいつもよりも低いことに気づき、小鳥は目を見開いて彼女を見つめた。
「そんな怒らんといてや。本気にするなんて思わへんやん」
「本気にするわ、ボケ!」
可愛らしい顔を歪めた美鈴は桐谷の襟元を掴んで続ける。
「こっちに知り合いおらんから寂しくて逃げ出したくなった時に仲良くなったんが小鳥や。小鳥にとってはうちはただの同期やったかもしれんけど、仲良うしてくれてほんまに嬉しかったんや! 彼氏やったらそのことに感謝するべきちゃうんか! それやのに失礼なことばかり言いよって!」
「ま、待ってぇな。俺の話も聞いてぇな。今まで一緒におった美鈴が近くにおらんなって、俺も寂しかったんや! それやのに電話してても千夏さんの話ばっかりするから」
「うちが小鳥の話ばっかりするから小鳥を馬鹿にしても良いって言いたいんか? そんなふざけた理由あるかぁ!」
(美鈴は京都の南に住んでたから、大阪弁に近いって言ってたけどすごいなあ。早口で聞き取れない)
「ご、ごめんて」
ここまで怒っている美鈴を見るのは初めてなのか、桐谷は今にも泣き出しそうな顔になった。
「ごめんで済んだら警察いらんねん!」
美鈴は桐谷を一喝すると、小鳥と龍騎には申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめん。こっちから誘っといてなんやけど、今日のデートは中止してもええかな」
「こっちはかまわないけど大丈夫か?」
「うちらには気ぃ遣わんといて! ほんまごめんな。小鳥、あとで連絡してもいい?」
「う、うん!」
小鳥が頷くと、美鈴はテーブルに置いていたトレイを持って桐谷に命令する。
「ここのテーブルは小鳥たちが使うから、あたしらは移動すんで」
「は、は、はいっ」
涙目になった桐谷は料理ができたと知らせるベルがテーブルの上で鳴り響いているにもかかわらず、先に歩く美鈴のあとを追いかけていった。




