52 親友の彼氏の思惑 ⑤
苛立つ気持ちを抑えて、小鳥は桐谷に尋ねる。
「鬱陶しいと思っていたらダブルデートなんて提案しないんじゃないですか? あなたが何をしたいのかわからないんですけど」
「何がしたいって? 美鈴の話題に君があがらないようにしたいんや」
「別に友人の話をしてもおかしくないでしょう」
「美鈴には俺のことだけ考えてほしいんや!」
桐谷は声を荒らげたあと、すぐに冷静になって美鈴の姿を探す。彼女は商品を受け取り、カトラリーをトレイに載せているところだった。
「美鈴を束縛したいってことですか」
「……なんとでも言えばええよ。とにかく、君は神津くんのことは諦めて他にいきぃや」
「どういうことですか」
(何が言いたいのか、さっぱりわからないんだけど!)
「君に彼氏ができれば美鈴の心配事も消えるやん」
「それで美鈴が私の話題をしなくなるって言いたいんですか? 美鈴に普通に興味ないって言えばいいじゃないですか」
「そんなん言ったら嫌な奴やん」
「そう思うんなら聞き流せばどうですか」
「とにかく、君みたいな子はあかんわ。神津くんにはもっとええ人がおる」
(それは間違ってないけど、この人に言われる筋合いないよね!)
小鳥は大きなため息を吐いて尋ねる。
「私があなたの本性を美鈴に話さないと思っているんですか」
「言うてもええけど信用せぇへんと思うで?」
ニヤニヤと笑った桐谷だったが、龍騎と美鈴が近づいてきていることに気づき、表情を柔らかなものに戻した。
「まだ二人とも呼び出されてないん?」
うどんの載ったお盆を置き、笑顔で話しかける美鈴に桐谷は笑顔で頷く。
「そやねん。時間かかるって言われてたし、しゃあないね」
「小鳥、どうした」
小鳥の表情が厳しいことに気がついた龍騎が尋ねると、先に美鈴が反応すした。
「え? なんで小鳥呼び? もしかしたら、二人とも付き合い始めたん!?」
笑顔の美鈴に小鳥は冷静に答える。
「……付き合ってないよ。美鈴の彼氏にはあかんって言われたし、付き合うこともない」
「……どういうこと?」
美鈴が眉根を寄せると、桐谷が笑い飛ばす。
「そんなこと言うわけないやん。勘違いしてるんちゃう?」
「勘違いなんかじゃありません!」
小鳥が強く言い返した時、隣の席から声がかかる。
「この人、小鳥みたいな子は駄目。龍騎にはもっといい人がいるって言ってたわよ」
聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、小鳥たちのいる横の席にはいきしが座っていた。
「な、なんなんいきなり。あんた部外者やろ。勝手に話題に入ってくんなや」
桐谷がいきしを睨みつけると、彼女も負けじと睨み返す。
「あたしは小鳥の友達なの。友達のことを悪く言われたんだから口出ししたっていいでしょう!」
「友達?」
「もし、それが本当だったとしたら大きなお世話なんすけど」
桐谷が聞き返した時、背後から現れた龍騎が不機嫌そうな顔をして言った。
桐谷は椅子にふんぞり返って座るいきしと、料理の載ったトレイを持ったまま見下ろしている龍騎を交互に見つめる。
そんな桐谷の周りに漂っていた黒い靄がより濃くなったことに、小鳥は気がついた。




